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潮騒(中)

一日目は島をほぼ一周した。約25km、途中、山を駆け登ったり、
真っ直ぐな見晴らしの良い道をダッシュしたりという、変化走だった。
島の道はアップダウンがキツく、ジョギングしているだけでもハード。
おまけに全行程中日陰は3割ほど。夏の終わりとはいえまだまだ暑く、
本当にキツかった。

「おつかれさまでした!」
午後4時、練習終了。海辺、海水浴ができる小さな入江。走り終えた人から、
自由に海で泳いで良いことになっていた。
私は、まずシャツと靴とソックスだけ脱ぎ、そのまま海へダイブ。
「きもちいい!」
海の水は、本州沿岸とは比べものにならないほどキレイで冷たかった。

ランパンのままでは泳ぎづらい。
先に走り終えた女子たちは皆水着に着替えている。ハイレグタイプの競泳水着。
皆走ることでシェイプアップされ、美しい体をしている。
私は、ブーメラン型とボックス型の競泳水着を用意していたが、
彼女たちのアスリート然とした水着姿に倣い、ブーメラン型を穿くことにした。

先生は…。ランニング用スパッツのまま泳いでいた。
ランパンのように無駄な水が入り込み泳ぎづらいことはないから、
着替える必要はないのだろう。あるいは最初からこの状況を想定して
スパッツを穿いていたのかも知れない。
裸になり、暑い胸板、盛り上がった肩が露わになった。
筋肉の上に薄ら脂肪の乗った腹。ジムトレでないスポーツをしてきたんだろうな
と思わせる背中、首…。カッコよかった。バランスのとれたアートだと思った。

走りの疲れを癒すため、私はゆっくりと泳いだ。
水中で、岩場にもたれ休んでいる先生の股間が見えた。
ソフトボールが入っているような、相変わらずの見事なシルエット。
私が近くを通過する時、股間を手で揉んでいるように見えた。
まさか? 気のせいだよな。きっと…。

海で泳いだ後宿泊先のホテルに行くと、小さな問題が起きていた。
私が泊まるはずの部屋がダブルブッキングされていたのだ。
コーチは元からこちらの知人宅に泊まる予定だったそうで、
男一人、私が泊まる部屋がない状況が生じていた。

「よろしければ、ウチに泊まってください」
先生が申し出た。「狭くて汚いところですが、ちょうど連休で妻も子もいないんで」。
重複予約している部屋の、一方は私一人、
もう一方は家族連れ。ここは私がYESというのがこの状況を収束させる
最良の方法だろうと思い、そうすることにした。宿の担当者はしきりに恐縮していた。

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