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知能検査の話はどこまで公開していいかについて考えてみた臨床心理士の話

※公開後に内容を直してたら、消しすぎたんで結局書き直した記事です。

ご指摘について

今回記事をまとめようと思ったのはとあるツイートがきっかけでした。

この前日に、WISCに関する研修を受けて、そこで得た知識を備忘録的にツイートをしました。

そのツイート自体は上記の通り、削除しているのですが、以下のような内容でした。

・FIQの数値の割合(ツイートでは79以下は8.9%と記載)
・FIQが80台であっても信頼区間の確認が必要
・発達障害の診断がついていない人でも凸凹がある※
・障害がない人含めて、トップとダウンの差の平均は●くらい※
・凸凹がないフラットな人の割合※
・数値が低い項目は苦手であることは確か(障害かどうかはWISCだけで判断がつかない

※割合や数値は等は研修で話されていたところで、エビデンスがここで出せないののでここでは割愛(後述)
この辺りは文脈もわからない中で数値だけ出してしまったことは軽率であったと反省。

上記のツイートは、ぼちぼちRTや「いいね」があったので、普段より多くの人の目に触れたのでしょう。その中で、以下のような反応がありました。

・WISCの中身の話を書くなんて臨床心理士やめた方がいい
・WISCの基準を書く人の気がしれない
・いいねの反応が欲しいからってコンプライアンス違反していいのか、承認欲求だな
・こういう臨床心理士のせいで検査の妥当性が損なわれる
・発達障害の診断がつく人が学習して、正しく診断がつかなかったらどうするのか

もっと言葉がきついものもありましたが、だいたいこんな感じ。

このツイートをしたときの自分の認識としては、「検査の具体的な中身(ツールや中身など)には触れてはいけない」というものでした。

結果をどう解釈するかについては、少しググれば出てくるし、Amazonで買えるレベルの本でも書いてあるので、書いてはいけない内容という認識はそこまでありませんでした。

前述の内容については、研修で見聞きしたことなので、ツイートで見る人は前後の話を聞いているわけではないので、文脈について誤解がないように書いていた箇所があるかと思うと、軽率な部分がありました。

そこについての反省はしつつ、実際のところ知能検査について、どこまでの情報を公開していいのかと基準を自分が正しく理解していたかと言われたら、怪しいところがあるのも実際でした。

確かに、知能検査の内容を表を出してはいけないという話は耳にしますが、どこからどこまでが出してよくて、何は出していいのかというところがわかっていない。

でも、結果の解釈などは受検者やその周囲の家族等としては大事なところですし、本当に先述のような統計的な割合や解釈も出してはいけないのだろうか?

そんなことを思ったわけでした。

WISCについて出していい情報と出してはいけない情報

さて、WISCを販売している会社といえば、日本文化科学社さんです。

まずは、ホームページを見てみました。

WISC自体は、購入に際して、保健医療・福祉・教育等の専門機関に限っていて購入時や、その後の管理においても、適正なレベルの専門家以外に検査内容を開示することのないよう留意するようになっているので、検査の内容が流失することないように注意が徹底されていますし、検査実施者についても、求められるレベルが分けられています(WISCは使用者レベルCなので専門性がより求められる)

それだけ検査の内容が漏れないように徹底されているし、厳密な取り決めの中で実施されていることがわかります。

そして、上記のページをみると、WISCの特徴や構成などは、誰でもアクセスできるページに以下のように記載があります。

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例えば、少なくとも「VCIにはこのような下位検査がある」などの話は公になっているわけですよね。一方で、その下位検査がどのような内容なのか、などの詳細はホームページにはありませんね。

誰でもアクセスできるホームページには載っているけど、そこにはワーキングメモリーとか書いてあるけど、WISCの項目名は公にしていいのだろうか...?

疑問が解決されない場合は、問い合わせてみようということで、忙しい時期に大変恐縮ではありましたが、問い合わせをさせていただきました(感謝)

今回の件に限らず、教員向けのWISCの結果の解釈の研修を学校でしてほしいなどのニーズをいただくこともありますし、同業者同士での勉強会などをする中で、この辺りは適切に行いたいという気持ちもあったので、一度確認したいという気持ちはもともとあったので、タイミングとして合致したというところでした。

※以下の問い合わせた内容については、私がお問い合わせをして、私の解釈の中でまとめている部分になります。ここで書いているから絶対正しいということではなく、各自で疑問になるところなどありましたら、ご自身でご確認される方がよろしいかと思いますので、その点はご留意くださいませ。

担当の方に非常に丁寧にお返事をいただきましたことに心から感謝いたします。

WISCの出してはいけない情報

・心理検査の問題そのものに関わる用具・用紙・マニュアル等
・教示や指示

やはり検査の具体的な中身についてはNGということですね。

WISCの出していい情報

・HPに掲載されている内容(下位検査名など)は研修会等で提示OK
・検査の問題そのもの以外に関わる箇所以外のWISCの理論など
・結果の解釈、IQの層の人数割合、凸凹≠発達障害など、統計や解釈の話

検査の結果に影響を与えるような検査の具体的な内容以外については、ひとまずは問題にはなりにくいのではないかと解釈をしています(全て大っぴらに大丈夫ということではなく、慎重さや丁寧さは必要であるという前提。数字は一人歩きしがちというのは後述の通りでもあるので)

なお、研修等については、書籍やマニュアルから転載する際には、該当箇所を事前にご相談すれば、許諾の可否を検討いただくことも可能なようなので、実施する際には、改めてご相談をさせていただければと思います。

ご回答くださった方、ありがとうございました。

凸凹があると発達障害なのか?

「凸凹があると発達障害」「検査項目の差が大きいと問題」

こんな言葉は専門家からもよく聞かれますし、そのような所見を見かけることが多いという話が研修の中でも語られていました。実際、凹凸があることについては、自分も目にしたり、所見としてクライエントが持参するものを目にすることも少なくはありませんでした。

実際、感覚的に理解しやすい分、広がりやすい考え方でもあったんじゃないかなとも思います(Ⅲのディスクレパシーあたりがその起源なんでしょうか?なぜその考え方が広がったのかご存知の方いたらぜひ教えてほしいです)

リエゾン」という漫画の中でも、そのような記載があって話題になっていたのを目にされた方もいるのではないでしょうか。

実際、このツイートのツリーや引用RTをみると、専門家は指摘をする、そうでない方は「わかりやすい」という反応と分かれているように見受けられます。

この辺りは、心理の専門性とマスに向けてのわかりにくさとかの話にもつながるかもしれませんね。

もちろん「発達障害の人が凸凹がない」かといえばそういうわけではないので、ずべてが間違っているわけではなく「凸凹=発達障害」という捉え方が危険というところではないかと思います。凸凹がなくても発達障害の診断がつく人もいます。

参加した研修では、WISC-IVの標準化した際の調査データから、発達障害の診断のない被検査者の92%くらいは結果のプロフィールが凸凹していて、凸凹がないプロフィールは全体の7%くらいというようにお話をされていました。

WISCは知能を測る検査ですし(知能の定義にも様々ありますので、一般的に思い浮かぶ「知能」ではなく、知能にも色々定義があることを踏まえ)、

そもそも、知能だけで発達障害を診断するわけではなくて、日常生活の困り感などを含めてこれまでの生活の様子などを聴き取りながら、多角的に判断をしていくものになります。

子どもに関わる現場ではどこかに「WISC神話」のようなものがあって、

「WISCで凹凸がないってことは発達障害ではないってことですか?」
「WISCが79ってことは通常級は無理じゃないですか?」
「まずはWISCを受けてください」

こんな声を聞くこともまぁまぁあると思うんですよね。

なので、「WISC79」みたいな話だけが一人歩きしてしまうのは、それだけでその人のすべてが測れるわけではないので、確かに本来の意図とは違うので気をつけたいところではあるのですが、WISC79の人、みたいなラベリングになってしまうことは怖いところではありますよね。

WISCの結果は、その人のスナップショットのようなもので、重要な一部ではあれども、その結果だけがその人を表しているわけではないと思うんですよね。

研修の中で、担当の先生は「今日からその考えはやめればいいんです」という話をされていました。確かにそれは大事だなと思うので、その考えに非常に共感をしてツイートをしたくなった、というところが、その時に考えていたところだったかなと思います。

WISCのお役立ち「テクニカルページ」

他にもいろんな方が悩みがちな所見の書き方や、保護者への報告の仕方などは、ほっとカウンセリングサポートさんも書かれていましたが、日本文化科学社さんの、テクニカルページにまとめられているので、WISCに携わる人はまずはここを一読、、いや、四読くらいしておくのが得策と思います。話はそれからというほどに、所見の書き方などもまとめられています。

(このツイートのツリー自体も学びになりました)


個人的には、以下は特に身近なところではないかと思います。

日本版WISC-IVの改訂経緯と特徴

実施・報告の使用者責任と所見の書き方

保護者など非専門家にWISC-IVの結果をどこまで報告できるか


書き直し前は、他にも愚痴を書いていたんだけど、WISCの話だけに絞りました。長いしね。

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