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友だちの好きなひとを好きになる

一番はじめに好きになったひとは、同じ幼稚園に通うD君だった。D君はちょっと大人しめの男の子で、誰にでも優しくて、絵がとても上手だった。好きになった理由は、友だちのSちゃんの好きなひとだったからだ。

次に好きになったひとは、同じ小学校に通うT君だった。T君はスポーツ万能で男友だちが多く、女の子をからかって遊ぶような明るいタイプだった。好きになった理由は、友だちのMちゃんの好きなひとだったからだ。

中学生の時に初めてできた彼氏は、成績優秀、スポーツ万能、優しくて常識があって、少しやんちゃ。スクールカーストの上位グループにいて、廊下を歩けば絶対に誰かに絡まれているような人気のあるひとだった。彼とのお付き合いは、すごくすごく幸せだった。好きになった理由は、友だちのAちゃんを含む殆どの女子の好きなひとだったからだ。

高校生の時も、大学生の時も。
わたしが好きになったひとは皆、わたしの友だちの好きなひとだった。

と言うよりも、友だちが好きなひとを教えてくれた時に、わたしもそのひとのことを恋愛対象として好きになる、と言う方が正しいかもしれない。
争いたいとか、奪いたいとか、そういう気持ちはなかったと思う。友だちとその男の子がうまくいくように願っていたし、晴れて付き合うことになれば、すごく嬉しくて全力でお祝いし、その男の子と連絡を取ることをやめた。嫉妬や悲しみはもちろんあった。でも友だちの幸せそうな顔が見られて、とても幸せだった。


3年ほど前、K君から告白された。
K君は長年の友人で、物知りで話が面白く、いつもわたしを笑わせてくれた。一緒に色んな場所へ行って、色んなものを食べて、楽しいことをたくさん共有できるひとだった。
告白に、はい、と返事をして、付き合うことになったけれど、彼がわたしの好きなひとなのかは、分からなかった。
恋人同士になってからのデートは、不思議なくらい苦痛だった。
普段どおりの会話も、よくやっていた食べ物のシェアも、手を繋ぐことも、頰を触られることも、夜道を二人で歩くことも、なぜか全てが嫌になってしまって、逃げ出したい気持ちにおそわれた。
彼が向けてくれた好意に対して、お返しをすることがどうしてもできなくて、申し訳無さと自己嫌悪でいっぱいになってしまった。
わたしはストレスで体調を崩し、1か月も経たないうちに別れ話をした。彼は受け入れるのはゆっくりでいいから好きでいさせて、と優しく歩み寄ってくれたのに、一方的に拒絶して、連絡先を削除した。


上記のようなことを繰り返してきたわたしは、この先恋愛することを諦めかけている。
多分わたしは、わたしの身近なひとの好きなひとを好きになることしかできない。わたしだけの気持ちで、ひとを好きになることができない。わたしのことを好きだと言うひとを、好きになることができない。
なんだかあさましい。最低だ。唯一の救いは、浮気や不倫関係には拒否反応がでることだ。

ひとを好きになること、恋人同士になること、ひとを愛すること、結婚して家族になること、子どもをつくり育てること。
外に出たら、これらのうちどれかをやっているひとがたくさんいるのに。
なぜわたしには、こんなにも難しいのだろうか。

見えている世界が狭いだけだと信じたい。