認知療法の基礎知識まとめ
人間の「認知」の仕方を探り、認知の歪みを発見する
認知療法とは
認知療法は、1960年代初めにアーロン・Tベッグによって開発された心理療法である。
「苦痛を感じている人の考え方は、”硬直化”しやすく”歪んだ”ものになりやすい」という考え。
思考の硬直化を緩め、歪みを正すのが認知療法である。
《認知療法の関わり方》
オール・オア・ナッシング思考
「成功」か「失敗」かそれ以外はない結論の飛躍
彼がこっちを見ないなんて嫌われたに違いない・・・読心術
彼女が自分の事を馬鹿にしているのはわかっている・・・
考えすぎたり気にしすぎる事で苦痛を感じてしまう人は物事を多面的に考えることができなくなっている。自分の考えに固執し、身動きがとれなくなってしまい、結果的に精神的な苦しみを一人で抱えこんでしまう。この状態に陥る背景には、情緒処理の間違いがある。情緒処理の間違いは、オール・オア・ナッシング思考(黒か白か、どちらかしか認めない、間は認めない極端思考)、結論の飛躍(不確実な情報から無理やり結論を導き出す)、読心術(証拠もないのに他人の考えを決めつける)など。
このようなクライエントに対し、認知療法を用いるカウンセラーは、まず物事には必ず2つ以上の見方があることをクライエントに伝えていく。そして、その物事の見方は、クライエント次第であるという事を教えていく。
Point
認知療法は、カウンセラー側から「指導する」「教育する」要素を持つ心理療法である。クライエントの物事の捉え方を客観的に見れる視点を大切にする事が必要である。
思考階層構造の理解
認知療法の思考階層構造
認知療法では、 人間の認知の過程を①中核信念(スキーマ)②媒介信念(構え・ルール・思い込み)③自動思考の3段階で捉えている。
《仲介信念》
自分自身、他者をとりまく世界についての一定の概念のこと。例えば、幼い頃から親に「頭が悪い」と親から言われ続けた人は「自分は頭が悪い」と思い込んでしまう。このように自分が気付かぬうちに築かれていくのが、中核信念である。
《媒介信念》
中核信念をもう一歩踏み込んだ捉え方で、「頭が悪い」ことに対して「頭が悪いなんて最低」「常に努力しないといけない」「努力しないとダメになる」と捉える考えである。
《自動思考》
中核信念・媒介信念を経て自然に出てくる考えで、この思考が認知の一番初めになる。
認知療法では、自動思考を経て負の感情がうまれてくるという考えである。
認知療法のアプローチの特徴
認知療法は現在の問題に対する具体的な解決策を探していく。
問題解決意識が非常に強い心理療法で、カウンセリング中はカウンセラーもクライエントもメモを取り、整理しながら進めていく。
認知療法の進め方を説明するソーシャライゼーションを重要視するのも大きな特徴である。短期間で効果を出すために、セッションとセッションの間にホームワークを実施していく。
カウンセリングを始めるときには、今日話したい項目をあげて、(アジェンダ設定)時間を有効に活用し、10~15回程度のカウンセリング期間で問題解決に挑むのも大きな特徴である。
Point
認知療法の特色は、時間を有効活用する事である。
ゴール思考が強くホームワークを出すことも覚えておくとよい。
認知療法の進む過程を理解する
認知療法の進め方
認知療法の初回のセッションは、信頼関係を確立する事と、ソーシャライジングを実施する事を目標に実施される。
基本的な認知療法の進め方は、①クライエントの状況把握をして②前回のセッションの振り返り③前回のホームワークの振り返りをした後で④アジェンダの設定を行う。
その後、⑤各アジェンダについて話し合い、⑥新たなホームワークの設定⑦今回のセッションの全体まとめ⑧クライエントからセッションのフィードバックを引き出す
という8つの過程で進められる。
カウンセラーはこの8つの過程でクライエントの不適合な思考や信念を探り、現実的に検討し、問題解決のための決断能力を育むために、クライエント自らが自分の問題を考える質問を積極的に投げかけていく。
否定的な自動思考を矯正する方法
認知療法を実施する中で、カウンセラーはクライエントの自動思考に着目していく。そして、クライエント自らが否定的な自動思考に苦しんでいる場合には、不適切な考えを「事実」ではなく、一つの「仮定」として捉えるように教えていく。
その時のアプローチとして特に有名なのは①利益と不利益を探る②証拠の重みを図る方法である。
利益と不利益を探る
「そのように考える事で得られるメリット・デメリットを考えてみましょう。」→メリットが無いことにクライエントが気づく。
証拠の重みを図る
「そのような考えが正しいと思う根拠を教えて下さい」→根拠が無い事に気づく。
①はクライエントの考え方の不利益部分が明確になる事で、問題解決意欲が高まり、自分を苦しめる考えや行動の問題がよく見えるようになる。
そして②の証拠の重みを図る方法は、クライエントの思考、偏った信念が本当に現実的なのかどうかを検討していく事でクライエント自身に証拠を探ってもらい、思考の間違いに気付かせる事ができる。
Point
認知療法は、初めのうちはカウンセラー主導で引っ張っていく心理療法である。進め方の順序は正確に理解しておく事。
ソーシャライゼーションの実施
認知療法を始める時
《ソーシャライゼーションを実施する3つのポイント》
クライエントの認知モデルを引き出す
クライエントの理解度を伺う
クライエントとの信頼関係を意識する
ソーシャライゼーションは、カウンセリングに対して様々な不安や疑問を抱えているクライエントと、信頼関係を結ぶ最初の関わり。
クライエントが理解できているかどうかを確認しながら進めていくと、信頼関係が結びやすくなる。
《ソーシャライゼーションでのカウンセラーの重要な語りかけ》
あなたの考え方が、感じ方に影響を与え、あなたに嫌な思いをさせている
これから私達が行う認知療法は、あなたに辛い思いをさせる考え方を把握し、その考えについて話しあい、その考えが妥当であるかを一緒に検討していく。
妥当だとは言えない考え方を検討していく中で、あなたはご自身の考えを変化させる方法を身に付けていく。
大切なキーワードなのでアウトプットしていくとよい。
Point
ソーシャライゼーションは、カウンセラーとクライエントの信頼関係を結ぶ重要な関わりである。ゴールを明確に意識してもらう為に、認知療法としてしっかり説明しておく。
アジェンダの設定
アジェンダの理想
「短時間」で「的確」に
アジェンダが明確に設定されていないと、カウンセリングの時間が非生産的なものになり、話題に集中できなくなるということもあるので、しっかりと明確に設定し、メモを取って忘れないように記録しておく
アジェンダを設定するときの注意点
「時間配分」
「アジェンダ数」
「クライエントの負担」
これが意識できていないと、クライエントが苦痛、負担を感じ、問題解決意欲が低くなることもある。
設定したアジェンダを確実に取り扱うコツは、カウンセラーとクライエントが時間経過を一緒に把握し、時間が足りなくなった時は、対処法を一緒に検討する事。
Point
カウンセリングルームには必ず時計を設置して、時間配分とクライエントの負担度、アジェンダの数を意識しながら、アジェンダを設定していく。
否定的な自動思考を見つける
否定的自動思考の探り方
・クライントに否定的な自動思考を発見させるように導く
「特に理由はないんですけど、落ちこんでしまって・・・」
「なるほど、どのように感じて落ち込んだのですか?」
クライエントに問題となる感情が表れた時の「状況」「その時の考え」「感じたこと」を質問し、自動思考を明確にしていく
・クライエントに直接的な質問を投げる
「1人」でいる時、さみしくなってしまって・・・」
「あなたが一人でいる時、なにか頭をよぎりましたか?」
クライエントの感情について直接的に、どんな思考が起源となったのかを「頭をよぎった事は?」と聴いていく。
曖昧でまわりくどい質問は、クライエントを混乱させる。できる限り短い言葉で、わかりやすく質問する事を心がける。
否定的な自動思考とは、感情が「揺れる際」によく表れてくるもの
→クライエントが感情について語りだした時には、その後ろにある自動思考、中核信念を探る作業を始める。
Point
否定的な自動思考を探るのは、クライエントの抱える苦しみを和らげる考え方探しの第一歩。できる限り短くわかりやすい質問をしていくようにする
ホームワークを出す方法
ホームワーク設定のポイント
カウンセリングの中から自然に生まれてくるもの
代表的なホームワーク
①読む
感情の障害の特徴と、それに対して認知療法がどのようにアプローチしていくのかを学ぶ
<参考自助本:自信をもてないあなたへ/メラニー・フェネル>
②セクションの振り返り
カウンセリングで書き留めたメモを読んでもらったり、カウンセリングを録音し、それを家で聴いてもらう。
③書く
・思考記録表
「状況」「否定的な自動思考」「感情」を書き出し、「適応的な対応」を考え、その「結果」どうなったかを記録していく
・いいところリスト
日常生活の中で自分のいいところ、できたところなどを記録していきマイナス方面ばかりに執着するのを防ぐ。
ホームワークを出すときのポイント
・セクション中にホームワークを始める
→一人でするための練習
・ホームワークの障害を取り除く
→時間がなくてホームワークができないという場合は、生活リズムに入れ込む。
・ホームワークを振り返る
→アジェンダに入れ込み、問題解決能力の定着加減、思考の変化などを見極める。
Point
ホームワークの効果はとても大きいので、クライエントが意欲的にホームワークに取り組めるように、目的や効果などを明確に説明していく
認知療法の終わり方
認知療法を終了する時のカウンセラーの関わり
①カンセリングの感覚を空けていく
通常1週間に1回のカウンセリングを、2週間おき、3週間おきと感覚を広げていく。
②終結に対する「不安」に対処する
クライエントは、カウンセリングの終結・カウンセラーとの別れに不安を感じる事が多い。その不安は終結前にアジェンダに取り上げる。
③終結後の心得を伝える
認知療法のスキルの練習は続ける事・認知呂方のスキルを生活の一部として利用し続けていくことが重要と伝える。
これまでに学んだ事を振り返り、自分で問題解決する力がついたことを自覚してもらう。→認知療法のカウンセリング終了。
カウンセリング終了後に行うブースターセッションとは?
カウンセリング終了後のクライエントの状態をチェックし、いい状態を維持したり、さらにいい状態にするための計画を立てる「予防」のカウンセリング。約3ヶ月~6ヶ月~12ヶ月というタイミングで行うが行われない事もある。
Point
認知療法のカウンセリングを終結するときにカウンセラーがやるべき事は、すべて暗記しておく。クライエントの不安と向きあう事を忘れないように心がける。
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