小説「よりそう~手帳と万年筆のちょっといいはなし~」第79話
カフェのカウンターで後ろを向いてマスターが一言
「竜馬、ありがとな」。
名前で呼ばれたのは初めてだ。何かうれしかった。
やっぱり名前って大事なんだと思う。
コーヒーを飲みほして、(結構熱かったけど)
「ごちそうさまでした。さ、時間かかっちゃったので、開店準備手伝いますよ」とできるだけ元気に話しかけた。
「そうだな。もうすぐお客さんが来ちゃうかもしれん。まずは机といすを拭いてもらってもいいか」 冷静を取り戻した(装っているのかもしれない)マスターから布巾を受け取り、客席を拭いて回る。
前日の夜にも拭いているはずだから、きれいなはずなのだが、やはり拭きなおすと気持ちいい気がする。
「そこの窓も開けてくれ」
「わかりました」
マスターは食べ物の仕込みを始めている。メインはトーストなどのパンやデザートなど。準備している間に運び込まれるものもあった。
「拭き終わりましたけど、次は何かありますか? トイレ掃除とか?」
「トイレは昨日やったから大丈夫だ。カウンターの中に入ってきてカップを拭いてもらってもいいか?」
「はい。でも、俺がカウンターの中に入って大丈夫ですか」
「ま、時間ないからな。」笑って、俺をカウンターの中に入れてくれた。
カウンターの中から見るカフェはまた少し雰囲気が違う。いつもより広く感じるような狭く感じるような。
なんかいつまでも見ていたくなる雰囲気がある。
「ちょっと違う景色だろ。お客さんの入りや、お客さんのタイプによってもかわるんだぜ」
「そうなんですね。やっぱりいつも動いている感じなんですね。あ、カップを拭かなきゃ。いつも思っていたんですけど、キムンっていいカップ使ってますよね。」
「あー、割らないように気を付けてくれ」
そういって、いつもより高級な布巾を渡され、緊張な面持ちのまま、カップを拭いた。すごい緊張した。
時間は6時半を回るころ。
「窓を閉めて、入口のプレートをオープンにしてきてもらっていいか?」
「はい、わかりました。」。今日も元気に、カフェ「キムン」オープンです。
**********************
とはいえ、土曜日の早朝。オフィス街の多いこの場所はそんなに人が来るわけじゃない。それでもいつ来てもいいように土曜日でもこの時間に空けているんだな。
まだしばらく、結城さんのお店が開くまで時間あるので、キムンで読書でもしながら待たせてもらおうかな。そう思ってお店に入ると
マスターから
「まだお客さんも来ていないから、自分で自分のコーヒー淹れてみるか?」
お、これは貴重な体験。
また、過去の内容を取りまとめ加筆修正したフルバージョンを作りました。ご興味があればちょっと覗いてみてください。(大分本編と開いてしまったけど、不思議な手帳と万年筆の出会いがわかります)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?