小説「よりそう~手帳と万年筆のちょっといいはなし~」第74話
カフェ「キムン」のお子さんである若林さんと1対1で会話中。
「おれが、新田じゃなくなったとき、あの人は、俺の中でいないことにしたんです。」
衝撃的な一言を聞かされて、なんて返せばいいんだろう。
「たしかに、自分の苗字が変わるって経験したことないですね。結婚すると変わりますけど」
「でも、それは本人たちの間で決めることじゃないですか、親の離婚なんて、子供にとってはすごい迷惑ですよ。しかもやっと新しい苗字に慣れたと思ったら、1年もたつ前に、また変わるとか言い出すし、、、」ちょっといら立ちを見せながらはなす、隆史さん。
「え、そ、そうだったんですね」
「もちろん。やってられないって、自分は変えませんでしたけどね。高校終わったら出ていくからっていって、無理やり。だから、自分は今でも若林で通してますよ。若林にこだわる必要もないんですけど。」
「やっぱり、新田が良かったですか?」思わず聞いてみる。
「どうですかね。もう、新田もしっくりこないんですよ。結局、宙ぶらりんなかんじですよ。」ちょっとあきらめにも似た感じの、乾いた笑いを浮かべながら、寂しそうに話している。
「あえて、隆史さんさんといわせてもらいますね。少なくとも、お名前だけはあなたのものだから」手帳に言われた通りできるだけ寄り添う気持ちで話す。
その気持ちが伝わったかどうかはわからないけど、ちょっとびっくりしたような様子で、「ありがとうございます。」と返してくれた。
「自分は、実は、手帳をこの前、ほんと2か月前くらいに始めて買って、一緒に万年筆も買って書くことの価値を知りました。さっき一緒にいたあの女性の人が、手帳を買って初めに最初にすることを教えてくれたんですよ。なんだと思います?」
「さぁ、夢でも書くですか」どうでも良さそうに答える。
「書いたほうがいいみたいですけど、違います。手帳にはじめにすること、それは、自分の名前を書き込むだったんです。」
はっとして、ちょっとイラつきながら
「俺にはできないことですね」
「そんなことないですよ。今の時代、ネットとかなんとかで、全然別名でやっていくことだってできるじゃないですか?そこから始め見ませんか。」
「へ。なんで急に?」
確かにちょっと変か・・・
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。すこしでも気に入っていただけたら、続編を書くモチベーションになりますので、スキをお願いします。
また、過去の内容を取りまとめ加筆修正したフルバージョンを作りました。ご興味があればちょっと覗いてみてください。(大分本編と開いてしまったけど)
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