小説 万テチョライフでレベルアップ~よりそう Season2 ~ 31

もちろん言わなくてもよかった。結城さん(恵理子さん。手帳を俺に紹介してくれ、隆史さんを一緒に探しに行った。)との関係。

「恵理子さんさんですよね」と少しの間を置いた後、静かな調子で結城さんは口を開いた。

「お姉さんのほうですよね」マスターの寺田さんも続く。

「はい、すべては彼女に一冊の手帳を消化してもらったところから始まっていまして。それから手帳使おうと思って、カフェ『キムン』に朝立ち寄るようになったという経緯があります。」

「なるほど、なるほど。」うんうんと頷きながら「そうやって人の輪がつながっていくんですねぇ。」少し上を向き一つのライトを見つめている結城さん。

誰かをイメージしているのかもしれない。

しばし沈黙が流れたうち、

「ということは今も手帳を開こうとしてこのカフェを訪れたのですかね」と結城さんからの質問。

「いえ、そんなことはないのでお気になさらないでください。今日はちょっといろいろと展開が早すぎて、頭を少し落ちつけたくてよったんです。さっき話していた新しいプロジェクトのメンバーがすごい人たちばかりでスピード感が早すぎるんですよね。」そういって、自分もコーヒーの表面を見つめる。

「そうでしたか。雲川さんとのお話は非常に楽しかったのですが、少し長居し過ぎました。私はお先に失礼します。」お金を置いて、立ち上がる。

「いえ、こちらこそありがとうございました。楽しい時間でした。」とあいさつを交わし、出ていく初老の男性を見送る。

コップからほぼなくなっていた水のカップに水を補充してくれるマスター。「お騒がせしましたね。あとはゆっくり気持ちの整理できるまでゆっくりしていってください。」深く挨拶をされ、カウンター中の場所を変え、自分は一人になった。

先ほどよりカフェで流れているジャズの音楽が大きくなった気がする。ピアノやトランペット、ドラムの音色が聞こえている。

恵理子さんの話はまずかったのかな。なんか急にテンションが変わってしまった。気持ちの整理じゃなくて、課題が増えたような気がしていると。

その表情に気づいたのか、寺田さんがまた私の方にやってきた。水はまだ手を付けていないから、水ではないのだが。

「これ今日もう終わるので食べてください」と小さなパウンドケーキを持ってきてくれた。

「あ、ありがとうございます。」

「結城さん、あんなに焦っている表情していたの、始めてみました。やっぱりお孫さん話だと普通のおじいちゃんになってしまうんですね」とちょっとうれしそうに話すマスター。

「そ、そうなんですかね?なんか急にテンションを下げてしまったのではないかと心配していたんですが。」

「いえ、あれは焦った後、落ち着いた状態を取り戻そうとしていた雰囲気でしたよ。妹さんはカフェを継いでいるので師匠の側面もありますが、お姉さんは別の道を進んでいますからね。いつも気にしているんだと思います。最近、生き生きしているとそんな話もしていましたからね」

そうだったのか、よかった。。

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