小説 万テチョライフでレベルアップ~よりそう Season2 ~ 28
部長と2人で歩き始める。万年筆の秘密を話すタイミングだと思った。
「実はですね。」 そう切り出して、本当のことを部長に話した。
仕事で行き詰まって、なんかプライベートでもハリがなくなっていたあの半年前。部長に憧れて手帳を買いに行ったら世界が変わったこと。
メガネがすてきな不思議な女性に薦められた一冊の手帳。そしてその手帳を待っていたような伽藍堂というアンティークショップに導かれ、そこで、譲り受けたペリカンの万年筆。
その万年筆は、実は古くヨーロッパのダンディな人が成人した息子に送るはずだったのだが、いくつかの理由があって渡すことができないまま手放すことに。伽藍堂の不思議な店主はなぜか自分にそれを譲ってくれた。相場よりもとても安く。実はこの伽藍堂というアンティークショップ、知る人ぞ知る曰く付きのお店だった。今にして思うと、過去の人の思いをアンティークのグッズを通して届けているんだと思う。
それからというもの、なぜか手帳にメッセージが書き込まれていた。それに答えているうちに変わることができたという話を。自分が変われたのはただのラッキーだったんだと。
黙って聞いてくれていた部長は、俺の話が終わったと感じたのか、ゆっくりと話し始めた。
「にわかには信じられん話だが、正直お前の変身ぷりはそれくらいの理由がなければ説明できないかもしれんな。」ここで一息つく部長。
そりゃそうだろう。俺も逆の立場なら、とてもじゃないが信じられない。
「だが、俺は思うぞ。この手帳と万年筆を取得できた人すべてがお前ほど成功できるわけじゃないと。
自分ならきっと怪しくて返品に行くかもしれないし。そこまで続けられないかもしれん。」
いや、きっと部長は俺よりうまく使いこなせる気がするけど、、、
「俺だけではなく、全員が全員お前にはなれん。たしかにラッキーなめぐりあわせがあったかもしれないが、きっとお前に紹介してくれた女性はお前ならと思ったのかもしれないし、、、そのめぐりあわせを、チャンスをしっかり行かせたのは、お前が素直にそれを受け取ったからだと俺は思う。」
「たしかに、その考え方もあるかもしれません。」部長の言葉をかみしめながら絞り出した返答。
だが、部長の言葉がおなかの深いところにしみわたってくる感覚。
少しは自分を誇っていいのかもしれない。変われた自分を。
「ありがとうございます。部長。話してよかったです。」ニコリと笑いながらお礼を述べる。
「お礼はいいさ。お前の活躍がこのプロジェクトの肝なんだから。よろしく頼むぜ。」 やっぱり部長は格好いい。
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