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小説「よりそう~手帳と万年筆のちょっといいはなし~」第81話

「いらっしゃいませ」

結城さんはいつものように(といってもそんなたくさん来ているわけではないが。。)白いシャツに黒のエプロン姿で俺と隆史さんに声をかけてくれた。

「へぇ、ここ全部手帳のコーナーなんですね」隆史さんがフロア全体手帳コーナーになっているお店を見て驚く。

「そうですね。大きく分けるとシステム手帳と閉じ手帳というタイプに分かれます。システム手帳はバインダーというカバーに自分でリフィルを入れてカスタマイズができるもの、閉じ手帳というのはノート見たい一冊になったもので、毎年新しくすることができるものですね」

結城さんはいつもの営業スタイルで商品を紹介している。

「雲川さんが使っているのは何なんですか?」

「俺ですか、俺はロロマクラシックという手帳で、サイズはM6と呼ばれる小さめのサイズですね。」といって、肩掛けのカバンからいつもの手帳を取り出す。手帳にはもちろん、ペリカンのM800がペン差しにかかっている。

「システム手帳ではリフィル、紙ですねに合わせて、大きくサイズが6種類に分かれていて、雲川さんのもっているM6はこの中でも2番目に小さいサイズですね。」 さりげなく、フォローを入れてくれる結城さん。

「いろんなタイプやいろんな大きさがあるので、まずは何かピンとくるものを探してみるといいかもですよ。ちなみに、自分の時は、2時間くらいなんやんでも決めきれず、結城さんに今の手帳を勧めてもらいました、、結構強引に。。。」

てへ という感じの笑顔を浮かべている結城さん。

「雲川さんがおっしゃるように、まずは自分で一度商品を見てみてください。気になるものがあれば、何でも聞いていただければと」

「ありがとうございます。ちょっと探してみます。」そう言って歩き出す隆史さん。 

俺は思い出して、

「格好いいペン持っているじゃないですか、それに合わせてみるのもいいかもですね」と声をかけた。

「たしかにそうですね」そう言いながら、スーツケースをひきづりながら、あちらこちらとお店の中を歩き回りはじめた。

「なんかいい感じに明るくなった気がしますね。」結城さんが小声で俺に話しかけてきた。

「そうですね。少しでも吹っ切れてればいいんですけど。ただの押し付けじゃなきゃいいんですけどね。」

「大丈夫ですよ。彼も雲川さんの純粋な気持ちが伝わっていると思いますよ。」

めっちゃ照れる。 そういえば、彼も、も? ということは、結城さんも?

恥ずかしくなってきたので、自分も隆史さんとは別に他の手帳カバーを見て回り始めた。

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30分もしないうちに、隆史さんが

「これにしようかなと思います」と持ってきた。

「え、早いですね」

「そうですか? 30分くらいお待たせしちゃったんじゃないかと」

「いや、ここでの30分は秒みたいなもんですよ。」よくわからない返しをしつつ、持ってきた手帳を見る。

黒のロロマクラシック、サイズはバイブルサイズかな。

「やっぱり雲川さんの持っているのと同じタイプがいいなと思って。自分はもう少し大きめがいいかなと思ってこれにしたんですけど」 そんな話をしているところに、結城さんも合流。

「バイブルサイズは持ち運びもしやすいですし、書ける量も多くシステム手帳では一般的なサイズです。リフィルもたくさんありますので、最初にはお勧めのサイズになります。」 

「ただ、色がちょっと迷っているんですよね。黒にするか青にするか。」

「青もいいんですよねぇ。自分も欲しい色ですよ。」

「青もとっても人気ですね。ただちょっとカジュアル感が強いかもしれません。スーツに合わせるなら今お持ちの黒とかこげ茶とかの色の方が使いやすいかもしれませんね。」 凛とした感じで結城さんが説明する

「確かにそうかもしれません。では、やっぱり黒にします。」そういて、持っているカバーを軽く持ち上げる。

さりげなく黒を誘導した?そんな気もしたのだが、そこはスルーしておく。

「革製品は少しずつ表情が違いますので、何種類か現品をお持ちするので一番お気に入りのものを選んでみてください。

レジのところで準備しておきます。中に入れるリフィルをご覧になってお待ちいただけると。」

そういって、商品を準備しに行く結城さん。

二人でリフィルを見に行った。月間カレンダーや週間、メモリフィルなどをパパっと選んでいく隆史さん。

「実は黒にするか迷っていたんですよ。あの人が使ってた手帳の色だったんで」

「隆史さんの前でも手帳使っていたんですね」

「えぇ、夜とかもなんか書き込んだりしていましたね。手帳を買えってあなたに言われたとき、すんなり受け入れられたのも、その光景を思い出したからなんです。」

「やっぱり、新田さんはあなたにとってとっても大事なお父さんだったんですね」

少しの沈黙のあと、噛みしめるように隆史さんが

「はい。」そういった。

「雲川さん、お願いがあるのですが」一呼吸をあけて、

「この後、父さんのカフェに連れて行ってもらえませんか?」

また、過去の内容を取りまとめ加筆修正したフルバージョンを作りました。ご興味があればちょっと覗いてみてください。(大分本編と開いてしまったけど、不思議な手帳と万年筆の出会いがわかります)




次回 最終回です

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