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風呂場の扉越しに聞いた、こどもたちの生死の話

風呂上がり、脱衣所で着替えていると、珍しく一緒に風呂に入っていた長男と長女が話しているのが聞こえてきた。
二人の会話のテーマはどうやら「自殺」らしい。
最近有名人が立て続けに自殺をしたニュースを見聞きして、そのことが印象に残っていたのかもしれない。 物騒なテーマをやけに軽々しく話してるな、と思いつつ、それでも二人が喧嘩をせずに仲良く風呂に入ってるのも珍しいので聞き耳を立てた。

長女「ねえ、もし目も見えない、耳も聞こえない、体はアトピーでぼろぼろだったら、どうする?自殺する?」

私の心中(きょえー、その言葉の使い方、軽々しすぎるやろ!)

長男「うーん、そうだな……もし、誰も助けてくれなかったら、俺だったら自殺するかも」

私の心中(だから軽々しすぎる…)

長女「助けてくれるって?どういうこと?」

長男「えっとねえ、支えてくれるってこと、かな。誰か支えてくれる人がいれば、なんとかやっていけると思う」

長女「ふぅん、ママみたいに?」

私の心中(えっそこで私出てくるの?)

長男「そうそう、ママみたいに。支えてくれる人がいたらやっていけるかな、ハルみたいに」

私の心中(そんなふうに思ってたんか、お前たち…この会話、人の手を借りずには生きられない、意思疎通もままならない重心児ハルの生きる意味、みたいなものを自分に引き寄せたところからスタートしてたんやな)

長女「でもアンタにばっかりかまってられないのよ、ママだって。まあ3時間に一回オムツかえるくらいかな」

私の心中(えっなぜ急にオムツが必要であることに…ハルに寄せすぎやろ…そしてオムツ替える以上もするよ!母、もっとするよ!ハルにだってしてるじゃん!)

長男「じゃあさあ、お前はどうなんだよ、おまえがぁ、目が見えなくて、耳が聞こえなくて、なんにも自分でできなかったらどうする?」

長女「うーん…(ジャバーッ髪の毛を流す音)」
  「………ともだちいっぱい作るかな?」

私の心中(それ、今とやることおんなじだね!) 

結局ふたりとも、おんなじこと言ってるな、というのが印象深かった。人とのつながりがあって、自分を支えてくれるひとがいるかどうか、それが、生きる意味につながるって思ってるんだな。そう思える今があるっていうのは、幸せなこと。

ハルのことを頭の片隅に、というか真ん中に置いていたであろう二人の会話、あやうさもあるけれど、ちょっとだけ嬉しくなったのはなんでだろう。

自分が支える側にもなりうるんだってこと、ちゃんとわかっているのかな?

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「自殺」を巡る話題は、単に「死」を語る以上にセンシティブでタブー視されがち、ましてや小学生の子どもたちには刺激が強すぎるという意見もあるかもしれない。実際、彼らの会話の中での使い方も軽々しすぎてよろしくないと私も思う。

それでも、おそらく自分の当時を振り返ってみると、一番純粋に生死に興味を持って考えていた時代。この頃、素直にさまざまな疑問や考えを他人と交わすことができる環境があるというのは、もしかしたら大事なことかもしれない。

死ぬとどうなるの、
生きるってなんなの、
どうして死ぬことはいけないことなの、悲しいことなの、
なんで生きてるの

考えてみると、自分が疑問に思った時、大人はいつも「生きることは尊いこと」とか「命は尊い」とかキレイごとを並べているようで、私はちっともそんなこと本心から信じてはいなかったし、子供だからって言いくるめられたみたいで納得できなかった。生きている意味なんて結局ずっとわからなかったし、今でも答えが出たわけではないけれど、それでも今は、プロセスを経て、苦しくなくなった。

ただ世の中で正しいと言われることを、自分の経験や理解を通さずに押し付けていくのではなく、ちゃんと子供たちにも自分たちのプロセスで考えていって欲しい。私はそれを見守る。彼らのタイミングを待つ。そのほうがなんか誠実だ。どこぞの倫理や道徳の偉い人には怒られるかもしれないけれども。

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風呂場での二人の会話を聞いてたら、なんとなく、彼らは、ちゃんと彼らなりに生きる手綱を手繰り寄せているように思えて、どういうわけか、安心した。

もちろん、目が見えなくなっても耳が聞こえなくなっても体が不自由になっても、ちゃんと生きてほしいけどね。だって人間なんて生まれた瞬間からたくさんの人とつながっていて、君たちにも間違いなく支えてくれる人や助けてくれる人がたくさんいるし、君たちの存在そのものが、少なくとも母にとって(きっと周りの人達にとっても)支えになっているのだから。

…なあんてことは、突然言ってもきれいごとに聞こえるだろうから簡単には言わないけれど。人とのコミュニケーションや毎日の生活を通じて、じわじわとわかっていってくれたら良い。そうしてその時が来たらちゃんと言葉にもしよう。

数年後にまた風呂場の磨りガラス仕立ての扉越しに君たちの会話が聞けるのを楽しみに。いや、もう数年後には二人一緒に風呂には入らないか。

とりあえずハル、友達いっぱいつくればいいんだってよ!

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