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はるるん、インドの学校に通う

ハルが通いはじめたTamana スペーシャルスクールの地下には、様々なトレーニングのための施設が完備されている。

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トレーニングルーム、リハビリ室、ST訓練部屋、面談室など、かなり充実している印象だ。

ハルが主に使うことになるリハビリ室には、大きなクッション、バランスボールなどの他に、日本にいたときは自宅から1時間半かけて通った先の盲学校でしか触れることのできなかった光の出るおもちゃなどが置いてある。こんなに充実した施設を想定していなかったので、ここでこれからハルがどんなふうに過ごしていくのか考えると胸が踊った。

はるるん、初登校

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ところがハルの初登校は、いきなりOTの先生のアセスメントがあり、ギャン泣きで終わった。

OTのハルミット先生は無表情でハルの体を触り、足を曲げたり手を曲げたり、座らせたり。泣きじゃくるハルをよそに、どんどんハルの体を動かしていく。

いきなりドン引きである。日本でハルを見てくれていたPTの先生だったらこんなふうに乱暴にはしないはずだ。わーんいっぺーせんせー!心の中で叫ぶ。選択間違ったかしら…焦る私。あまりにハルが泣くので、慌てて拙い英語で説明する。

「あのね、私はハルにまずここを好きになってもらいたいと思ってるの。ハルに必要なエクササイズがあるのはわかる、日本でもPTの訓練受けてたから。でも、ハルはこの場所は初めてだし、言葉も違うし、いきなり嫌がることをたくさんしてハルがここを嫌いになってしまったら、前に進めないと思うの」

伝わったかどうかはわからないが、必死である。お願い、ハルをそんなに泣かせないで。ハルを苦しめないで、お願い。

なんとか伝えたいことは伝わった様子だ。ハルミットは静かにうなずいた。

「OK,これはアセスメントだからハルが嫌なことをしなくてはいけないのは仕方ないの。新しい場所にも慣れていないからね。ここに通い始めた子どもたちはみんな最初はなくのよ。少しずつ慣れていくわ。」

うんうん、それはわかる、それはわかるんだけど、もう少しアセスメントのやりかたも、ゆっくりできないのだろうか、、、

「私はここで8年CP(脳性麻痺)の子どもたちを見てきたの。たくさんの子が最初は嫌がったけれど訓練を続けて歩けるようになったわ。ハルと同じクラスのエンジェルもそうよ、最初はハルと同じように寝たきりだけど、今は座れるようにまでなったの。」

なるほど。それは確かにすごい。

30分のOTセッションが終わったあと、教室にもどってもべそをかくはるるん。他の母子通園の親子たちがヒンディー語で和やかなムードの中、私はまだモヤモヤしていた。

厳しく叱責するインドの特別支援教育

教室の中でも気がついたことがあった。

なごやかなムードではあるし、先生たちもお母さんたちも子どもたちをとても愛している様子は伝わるのだが、子供がドアを開けて飛び出そうとしたり机の上に乗ったり、いわゆる「やってはいけないこと」をすると、大きな声で「No!」と叱る。

日本で通っていた療育園の先生たちは、意識的なのかそうではないのか定かではないが、「だめ」はほとんど言わなかった。その子の様子を見守り、安全である限り「だめ」は言わないし厳しく叱責したりもしない。その子の特性に応じて穏やかに対応していたように思う。

どちらが正しいかは分からないけれど、日本での障害児教育とは大きなギャップがあるように感じた。障害児教育に限らず、子育てにおいてどちらが正解なのかはまるでわからない。私も自分の子供達に厳しくしてみたり見守ってみたり、日々様々だ。

自然と形成されるピアサポート

モヤモヤしている私を見かねたのか、他のお母さんが話しかけてくれた。

「OTの先生誰?ハルミット?彼女ははこの学校で一番のOTよ! 最初はみんな泣くの。アセスメントは嫌なことをするのは仕方ないし、心配ないわ。」

目がぱっちりしていて愛想がよく、英語も上手で明るい、感じの良いお母さんである。彼女の息子は3才半で、発達障害があると言われてこの学校に通っているらしい。OTやST、スペシャルエデュケーションのセッションを通じて、すごく成長したという。彼女は教室の中のあらゆる子ども達の世話を普通にするので、最初は先生と勘違いしていた。

彼女に限らず、親子で通っているお母さんたちは、みな他の子の面倒をよく見る。すべての子に先生と同じように接し、課題をクリアするフォローをしたり、いけないことを言うと叱ったりしていた様子に驚いた。母子通園をすることで、たった2人のクラスティーチャーがまるでティーチャー集団のようになる。すごいことである。日本では、小学校でも保育園でも療育園でも、先生と保護者の線引が基本的にとても明確だった気がする。

話を聞くと、Tamanaの教師の実に50%以上が自身もスペシャルチャイルド、いわゆる障害児を持っているという。教師は教師であり、同時に親でもあるのだ。学校がそのまま、いわばピアサポートのような役割もになっているということである。

お母さんたちが教師に教え教えられ、教室の中で堂々と他の子供を叱ったりサポートする姿は、もしかしたらそこに由来しているのかもしれない。

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OTの先生とも、もっと話をしてみよう。(英語あんまりしゃべれないけど…)お母さんたちと話しているうちにそんな気持ちになった。

厳しく接するインドの先生やお母さんたちも、日本の教育者も、おそらくゴールは一緒なはずだ。愛すべき子どもたちに、より良い未来を。みなそう思っていることは間違いないように思う。

「より良い」の部分をもっと今のはるかに関わってくれる先生たちやインドのお母さんたちと話をして、具体的にしていかなくては。

この学校の選択が本当にハルにとってよかったのか、ハルのトレーニングは果たしてどうなっていくのか。ハルとのインドの学校生活は始まったばかりである。

(つづく)



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