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新入社員が嫌いすぎてダーウィンの進化論にたどり着いた話


かれこれ3年前の話である。


やばい新人が入ってきた

その頃私は新卒で入社した会社で販売員をしていた。規模としては中小企業で、2年くらい働くと、だいたいの人は副店長になる。中途採用で自分よりも年上の人や、学生バイトの子に業務を教えることもあった。自分は教えるのは結構好きだったんだけど、なにか論理立てて「チームビルディング」とかいうやつよりも、「真面目に楽しく働きましょう」というスタンスを取っていた。周りからも、人当たりがいいと思われていたし、自分でもそう思ってた。その頃は「強み」という言葉の呪縛に悩まされていたんだけど(私はあまり自分でこれが得意とかいうのが苦手だから)、そうやって誰とでも心地よく働けるのは自分のいいところかもしれないと思ってた。

しかし、そんな25歳の私に転機が訪れる。もう全く連絡を取っていないので、本人の了承を得ていないし、あまり詳しく書くのはよくないのでここではやめておく。

簡単にまとめると、そのAさんは、私の思う「社会人としての常識」にかけるところがあった。ビジネスマナーやチームへの配慮が大人のそれではなかった。自分よりも4-5歳年上の人で、その頃は30歳がすごく大人だと思ってたから、そのギャップに落胆したのと、この人を相手にしなきゃいけないのが私の仕事なのか、この人をコントロールできないのが私の責任になるのか。そんなことを思って悩んでいた。「今度こういう人が来る」という事前情報に、私が勝手に身構えていたのかもしれない。勝手に「年上の人で、海外で働いたことがあって、いろんな経験があるっぽいから、なめられないようにしなきゃ」と思いすぎていたのかもしれない。なのに実際はそうじゃなかったから、なんか更に受け入れられなかったのかも。先ほど、「強み」とか言うのが苦手だと言ったけど、Aさんは自己評価が妙に高かったことも、ちょっとイラっとする要因でもあった。

私は8年くらいずっとストレートのショートヘアなんだけど、その時期はプードルみたいなパーマをかけていた。がしかし、後から入ってきたAさんも似たような髪をしていたので、私のパーマ 人生はたった2ヶ月で終止符を打ち、千と千尋のハクみたいな髪に戻った。家に帰っても、Aさんの影がちらつくのが気に障った。それくらいに拒絶反応があった。

このことは「え、あの誰とでも仲良くなれるおさじまが?」と、私をよく知ってくれている人をざわざわさせることになる。そして彼らがAさんに直接会う前に、変なイメージを植え付けてしまった。私がAさんを苦手だと思っていることは、周知の事実になった。会社の同期も、友達も、妹も、2ヶ月に一回通っていた美容室のお兄さん達も知ってる。


セオリーに従ってみる

「それでもAさんのいい面を見つけなきゃ」「強みと弱みは表裏一体」人々がそのように言っているので、私もそのように努力してみた。でも、かなりの「なんだあのクソ野郎は!フィルター」がかかってしまっていて、なかなかニュートラルな視点が持てない。

ずっと考えた。「完全に個人的な感情に支配されている。私が好きとか嫌いとかじゃなくて、チームが潤滑に機能することが大事なのに。たぶんその方が売り上げもよくなる」ダメなのは頭では分かっていたんだけど、全くフェアに見ることができない。


自分よりもAさんが優れているところを探そう。
無かった。
フィルターがかかってるから1つも見つけられない。

左脳も右脳も私の方が優れている。ように思えた。仕事に関して、その人のポリシーが感じられない。スピード感もないし、配慮があるとかもない。アパレル の会社だけど、美的感覚も見受けられない。接客の仕事だけど、別にコミュ力が高いとか人当たりいいわけでもない。実際のAさんの評価とは違うことをきちんと言っておきたい、これはあくまで私が3年前に思っていたこと。


需要供給曲線

なんでかわかんないんだけど、ある日、東京駅の地下道で、ある考えが降りてきた。私が本当に嫌いなAさんだけど、でもAさんも生きている。恋人もいるっぽい。

「全ては需要供給曲線で表される」とゼミの先生が言っていた。Aさんを必要としている人がいるし、うちの会社から採用されたし、ちゃんと需要供給の中に組み込まれている。理論上は存在している価値がある。

その時は今よりも、自分が一度も付き合った方がないことにコンプレックスを抱いていたので、「なんであんな奴でも付き合えるんだ!!」と憤っていた笑そして、誰かパートナーがいることこそが正義で、人として価値のあることで、それが需要供給の中に組み込まれていることだ、と勘違いしていた。それで自分を省みて、こんな自分はあいつよりも価値がないのかと思っていた。(まあ、これに関しては、私のコンプレックスを押し付けられて、Aさんもとんだとばっちりに遭っていたんだな)


西武新宿線に乗り換えた。わかってくれる人がいるかわかんないけど、夜の西武新宿線は絶対寝てはいけない。なぜなら、住宅街を走るこの線は、景色がほぼ同じで、自分が今どこにいるかわからなくなるから。電光掲示板もない。だから疲れている人たちの中でよく考え事をした。このときもそうだった。


ダーウィンの進化論にたどり着く

「でもAさんはこの世に存在している。」西武線に揺られながらそんな事を思った。私の判断基準では、Aさんの存在価値は極めて低い。でもAさんという種は絶滅していない。ダーウィンの進化論によると、種は取捨選択をして、生き残るために進化を遂げてきた。優勢遺伝と劣勢遺伝子という言葉があるけど、これはとくに優れているわけではなく、ただのマジョリティという意味。それぞれの種は何かに備えて、種の存続ために、劣勢遺伝も残しておくらしい。それと同時に「自然淘汰」という考えもあって、本当に必要のない種であれば、進化の過程で自然と消滅していくらしい。


Aさんは絶滅していない。ホモサピエンスの3億年の歴史の知の蓄積により、人類はAさんを残すという選択をしている。もしかしたら地殻変動が起こったり、社会構造がまるっきり変わってしまったら、ぼけーっとしてるなと私が思っているAさんの方が、私よりも優勢になるのかもしれない。
(例えば、今急に独裁政権になったとして、私は異論を唱えて抹消されてしまうかもしれないけど、Aさんなら生き延びれそうだ。とか。失礼)

「私の方が何においても優れている」自分とAさんを比較して確固たる自信があったんだけど(本当にそうかは誰にもわからないんだけど)、それは今この自然環境、社会構造においてのみ通用することだ。ホモサピエンスの3億年の選択を、たった25年しか生きていないおさじまがあーだこーだ言える立場ではない。という考えに至った。わかってくれるかな?わかってくれなくてもいいんだけど、私はこれでかなり楽になった。

結局Aさんのいいところなんて、私に嫌われているのにそれを察知できない「鈍感さ」くらいしか見つからなかった。その時はね。かなりひねくれているので、一般的なセオリー「いいところを見つけて、それを伸ばす方法を考えよう」とかはあまり当てはまらなかった。でもダーウィンおじさんの進化論は受け入れることができた。私がどう思おうと、それがホモサピエンスの選択なのだと思うとしょうがない。起こるかもしれない、起こらないかもしれない「なにか」に備えて、人類はAさんを存在させているんだから。


3年前の心理状況

今思うと、私はかなりあの時傲慢だった。会社の中の誰のことも尊敬してなかった。自分が1番賢くて、1番優しくて、1番感性があると思っていた。あほだな。痛い。「強み」がわからないというのは、確かにそうなんだけど、そう言うのと同時に、「あなた達はそんな事を強みとか言えていいですね」と内心思ってた。最悪だよね。

そしてあの頃、とても「大人」を求めていた。精神的なメンター的な存在。アメリの隣のおじいさんみたいな、韓国ドラマミセンの上司みたいな、絶対的理解者と彼らからの言葉がほしかったんだよな。何か気づきのある言葉に出会いたかった。半年に一回の面談で、「この会社は子どもたちがわちゃわちゃしてるだけ」みたいなことを言ったら(失礼)、私が辞めた後に「メンター制度」ができたらしい、今もあるかは分かんないけど。でも求めているのは、正直、そんな縦割りにより用意された存在じゃないんだけどな。


でも本当は私の受け皿が無かった。以前の会社を「ネットワークを大事にしている文系大学生サークルみたい」もしくは「AKB●8みたい」だと思っていたから、偏ったバイアスにより、他の人たちのサインに気づかなかったのかもしれない。私の本質を理解してくれる人はいないし、「セイチョー」とかこぞってみんな言ってるけど、テンプレートに沿った分析による薄っぺらい評価なら御免だわと思っていた。だから、求める大人がいなかったと言うよりも、実際は、こちらのパスが出せてなかった。そしてパスを受け取ってくれるだろうという信頼をしていなかった。そんな私の内部の事情も相まって、Aさんは受け入れられなかった。(だから実際は、私の内部環境によるものが大きいのかもしれない。タイミングが悪かったんだな。ソーリーAさん)自己啓発本やビジネス知り尽くしている風な人たちの言葉は全く刺さらず、謎にダーウィンの進化論に行き着いて、一人完結した。そんな3年前の出来事を思い出した。


実は今もちょっと好きになれない人がいるから、ダーウィンおじさんにまた力を貸してほしくて、ここに残しておく。


(ヘッダーの写真はロンドンの自然史博物館のもの。「その節はどうもお世話になりました!!!!」って本気で感謝した。正面の階段に座っていらっしゃるんだけど、こんなにテンション爆上がりな観光客は、あまりいないと思う)


確かクジラ

この月の展示は最高だった。

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