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夜中2時半に男がノックしてきて警察を呼んだ話

こういうのは記憶が新鮮なうちに残しておくべきだったな。
かれこれ2週間前に警察沙汰になった時のこと。


ドンドンとノックの音がした
月曜の深夜2時半ごろ。当然ながら眠っていて、うっすら目が覚めた。私は1階の部屋(イギリスではGround floorと呼ぶ)で、玄関からは1番遠い部屋に住んでいる。私の部屋と玄関までに、キッチンもバストイレもあるから、なんか誰かやってんのかなと思った。


またドンドンドンと鈍い音がする。
遠くで男の声がする気がする。「ハロー!xxxx」としきりに何か言ってるんだけど、ちゃんとは聞き取れない。いつもは小さい電気をつけて寝るんだけど、もしかしたらそいつが、私の部屋の方に回ってくるかもしれないから、一旦部屋を真っ暗にした。


一階にはもうひとり住んでるんだけど(Aさんとする)、なんか勝手に、その人の彼氏とかで、なんかトラブルとかかな?と思ったりもした。それだったら、あまりでしゃばらない方がいいかな?なんて。


男はまだ扉をノックし続ける。「失礼します」の時のやつではなくて、「いるのはわかってんだぞ」の時のやつ。


2:50
とりあえず、2階に住んでいるフラットメイト(Bさん)にLINEをしてみる。すぐに返信が来た。うちは一軒家で今は日本人女性4人で住んでいる。でも、関係はやや希薄なので、Bさんの連絡先しか知らなかった。それで、Aさんも気づいているのか聞いてもらった。


3:00
一旦音が弱まる。最近キッチンの蛇口がゆるくて、水が流れてることがある。耳を澄ますと、キッチンの物音が大きい気がする。「あれ?玄関をノックしてると思ったら、もしかして、中にいるかも??それともいつもの水漏れ?」怖すぎて部屋の外に出られない。でも確認した方がいいのだろうか?手足の血が引いていく。文字通り血が「引いていく」のを感じた。無意識のうちに、もこもこの靴下を履いておく。


Aさんも音には気付いていて、怖くて外に出られないとのこと。(玄関に1番近いから当然なんだけど)


3:08
誰もこの男を知らないということを確認して、警察に電話する。ネットで「イギリス 警察」で検索して999だったと思い出し、電話をかける。
“犯人”に警察を呼んでいることを気付かれないように、ひそひそ声で助けを求める。救急か警察かと聞かれるので、”Police, please”と言う。住所と郵便番号を言って、見知らぬ男が30分くらいずっとドアをノックしていることを伝える。「男の特徴は?」と聞かれたけど、怖くて部屋から出られないからわかんない。”I don’t know how he looks because I cannot get out” と言うと「出られないとはどういうことですか?」と聞かれる。男はどこにいるのか?あなたはどこにいるのか?なんだか、私の説明を指摘されているような感覚になる。もどかしいな。意図を汲んでくれよ。
「男はおそらく玄関の外で、私は自分の部屋にいる。男を見ることはできない。」と伝える。脚がガクガク震えている。
「パトカーを出します」と言ってくれたから、すぐに来るんだろうと、少し安心した。


廊下でフラットメイトたちの声が聞こえる。それで私もようやく部屋の外に出る。みんなの顔を見たいけど、そうするには男からも顔が見えてしまう。だから柱を挟んでひそひそ会話をする。1人じゃないだけで幾分かは恐怖心が和らいだ。


警察はまだ来ない。


「一回電話したくらいじゃ、本当に来てくれないかも」とのことで、3人で999にかけた。


男は何か叫んでいる。今度はガチャガチャと音がする。「鍵をこじ開けようとしてる!」イギリスは近代的なマンションではない限り、かなり原始的な鍵が多いし、セキュリティもゆるゆる。実際うちの鍵も、小学生の頃に持ってた日記帳についてた鍵みたいなやつ。
終わった。侵入されるなこりゃ。


警察はまだ来ない。


3:18
3:19
3:23

また警察に電話かけるんだけど、全然繋がらない。「大変混み合っておりますので、しばらくお待ちください」的なアナウンスが流れるだけ。23分の時は繋がったんだけど、「その件は把握してます」と言われただけでガチャっと切られた。


Aさんが男の顔を見たと言った。黒人系らしい。Bさんも顔を見られてしまったと言った。でも白人系らしい。男はまだ何か叫んでいる。「え、今チャイニーズとか言わなかった?」もしかしたら、ここにアジア系の女性だけで住んでいることを知られているのかもしれない。


だんだん不安が募る。
1人で部屋にいる怖さもあるけど、3人だと1人では気付かない詳細が見えてくる気がして、それはそれでだんだん怖くなっていく。

一瞬部屋に戻る。お守りのようにしている、お母さんからもらった指輪をつける。(これはあまり意味ないけど)そしてもし男が侵入してきたとして、刃物とか持っていた時のために、パジャマの下にバスタオルを巻いておく(ドラマの見過ぎだし、バスタオルよりも雑誌とかの方がよかったかも)
危機に遭遇して、短時間で判断してまあまあ意味わかんない行動を取っていた。


3:24
非通知から電話が来る。警察からだった。
「今向かっているから、必ず鍵はしたままにしておいて」とのこと。「向かってるんですね?」と聞くと「ライトを付けてNormal speedで向かってるから、ちょっと時間かかる」的なことを言われた。いや飛ばせ。「早く来てください。さっきはノックだけだったけど、今はなんかシャウトしてて、鍵をこじ開けようとしてる!」と伝える。「男の特徴は?」とまた聞かれる。正直に「白人という人もいるし、黒人という人もいるし、私は見てないからわかんない」と述べる。


警察から電話がかかってきたことにより、ちゃんとこのケースが扱われていることがわかり、少し安心する。


3:40頃
玄関の外が明るくなる。誰かが”What are you doing here?”と歯切れ良く言っている。警察がやっと来た。それでやっと玄関を開けて、警察にお礼を述べた。聞くと、ただの酔っ払いで、私たちの家を自分の家だと思って、アダムという人を呼んでいたらしい。警察は特に私たちの連絡先を聞くこともなく、一瞬で去っていった。後から思うと、泥棒やなにか侵入するなら、ちょっと試してだめならすぐに諦めそうだけど、自分の家だと思い込んでたから、延べ1時間以上も粘っていたのか。



早朝4時ごろ
やっと騒動は解決した。
そしてやっとフラットメイトと連絡先を交換した。「これからはなんでも連絡を取り合いましょう」そう、一緒に住んでいる人のことを知らなさすぎたのも、この一件が大げさになってしまった一因でもあった。
この週は急に寒くなった週だった。最高気温3度とか。ヘッダーの写真のように、朝は霧が立ち込めていた。もし、男が力尽きて玄関の前で眠ってしまったら、最悪死んでしまっていたかもしれない。と思うと、あいつは私たちと警察に救われたんだな。とも思う。
月曜日の朝、週の始まり。6時半くらいには起きていたいけど、全然寝付けなくて寝不足のまま出社した。


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家への絶対的な不信感
イギリスの住宅の鍵が信頼できないと、さっきも書いたけど、よく言えば「趣がある」と言った感じ。普通のヘアピンとかでガチャガチャやってすぐに開きそうだし、体当たりで扉も壊れそう。インターフォンもないから、男の顔を確認することもできないし、覗き穴もないし、だから「間違ってないですか?」と聞くこともできなかったし、「あーただの酔っ払いか」と確認することもできなかった。


被害妄想の連鎖
3人集まるとキャッチできる情報量が増える。そしてこの状況では、それぞれにフィルターがかかっているので、負の力が強かったように思う。男が外で何か叫んでた時、私はわからなかったけど、上にも書いたように「今チャイニーズって言った?」と誰かが言った。私は正直アジア系の女性は社会的な立場も、そして身体的にも比較的小さいという点で、イギリスにおいて弱い立場だと常日頃思っている。中国人と間違えられたとかはどうでもよくて、「アジア人女性だけで住んでいることがばれた」としたら、とても状況は悪いなと思った。(実際に日本人だけで住んでいるシェアハウスを特定されて、空き巣に狙われているケースもあるみたい。こちらに来ている日本人は、貧乏学生だとしても、貧乏ワーホリだとしても、リッチな駐在だとしても、ほぼほぼPCなどの機器は持ってきていて所持品の基準が高いから。)外でばんばん扉を叩く男とは全く関係のない予備知識が、さらなる恐怖を駆り立てた。


後で分かったこと
男は警察の言う通りただの酔っ払いだったんだと思う。1時間もノックし続けたのに、窓を割って侵入とかしなかったのは、自分の家だと思ってだからだし。鍵をこじ開けようとしていたっぽいけど、結果的に鍵とは直結していないドアノブを力尽くで壊してた。


大家の探偵魂
大家はポーランド人なんだけど、「彼もポーランド人に違いない」と言っていた。「男がビール缶を置いていったんだけど、それがポーランドのビールだったから絶対そう!えー、誰だろう知りたい。同郷の人なら大体わかるのに」とのこと。どこの息子さんなのかが気になるのかな?笑



とまあ、こんな出来事がありました。
皆さんお酒はほどほどにね。
そして海外にいようが日本にいようが、戸締りはしっかりして寝ること!

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