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10. 先行文献研究:ジオキャッシング:現実世界に埋め込まれたゲームとその観光的要素(倉田陽平、2012年)|内田悠貴

<先行研究内容>
1. 現実世界がゲームフィールド
 ジオキャッシングは宝探しゲームの一種である。
 宝探しゲームではあるが、情報機材が利用され、宝箱の情報が公式サイト上に掲載され、それを見た参加者がスマートフォンを使って現地を探し回る。
 そして、その規模が全世界に及び、2012年7月末現在、全世界には184万個の宝箱と、500万人を超える参加者がいるとされている。
 更に、ジオキャッシングは参加者の協調的創造活動によって発展を続けていて、ジオキャッシングにおいて宝箱は参加者自身が設置する。そして宝箱毎に掲示板が与えられ、参加者同士がコメントし、コンテンツが成長していく。
 ジオキャッシングは2000年にアメリカで誕生し日本においては2012年7月末現在で12362個の宝箱が存在している。
 このジオキャッシングというゲームは、観光と関わりがある。参加者は宝箱を意味のある場所に設置することで、自然と各地域の名所がカバーされる傾向にある。従って、宝探しをすることで自然と名所巡りができるゲームになっている。
 近年のスマートフォンを利用した宝探しや謎解きゲームでの誘客は、コンテンツ制作に多大な労力がかけられるが、ジオキャッシングにおいては参加者自身がコンテンツを生み出すため、上手くファンを取り込むことで、地域において継続的なゲーム運営を実現できる可能性がある。

2. どんなゲームか
 ジオキャッシングにおけるゲームの流れは、以下の通りである。
① ある参加者が「ジオキャッシュ」と呼ばれる宝箱を隠す。隠し場所は、石垣の隙間や木の根本、植栽の中など様々である。宝箱もタッパーから豆粒大もの、あるいは岩石などに偽装したものなど多岐にわたる。
② 宝箱を隠した設置者は、その場所の緯度経度や捜索難易度、捜索のヒント、周辺の見所などを公式サイトに登録申請する。情報は審査の後に一般公開される。
③ 参加者は現地を訪れ、捜索を楽しむ。見つけることができれば、中のシートに名前を書き残せる。見つけられなくても捜索後に公式サイトを再訪し、コメントを書き残すことが推奨されていて、設置者への励みや別の参加者に対するヒントに成り得る。また、来訪時のエピソードや見所情報が蓄積されることで、1つ1つの宝箱の掲示板は充実したものになっていく。

3. どこに宝が隠されているのか
 都道府県別では愛知県(1962個)と突出していて、次いで東京都(1599個)、神奈川県(981個)、千葉県(789個)と続く。
 「宝箱はむやみやたらと設置されるのではなく、設置者が紹介したいと思う風光明媚な場所、あるいは何らかのゆかりのある場所が選ばれる傾向にある」というO’Hara, K.の指摘から、実際に本先行研究の筆者は、無作為抽出した日本国内の1000個の宝箱を調べ、その78%が何らかの見所案内情報を持っていると分析した。
 宝箱は具体的にどのような場場所に設置されているのかというと、最も人気の高い設置場所は公園・緑地(19%)であった。これらは公共性が高い空間で、捜索活動が人目に付きにくいため、ゲームフィールドとして好まれているのだろう。また、寺社仏閣(11%)、史跡・碑(10%)も人気の高い設置場所であった。これらは地域にゆかりが深く、歴史や伝承を伴っているため、宝箱の設置に意味を持たせやすいためと考えられる。
 宝箱の集客力はどれくらいかを見ると、平均26.4コメント(2012年5月末現在)であった。全ての参加者がコメントを書き込むわけではないため、実際はこれを上回る集客実績があると予想される。

4. 誰がどう遊んでいるのか
 掲示板上に表れた参加者それぞれの宝箱設置数とコメント数を見たところ、大きな偏りがあった。参加者の実態をより詳しく知るため、Facebook上のグループ「ジオキャッシング・ジャパン」(メンバー数415名)において、Webアンケート調査を行った。アンケート依頼文は2012年6月4日に投稿し、以降24時間で95件の有効回答を得た。
 ジオキャッシングと出会ったきっかけについて聞くと、「インターネットメディアで知った」が最も多く(44%)、次いで「友人・知人による紹介」(24%)となった。
 次に、どのような機会にジオキャッシングを楽しんでいるかについて聞くと、「ジオキャッシングを目的とした日帰り旅行をする」と答えた者が79%おり、日帰り旅行のついで(69%)や日帰り出張のついで(38%)に行う者よりも多かった。「ジオキャッシングを目的とした宿泊旅行をする」と答えた者も39%いた。ジオキャッシングが確固たる余暇アクティビティとして機能している様子が窺える。
 また、利用デバイスについて聞いたところ、95人中82人はスマートフォンを利用しており、ハンディGPSのようにPCからデータをダウンロードする手間がなく、思い立った時にゲームを楽しめる利便性がある。

5. なぜ彼らは宝探しをするのか
 続いて、彼らがジオキャッシングを行う理由について調査した。海外既存研究事例を踏まえ、16の参加動機を挙げ、それぞれに対する同意度を5段階評価させた。
 多くの回答者から同意を得られた項目は、「見つけられた時の興奮・高揚感」(平均4.6)と「地域の名所や穴場を知ることができるため」(平均4.4)であった。後者はジオキャッシングにおける観光的側面が参加者からも重要視されている。

6. ジオキャッシングによる観光地域振興の可能性
 伊豆諸島の式根島では、商工会議所の有志を中心にジオキャッシングによる誘客が試みられている。島には26個の宝箱が設置されており、そのほとんどは何らかの見所周辺に立地している。
 26個の宝箱うち21個は来島者の手によって設置されたものである。島で開催されるCITO(Cache In, Trash Out)という「ゴミ拾いをしながら宝探しを楽しむ」イベントが2009年から毎年開催されている。このイベントを機に来島者が宝箱を設置していったため、現在の数となった。式根島では地元の有志が宝箱の管理を代行することで、来島者は気兼ねなく宝箱を設置できる。また、イベントによって島民のジオキャッシングに対する理解が深まり、愛好家が気持ちよくジオキャッシングできる雰囲気が醸成されているのも魅力の1つである。

7. ゲームの力で人を呼び込む
 ここまでジオキャッシングを紹介してきたが、最後にジオキャッシング、あるいはスタンプラリーやミステリーツアーのようなフィールドゲームを観光地が実施する意義は4つ挙げられる。
① 地域の有する観光資源を認知してもらう機会が増えるという利点―普段から足を運ばない観光資源にゲーム上の必要性によって訪れることで予期せぬ発見の可能性。
② 地域の観光資源に付加価値を与えることができる―石碑や古戦場のように一般客には魅力がやや乏しい観光資源であっても、ゲームという付加価値が加わること、ゲームを通じて由縁を知ることによる来訪価値の向上。
③ 観光客の再訪が期待できる―ゲームを通じてその地域を楽しみ直すことができる。
④ 滞在時間の増加が期待できる―式根島は1日あれば徒歩で十分周れるが、26個の宝箱を捜索するには2日では足りないとされ、滞在時間が増加すれば、自然と消費額の増加が期待できる。
⑤ ゲームデザインによっては旅行者が地元の人と言葉を交わすきっかけを生み出せるかもしれない。
 以上のように、ゲームの導入は観光地に大きな効果をもたらし得るが、ゲームの力だけでの誘客ではコンテンツ作成に忙殺され、やがて疲弊してしまう可能性がある。これを避けるためには、ゲームを通じて参加者が地域の魅力に気づくように仕向け、ゲーム無しでもその土地に訪れたくなるような気持ちを喚起していかなければならない。

<論文を受けて>
横須賀市では、Ingressイベント「ミッションデイ横須賀」以降に様々なIngressを通じたキャンペーンを行っていて、リピーター獲得に積極的である様子が窺える。しかし、最終的には、ゲームに依らず再び横須賀を訪れてもらうことを目指しているのではと考えられる。

前の項目 ― 9. 先行文献研究:ジオキャッシング:無名の人々がゲームを通じて発掘・拡張する観光価値(倉田陽平、2012年)

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