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RuiKawakami
2020年1月7日 01:40
針葉樹をかたどったつめたい白亜の像がいちれつに立ち並びとおく北の氷床へ向かってつづいている。私を目覚めてすぐの私を混沌とした意識のまま北へ北へと誘い出そうとする。かつて私は地図を描くしごとをしていた。日にひとつ廃道が生まれるそれを私のまなざしのもとにかき加えるのだ廃道をより合せるとき地図にはじめて姿があたえられた。きっとこの針葉樹の列もいつかの廃道だろう木々
2020年1月7日 01:21
彼は左手に黄色の花束を持っている。彼がそのことについて考えるとき、彼は彼でなくなる。しかし次の瞬間、彼であったものは過去、彼であったことを思い出し、そのひとときに限り、彼であったものは彼を取り戻すことができる。彼が彼を取り戻したとき、彼の感覚は即座に左手の感触へと注がれる。その先には黄色の花束がある。思考が明滅する。中断はありえない。 彼がその思考を彼自身へ差し向けるまで、そう長くはかからない
2020年1月7日 01:18
北の岬に浮かぶ八面体の中にゆうべの空が映し出されている。夕焼けを行く八つの影が鳥のかたちをして飛んでいる。船着き場に係留されている昨日まで見た夢の数々。夜になるとひとつ、またひとつとひとりでに沖へ向かって漕ぎ出すだろう。雲が地表に落とす影が岬から見えるつむじ風の丘を越えてゆく。ここでできるのは何かを見送ることだけだ。もうじき冬の回廊をとおって灰色霧がやってくる
2020年1月7日 01:15
町を見下ろす二十三の鉄塔、を濡らす灰色の雨が四日つづいたさいごの晩、私たちはちらつく街灯の、橙色の光のなかで、なにとも分からない石塔の半分に祈りをささげていた。町中に散らばる枯れた道標を回収すること、そしてその苔生した文字を解読すること。それが私たちに与えられた唯一の仕事だった。その日の私たちも、カッパの中に紫色の疲れを隠しながら無心でそれらを回収しては、意味ありげに並べ替えたり不思議そうに眺めた