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栄冠は僕らに輝くわけもなく。

 金髪、メッシュ、ロン毛に浅黒い肌。アフロ、ツイスト、あとモヒカンもいたっけな。違反制服にピアス、喫煙、原付2ケツ、無断アルバイト......

本来、こんな様した高校球児の存在が許容されるのは、作られた物語上のみに限られる。けれど今から20年以上前、週刊少年ジャンプで森田まさのりさんによる漫画『ROOKIES』が連載されていたのと同じくらいの時代、僕はこのふざけた仲間と高校野球をしていた。4畳半ほどの部室を根城に、制汗スプレーと流行りの香水の匂いを充満させ、タバコをふかし、白球を追うよりも長い時間を恥ずかしげもなく純粋な興味心に費やした、愉快な阿呆たち。

自分にとっての高校野球。それは根拠なき自信と虚栄心に満ちた、若者たちによる愚行の記憶。当然ながら「こんなザコ共と一緒にされたくない」と、不快に思う新旧高校球児や高校野球ファンもきっといることでしょう。ですがひとまずはご安心を。この物語はかの漫画のように、野球によって報われるオチは訪れません。多少の山場はあれど、愚か者は美化されることなく愚かなまま、弱く、ザコらしく、引退を迎えます。

本気で練習していたわけでも、本気で甲子園を目指していたわけでもない。ただ普通より、ほんのりと野球が好きなだけ。そんな奴らに、栄冠が輝くわけがありません。今思い返しても、なにもかも半端な僕たち。それでも楽しかったと思える、一度きりの高校野球ライフ。そんな当時の記憶を思い出しながら何回かに分けて、書けるときに書いていきたいと思います。




1.ギャル男ども、ハッスル発する。


 高校受験を終えて無事に入学を果たした僕は、学校には内緒でアルバイトをしようと目論んでいた。進学先は特別頭が良いわけでも悪いわけでもない、取り柄のない僕の学力で受かるであろうギリギリライン、進学校とは名ばかりの中途半端な公立高校。ここを選んだ深い理由なんてなかったし、大して上手くもないのに小、中学と続けた野球をここにきてやめることに、なんの未練もなかった。

 入学後しばらく経ったお昼時間。上級生による部活勧誘期間がはじまった。先輩部員たちは各部顧問からある資料を事前に受け取っている。新入生の氏名、出身中学、そして何部だったかが記されたものだ。その資料を片手に上級生はひとりずつ声をかけていく。「キミ、〇〇くん?〇〇〇部、入る?」という具合に、強めな圧力で、グイグイと。

僕のもとにも上級生が何人かやってきた。なにやら様子のおかしい上級生が、何回も。フェザーやターコイズを首からぶら下げた胸元全開の人。長い髪の毛をカチューシャでまとめた金髪の人。やたら短い学ランの人に、太すぎるズボンの人。たぶん、中にはちゃんとした先輩もいたのだろうけれど、その記憶はインパクトある諸先輩方によってかき消されている。とにかくガラの悪い風貌たちが次々に「野球部入るよね?」と押し寄せる。



えぇと、皆さん野球......絶対にやってませんよね?それはさすがにないでしょ。おかしいでしょ。


 口では「気が向いたら」とか「まだ迷ってます」とか、とにかく断定的な言い方だけは避けたけれど、心の中は疑問でいっぱいだった。まぁ率直に言えば僕は慄いたのだ。得体の知れない野球部の存在に。でもその一方で、これをきっかけに僕の関心がアルバイトから野球部に傾いたことも事実だった。

 ある日の放課後、同中の友達と野球部の見学へ行くことにした。教室で制服からジャージに着替え、グラウンド横のわき道を通り、一塁側ベンチの端に座ってネット越しに先輩たちの練習を眺めた。もし万が一なにかあってもいいようにと、ふたりして中学時代の軟式用グローブを鞄の中に忍ばせていたが、それを使うイレギュラーは特に起きずにいた。

練習は部員のみで進められていった。どうやら、顧問である先生が所用で遅れているとのことだった。アップからはじまり、キャッチボール、内野のみのシートノック。このノックの最中だ。僕たちはグローブ要らずの、ある衝撃を受けることになる。

そもそもノックはコーチや監督、または責任あるポジションの人物がノッカーを務めるのが僕の中でのスタンダードだった。しかし顧問が遅れていることもあってか、この日は僕のひとつ上、2年生の先輩がノッカーを務めていた。帽子は被らず、茶髪で、練習着のズボンをやたらダボつかせているこの先輩は、にやけながらノックを打った。



「ヘイヘイッ!次サード、サードね!!サードいくよ!!イイ?イクよ!?」


異様なテンションが威勢よく言い放つ。しかしお世辞にもノックが上手いとは言えない。ボテボテすぎるゴロとハーフライナー気味な打球の繰り返しだ。僕と友だちは感情を顔に出すわけに当然いかず、そのまま見続けようとした、その直後、


「あーっもう!ノックオニムズッ!!」


ノッカーの先輩は突如キレ出し、ノックを放棄してしまった。僕たちも、限界だった。とてもじゃないが、この場で笑いをこらえる自信がない。僕と友達の目は瞬時に合わさり、すぐさまグラウンドを去ることを決意した。



 最寄駅までの道すがら、自転車に乗りながら僕たちはお互い興奮しながら話した。

「あれさ、オニ?絶対、鬼って言ってたよね?」

「鬼って言ってた!なに、どういう意味?すごい、とか超、マジ、みたいなこと?」

「いやよくわかんないけど......鬼だね!それに急にキレてノックやめてた!」

「あの先輩、自分からノッカーやるって言ってなかった?」

「言った!言ったけど、なにがしたかったんだろ。もうマジで意味わかんなかった......鬼だわ!」

「ウハハッ!鬼!鬼ヤバいわ、野球部!」



 当時は意味も使い方もよく分からなかった「鬼」で大いに盛り上がった数日後、僕と友達はそれぞれ担任に入部届を提出し、野球部の一員となった。

 真剣に甲子園を目指す選手にとっておそらくここは底辺側の集い、奈落みたいな環境だと思う。けれど幸いというべきか、僕にはちょうどよかったし、なにより僕は野球そのものではなく、野球部のキャラクター性にハマっていた。こうして、僕の高校野球ライフはわりかしegg(エグ)めの変化球からスタートしたのだった。






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