見出し画像

【妄想話】太郎・31話

「太郎・第31話」

少年は目をゆっくりと開けた。
「あれっ?龍太郎お兄ちゃん、おじいさんになってない…」
「当たり前やろ!」
「ワシを呼んだか?」
おじいさんが少年に近づく。
「呼んでない。呼んでない。」
おじいさんは少年が手を振って制止したので、立ち止まった。
龍太郎が箱の中をのぞきます。
「んっ?これは…」
「あっ、それは…」
おじいさんは梅干しを食べた表情で龍太郎を見ます。
龍太郎が箱の中にあったものを取り上げます。
「これは…。…離婚届って書いてるけど、誰と誰が?」
おじいさんは肩を落として答えます。
「ワシとばあさんじゃ。」
龍太郎は離婚届を荒々しく持ちます。
「おばあちゃんと?何があったん?おばあちゃん優しそうやったのに…ほとんど知らんけど。
おばあちゃんに何したん?もしかして亭主関白過ぎて我慢出来なかったんちゃう?あのおばあちゃんが…」
龍太郎の話を遮ります。
「ちょっと!ちょっと!質問が多いわい。そんなにたくさん覚えられないわい。…最初の質問だけど、ワシは歯が悪いので、柔らかいモノが好きじゃ。イカリングとか。」
「そんなん言ってへんわ!で、イカリング硬いし。」
「でもアレは好きじゃ。」
「イカリング?指にはめたイカリング?」
「そう!指にはめてたイカリングじゃ。」
「でもアレは噛みきれんやろ?」
おじいさんはうなづきます。
「だからいつも飲み込んでる。」
「知らんがな!てか、この離婚届にじいさんの名前がないってことは別れたくないんやろ?」
おじいさんはモジモジしながら、うなづきます。
「…そうなんじゃ。」


つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?