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ベイビーシアター『水の駅』(作・太田省吾)を観る

 THEATRE E9 KYOTOにて上演されたBEBERICA theatre companyプレゼンツ、ベイビーシアター『水の駅』(太田省吾・作)を観劇してきました。あかちゃんとおとなが楽しめる演劇、それがベイビーシアター!ということで、生まれてもうすぐ5ヶ月になる我が家の息子も連れてGO!!せっかくなので色々と記しておこうと思います。

ベイビーシアターへ行く!

 そもそも赤子を連れて何処かへ行くのがまだちょっとハードル高めに感じてしまう私。ひとまず朝から午後の観劇に向けていつもの朝寝をさせようと奮闘するも、前日から「明日は出かけるぜ」と言い聞かせたのが裏目に出てか、「今日は何か違うことが起きるぞ」と大人たちのソワソワ感を察して全然寝てくれぬ赤子。仕方がないので夫と代わりばんこに抱っこしつつ(抱っこしてたら寝るが置くと起きる)、身支度を整えつつ、夫の家族と合流してあっという間に出発!会場まで車で送迎してくれて大変ありがたや…!

 車内で少しばかり寝てくれたので、これはもしかしてこのまま本番中も寝通しかな?!と思うも、会場に着いたら目がぱっちり。今回は5名ほどの赤ちゃんと、大人のお客さんが親御さんも含めて20人前後。対象が0歳〜1歳6ヶ月までの回と、1歳7ヶ月〜2歳12ヶ月の回に分かれているので、同じくらいの月齢の子もいるかな?!と期待するも、5ヶ月の息子が圧倒的最年少でした。
 それにしても11ヶ月の子はもう立っていてびっくり。そしてスリム。赤ちゃんたちがお互いを興味深そうに眺めているのが印象深い。「アンタだれ?」「お前まだ立てないん?」みたいな会話(?)が飛び交ってそうな雰囲気がある。

 ところで会場には別途おむつ替えルームと授乳室が用意されており、子供の扱いに慣れているスタッフさんが数名常駐。そして上演中の途中退場、入場も自由自在とのことで、とにかく子連れの不安感を限りなく減らしてくれているのが分かって嬉しい!

 さて、上演前にロビーで作品の説明などなどを受け、ついに会場へ!!

 舞台を開放(?)し、水道の周りに自由に座る。そして厳かに始まる劇。最初の数分間は、赤ちゃんたちはみんな各々集中していた感じだった。(何かを見つめたり、ゴミ袋ガサガサしたり笑)なるほど結構みんな舞台を受け入れているんだな〜と思っていると、さあうちの息子がぐずりだした!!
 
これ、普通だったらほんとハラハラで申し訳ないんだけど、そこはベイビーシアター!みなさんが微笑ましく見守ってくれるじゃないですか…優しい世界…!!客席がフリーでどれだけウロウロしても良いため、夫がぐずる赤子を抱いて俳優の近くへ…、なんてことも可能。少しも嬉しくなさそうな赤子を見てフフフ、と笑うお客さんたち。
 とはいえ結局ギャン泣きまでとはいかないものの、やはり朝寝不足やら知らない人をたくさん目撃した驚きやらでどうも落ち着いてくれないので、夫と赤子は一旦退場。この時もスタッフさんが心優しく誘導してくれます。

 息子が騒いだおかげか(?)、少し会場の緊張感もほぐれ、だんだんと他の赤ちゃんもハイハイで水道に近寄ったりなど大胆に!この時も常にスタッフさんが親御さんと交流しつつ、赤ちゃんを安全な状態で見守ってくれます。赤ちゃんの介入も想定の範囲内なので、その間も俳優さんは適度に赤ちゃんと目を合わせつつ演技を続けます。すげえなあ。

 劇も後半になって、夫と赤子が復帰。赤子は気を取り直している様子。どうやら抱っこ紐に収まっていた方が良かったみたい。(抱っこでいいかな〜と思って会場の外に抱っこ紐を置いてきてしまっていた!)

 抱っこ紐に収まった息子は、しっかり俳優さんや舞台を端っこからじーっと観察しておりました。一体全体この子が何を思っているかなんて全然分からないのだけど、確実に日常生活では得られない「何か」を身体で感じていたんだろうなぁ、としみじみ。
 子供たちの反応を見て、大人もまた何かを得る…。正に、BEBERICA theatre companyのテーマである「あかちゃんと一緒にせかいをつくる」、を体感できたような気がしました。

 終焉後は写真撮影もOKで、水道と記念撮影をして無事終了。ちなみに息子以外の子はそんなにぐずったりしてませんでしたね!

あかちゃんとおとなのための演劇ベイビーシアター 『水の駅』
2022年9月2日(金)~4日(日)/THEATRE E9 KYOTO


『水の駅』、雑感

 ところでこの太田省吾の沈黙劇『水の駅』は三年前から縁がある。釜山で観劇した際の感想はこちらですが、たいしたこと書いてないので読まなくていいです爆

 実はこの時の上演時間は2時間越え。そして今回のベイビーシアター『水の駅』は、同じ作品でありながら上演時間1時間ほど。そんなにコンパクトになって大丈夫なのか?!と勝手に心配していたんですが、大丈夫でした。早送りみたいになったり、何処かのシーンをカットするのかしらん…?などと思ったのに、全くそんなことはなく、事前のインタビューで聞いていた演出家・谷さんの仰っていた、

「めちゃくちゃ普通に『水の駅』作ってますよ」(笑)。

という言葉が本当に本当だった。(元記事はこちら!↓)

 ほんとにめちゃくちゃ『水の駅』だったんすわ。私が3年前に観た『水の駅』の良さが、そのまんまだったんすわ。(もちろん様々に異なる部分はあるにせよ)それほどまでに太田省吾の『水の駅』って、「水に人が集まる」ということに特化したからこそ、凄く普遍性に満ちた傑作なんだろうなあ、と思う。

 さて、そんな『水の駅』に今回赤ちゃんという存在がバンバン介入していたわけなんだが、これが非常に感動的だった。舞台には色んなジャンルの大人が行き交い、水を求める様が描かれるんですが、そこにただ純粋な興味関心を持ってウロウロする赤ちゃんが混じると、「あ、これが社会じゃん」となるんです。大人がいて子供がいる、これこそが社会じゃん、『水の駅』って社会(人間)を映す芸術じゃん、赤ちゃんが参加したら限りなくこれ真の芸術じゃん、みたいな。(じゃんじゃんすいません…)

 当たり前のことなんですが、普段演劇の舞台には大人しかいなくて、その大人たちが社会を模した演劇をして、それを我々が観て…って感じで、そこに赤ちゃんがいることはほとんどないですよね。でもベイビーシアターにはいる!ここに、赤ちゃんいるなう!!ってことがこんなに新鮮な驚きと、いや本当はそれこそが現実なのに、むしろなんで今まで舞台には赤ちゃんいなかったわけ?とすら思ってしまう。(言わずもがな、全ての演劇に赤ちゃん投入しろよって話ではありませんよ!!)

 特に私が感動したのは、乳母車を押す男女(そこに赤ちゃん的なものは乗せられていない。なので、子を失ったか、子を持てなかったか、等々の何か事情があるように思える)が登場した時、ちょうど水道のところには赤ちゃんが2人いまして、男がふいにじっと1人の赤ちゃんを見た。そしておもむろにメガネをかけると、ハッとして後ろに下がったのです。ハッとして後ろに下がったのです!!(2回言いました)
 これがもう、なんかウワーーーーッ!!!!てなってしまいました。男は今何を思ったのだろう。もしかして今はいない自分たちの子供のことを重ねたのか、あるいは何か別の感情が押し寄せたのか?…すごい、すごすぎる。沈黙劇だからこそ、男の感情が具体性を持たない究極の「エモ」となって私を襲いました。本当にエモかったです。

 あともう一つが、途中まで上の方にいたチェロの方が(ていうかチェロ生演奏なんですよ素敵が過ぎる)移動してお客さんの側まで来て再び演奏を始める時。そこにハイハイの赤ちゃんが興味津々でチェロに近づき、すぐ近くにストンと座ったんですね。これはもう…なんか…「あっ、この子は今生まれて初めてチェロというもの、そしてチェロの音色を聴いているのだ、こんなすぐ側で!」(多分)、と思ったらなんか感極まりました。
 これは何だろう、自分が子持ちになったからこういう感情になったのか、ベイビーシアターという場がそうさせるのか、よく分かりません。でも、本当にエモかったです。

 なんかこう、子供って、赤ちゃんて、世界にあらかじめ確約された「陽」の存在なんだなあ、とつくづく思いました。『水の駅』に出てくる人々がそこはかとなく「陰」をまとっている気がするので、その辺の対比が凄まじかったのだと思います。まじで。

 とにかくベイビーシアター『水の駅』、本当に素晴らしかったです!ぜひ今後も上演されてほしいなあと思っています。また息子と観たい。そして多くの人たちにこの感動が届いてほしい。現場からは以上です。

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