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2023年に出合った、思い入れのある10曲について

気がついたらあっという間に大みそか。
ことしもいろいろなできごとがあり、いろいろなことを考えたり考えさせられたりしながら、その時々の嗜好にしっくりくる音楽を細々と探し続ける日々だった。
Apple MusicのReplay’23によると2,881曲を聴き、12本のライブ・フェスに足を運んだ2023年。この記事では、ことし聴いた曲のなかで特に印象的だった10曲のことをつらつら書いてみようと思う。とても長文です。


※出合った時系列で番号を振っています
※それぞれの詳細な補足は割愛しています

1. Body Paint / Arctic Monkeys

2022年10月リリースのアルバム『The Car』収録曲。洋楽にあまりに疎すぎる私はこのアルバムをきっかけにArctic Monkeysを知った。たしか発売された時期から聴き始め、2022年に出たとは思えない芳醇なクラシカルさに衝撃を受ける。大名盤『AM』もこのタイミングで知りどハマり。王道的なギター・ロックを聴かず嫌いしていたこころを解いてくれた。
3月に行ったZepp Hanedaの追加公演で聴いた「Body Paint」が特にかっこよかった記憶があるのでランクイン。人生で初めて観た海外アーティストのワンマンがアクモンという事実、一生誇っていきたい。

2. NEKO (Remix) feat. 呂布/MUD / OKAMOTO'S

2016年12月リリースのミニアルバム『BL-LP』収録曲。ギターのリフ、ベースラインと軽やかなラップがとにかく小気味良く、一時期はこればかりリピートしていたし、いまもしょっちゅう再生している。イヤホンから流しながら道を歩くと、なんだかかっこいい自分になれているように錯覚できるので単純に気分が良くなる。メンバーのハマ・オカモト氏のラジオ「THE TRAD(TOKYO FM)」をきっかけに聴き始めたOKAMOTO'S。いまではハマさんは敬愛している人物のひとりであり、OKAMOTO'Sはことしツアーに2本も行ってファンクラブにも入会した。メンバーそれぞれがバンドに向き合うスタンスや距離感も素敵なんだよな。

3. どこへも行かないで / 柴田聡子

2023年4月配信リリースのシングル。2022年リリースのアルバム『ぼちぼち銀河』に続いて"聡子さんがまたやばい曲だした!"とひとり盛り上がっていた。いままさに感じている気持ちをかんぺきに言い表してくれることばはとても見つかっていないけど、それでも最大限の力を尽くして近いことばをどうにか当てはめようとして、このたしかな手ざわりを残そうとしているような歌詞が、とても刺さった。聡子さんの曲は私にとってくるりの「奇跡」の歌詞で言う"気づかないような隙間に咲いた花"なんだよなあ。その理由も言語化してみたいけど、うまい具合のことばをみつけるにはもう少し時間がかかりそう。

4. Special (Feat. SZA) / Lizzo

アルバム『Special』を経て、SZAを客演に迎えたバージョンは2023年2月配信リリース。この曲と衝撃的な出合いをしたのが4月。きらびやかでパワフルで、それでいてとてもやさしく寄り添ってくれるようなこの曲にどれだけ救われたか分からない。自分の選択に自信がもてず、このままで大丈夫なのかなと漠然とした不安がついて回るときが多々ある日々、変に考えすぎて狭くなる視野や極端な方向に走る思考をもとに戻してくれる効能がある。もはや薬である。

そういえば6月にこんな記事を書いていたけど、結局フジロックには行かなかった。なんとしてでも会いに行かなければならない、なんて強いことばを使っておいて有限不実行なことをここに懺悔。でもいつか絶対Lizzoにお目にかかれますように。

5. that place is burning feat. ハナレグミ / KID FRESINO

2023年6月配信リリース。私にとって紛うことなきことしのNo.1ソングでした。言わずもがなストリーミングでは最も再生した。
「何気なく続く穏やかな日常と、そこに横たわっていると認めざるを得ない絶望や喪失や、その先に待ち詫びる死のようななにか、しかしそれでも何事も起こっていないかのように、時には残酷なまでに変わらず過ぎていく日常」みたいなもの(?)に強く惹かれてしまうところがあるな、とこの曲を聴いて思い当たった。歌詞全体を通して意味がありそうでなさそうでありそうで、それをこんなにも軽やかかつ鮮烈なサウンドに載せているのがおそろしく美しくて、それこそ知っていることばをどれだけ尽くしてもこの曲の魅力は底がない。特別でかけがえのない一曲です。ハナレグミがゲストで登場した8月の横浜ワンマンで聴けてうれしかった。

6. ハンキーパンキー / ハナレグミ

2004年1月リリースのアルバム『日々のあわ』収録曲。「that place is burning」に加え、8月の横浜ワンマンで「光と影」を聴いてすっかりハナレグミの虜になる。最初永積さんが歌い始めた瞬間、鳥肌がぶわーっと立ったのを今でも覚えている。奇跡の声。
そんなハナレグミを9月、埼玉は秩父のWIND PARADEで再び観たときにめちゃくちゃ良いなあと思ったのが「ハンキーパンキー」だった。張り詰めた状態からもとに軌道修正してくれるような「Special」との共通項もあるけれど、より自然体でただそこにいるのを肯定してくれる曲に感じる。ふだんからこの曲の空気感を身にまとっていられたらいいな。

7. WALKING IN THE RHYTHM / Fishmans

1997年7月リリースのアルバム『宇宙 日本 世田谷』収録曲。人生ベストソングを問われたら迷わず「ナイトクルージング」を挙げるくらい私に大きな影響を与え続けているFishmans、9月のWIND PARADEと10月の東京ワンマンで「WALKING IN THE RHYTHM」を聴いて以降、10~11月は取り憑かれたように再生していた。ピアノとベースのリフ、曲後半でひたすら繰り返される「Walk in the rhythm…」のフレーズがずっと頭のなかを巡り、不思議な感覚になる。全体的に不安定で冷たくて暗い雰囲気なんだけど至って飄々としているような、ぜんぶ知っててこそのこの態度に惹かれてしまう。”この胸のリズムを信じて歩き続ける”。人生、WALKING IN THE RHYTHMそのものすぎるなあ、やっぱ。

8. Cupola / cero

2022年3月配信リリース。2023年5月リリースのアルバム『e o』にも収録。このアルバムはほんとうによく聴いたなあという体感があり、特に夕方、電車に乗って帰るときに聴く音楽として真っ先に選んで再生した割合がとても多かった。日が暮れてだんだん薄闇に紛れていくまちが流れ、ちょっと疲れた自分が運ばれていく帰路、気が付いたら最寄り駅をとうに過ぎ、現実とも非現実とも見分けのつかない世界に境目なくつながっている、みたいな感覚になれるのがなんとも心地よかった。シングルというより、アルバムを構成している要素のひとつとしての「Cupola」が好きなんだよなあ、サビあとのメロディーラインがなんか妙に。

9. 朝顔 / くるり

2023年10月リリースのアルバム『感覚は道標』収録曲。20年以上のキャリアを経たこのタイミングでオリジナルメンバー森さんを迎え、爽やかで力の抜けたアルバムにこのタイトルをつけられるのは流石くるりだなあと思う。なかでもお気に入りなのが「3人のなかで「禁じ手」のひとつだった、『ばらの花』的な何か、を即座に解禁」したという「朝顔」。圧倒的な「始まりの予感」がするイントロに胸が高鳴るし、自分のことなのに妙に冷静で他人事のような、そういう態度でもって穏やかにセルフコントロールをしているような歌詞にとても共感というかすっと沁みてくる。
ことし公開された映画「くるりのえいが」では、1つのピアノで3人がこの曲のイントロを弾くシーンがあって、バンドとしても人としても年月を重ねても、変わらず残る関係性があるのは素敵だし理想的。

10. SHOZEN / 家主

2023年12月配信リリース。同月リリースのアルバム『石のような自由』にも収録。元気がなく落ち込んだ様子を指す「悄然」。たいていこういうのは望ましいものではなくて、できるだけ早く抜け出したいと悶々とするわけだが、果たしてそれを急ぐ必要はあるだろうか、と思う。ネガティブな気持ちだって自分から沸き起こったのはほんとうで、それを無理にどうにかしようとするのは一種の自己否定にならないだろうか、気持ちの存在自体は認めた上で、しばらく同居させたり飼いならしたりしたっていいではないか、とか。アルバム一曲目にふさわしいギターメロと、内省的な歌詞が歌われているとはみじんも感じさせないくらいのカラっとしたロックがとてもかっこいい。2024年はライブ行きたい。


言わずもがな、なにかを好きになったりハマったりするのは、そのときの自分の状況や気分、タイミング次第だったりする。だからことしも一年、私自身の価値観に影響をもたらしてくれた曲がたくさんあったこと、出合えたなあ、と実感できた瞬間が何度もあったことをうれしく思う。

2024年もたくさんの良い出合いがありますように。