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雅体文字Ⅴ|「詩経」から美しい言葉を選び名を授ける

                                                                                                          王超鷹essay

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赤山 (1)

詩経から名を選ぶ

私(王超鷹)は、文化研究者を名乗っているためか、中国の知人から新生児の名付け親を頼まれることが多々あります。そうした時、雅体文字で詩経の詩をイメージし、名前をつけるようにしています。
詩経の詩を雅体でイメージすると、古代中国民衆の祈りやみずみずしい生活感情があふれ出し、誕生した子供たちの成長を願う真摯な祈りに通じるのです。

女の子の名前にふさわしいと思われる名を詩経から選び、雅体文字にデザインした作品を紹介します。

【初】

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【初】Chū チュゥ 大雅・蕩(トウ)より
「靡不有初,鮮克有終」
《王超鷹書き下し文》初め有らざる靡く、克く終わり有る鮮し
       (はじめあらざるなく、よくおわりあるすくなし)
《王超鷹翻訳》人は生まれると、その初めはみな善であるのに
        最後まで善が続くのは実に難しい

◆「初」を使った名:初蕊Chū ruǐ チュゥルイ/初韵Chū yùn チュゥユィン/初馨Chū xīn チュゥシン/初依Chū yī チュゥイ/初翎Chū líng チュゥリン

【惠】(けい)

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【惠】(マイセン:meissen)

【惠】Huì ホェィ 周頌(シュウショウ)・維天之命(いてんしめい)より
「駿惠我文王、曾孫篤之」
《王超鷹書き下し文》駿いに我が文王に惠わん、曾孫之を篤うせよ
   (おおいにわがぶんおうにしたがわん、そうそんこれをあつうせよ)
《王超鷹翻訳》文王の徳によくよく従い、
       子々孫々これを厚くできるよう励んで行かねばなならない

◆「惠」を使った名:駿惠Jùn huì チンホェィ/雯惠Wén huì ウェンホェィ/佰惠Bǎi huì バイホェィ/凌惠Líng huì リンホェィ/
惠風Huìfēng ホェィファン

【楚楚】(そそ)

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【楚楚】Chǔchǔ チュゥチュゥ 
           曹風(そうふう)・蜉蝣(ふゆう:かげろう)より
「蜉蝣之羽、衣裳楚楚」
《王超鷹書き下し文》蜉蝣の羽、衣裳楚楚たり
          (ふゆうのはね、いしょうそそたり)
《王超鷹翻訳》蜉蝣(かげろう)の羽は、
       曹の君臣の衣装のように鮮やかに美しい
◆「楚」を使った名:
裳楚Shang chǔ チャンチュゥ/楚梵Chǔ fàn チュゥファン/
楚凌Chǔ líng チュゥリン/晴楚Qíng chǔ チンチュゥ/
含楚Hán chǔ ハンチュゥ/雏楚Chú chǔ チュゥチュゥ

*「楚楚」日本人モデルのデザイナーブランド

【舒窈】(じょよう)

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【舒窈】Shū yǎo シュゥヤァ 陳風・月出(つきのひかり)より
 「舒窈糾兮、労心悄兮」
《王超鷹書き下し文》舒にして窈糾たり、労心悄たり
          (じょにしてようきゅうたり、ろうしんしょうたり)
《王超鷹翻訳》あまりにも美しく愛おしすぎて心がざわつく、
                         この不安な気持ち
*「舒窈」友人である女流詩人の名

【燕嘉】(えんか)

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【燕嘉】(マイセン:meissenヨーロッパの白磁)

【燕嘉】Yàn jiā イェンチャァ 小雅・南有嘉魚(なんゆうかぎょ)より
「君子有酒,嘉賓式燕綏之」
《王超鷹書き下し文》君子酒あれば、嘉賓式って燕し之を綏んず
       (くんしさけあれば、かひんもってえんしこれをやすんず)
《王超鷹翻訳》君子は酒がたくさんある時は、立派なお客様をたんと呼び、
       宴を開いて安らぐものじゃ

【楽】

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【楽】

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【楽】(清王朝の磁器作品)

【楽音】Yuèyīn ユェイン 幼なじみの名。
「詩」と「楽」は同源、「楽」と「薬」も同源。
楽は心を癒す、また詩も心を癒すことができます。
◆「楽」を使った名:悦楽Yuè lè ユェルゥ/楽月Lè yuè ルゥユェ/
楽玥Lè yuè ルゥユェ/月楽Yuè lè ユェルゥ/龠楽Yuè lè ユェルゥ

詩経から引用したその他の名

☆零露Líng lù リンルゥ《鄭風·野有蔓草》より:“野有蔓草,零露漙兮”
《王超鷹書き下し文》野につる草あり、零露(レイロ)漙(タン)たり
《王超鷹翻訳》野のつる草は、朝つゆに濡れている

☆清婉Qīngwǎn チンワン《鄭風·野有蔓草》より:“有美一人,清揚婉兮”
《王超鷹書き下し文》美しき一人(イチニン)有り,
               清揚(セイヨウ)にして婉(エン)たり
《王超鷹翻訳》目もと涼しく、しっとりとしてたよやかな美しい女が一人

☆佩玖Pèi jiǔ ペイジォゥ《王風·丘中有麻》より:“彼留之子,詒我佩玖”
《王超鷹書き下し文》彼この子(シ)を留む,
             我に佩玖(ハイキュウ)を詒(オク)りしに
《王超鷹翻訳》きっと、あの中であの人を引き止める人がいるんだわ、
        悔しいわね、あの人は私に帯の玉をくれたというのに

☆静好Jìng hǎo チンハォ《鄭風·女曰鶏鳴》より:“琴瑟在御,莫不静好”
《王超鷹書き下し文》琴瑟(キンシツ)御(ギョ)に在り,
                  静好(セイコウ)ならざるなし
《王超鷹翻訳》琴瑟をそばにおいて奏で、しとやかに雅やかに楽しみなさい

☆如雪Rú xuě ルゥシュェ《曹風·蜉蝣》より:“蜉蝣掘閲,麻衣如雪”
《王超鷹書き下し文》蜉蝣(フユウ:かげろう)掘閲(クツエツ),
                       麻衣(マイ)雪のごとし
《王超鷹翻訳》カゲロウの抜け殻のように、
              雪のような真っ白な麻の衣装であなたを待つ

☆荟蔚Huì wèi ホィウェィ《曹風·候人》より:“薈兮蔚兮,南山朝隮”
《王超鷹書き下し文》薈(ワイ)たり蔚(ウツ)たり,
            南山(ナンザン)に朝(アシタ)に隮(ノボ)る
《王超鷹翻訳》思いもつもれば南山に、朝から雲が立ちのぼる

☆伊湄Yī méi イメィ《秦風·蒹葭》より:“所謂伊人,在水之湄”
《王超鷹書き下し文》所謂(イワユル)伊(コ)の人,
                      水の湄(ホトリ)に在り
《王超鷹翻訳》私の愛しいあの人は、川の岸辺にいます

☆瓊華Qióng huá チュンファ《斉風·著》より:“尚之以瓊華乎而”
《王超鷹書き下し文》
       これに尚(クワ)ふるに瓊華(ケイカ)を以(モッ)てす
《王超鷹翻訳》うるわしい瓊花の飾りをつけて、はなやかなお人がら

☆清猗Qīng yī チンイ《魏風·伐檀》より:“河水清且漣猗”
《王超鷹書き下し文》河水(カスイ)清くして且(カ)つ漣猗(レンイ)
《王超鷹翻訳》黄河の水が突然澄(す)んで、さざ波が寄せてくる

☆子佩 Zi pèi ズゥペィ《鄭風·子衿》より:“青青子佩,悠悠我思”
《王超鷹書き下し文》青青(セイセイ)たる子(シ)が佩(ハイ),
                    悠悠(ユウユウ)たる我が思い
《王超鷹翻訳》あなたの帯につけた青い玉を思い出します、
                 ずいぶん久しくお会いできませんね

詩経の詩に込められた願い

周イメージ

周王朝領土図イメージ

詩経からは、広大な風景がイメージされます。
紀元前12世紀頃から周という王朝が中原を制し、華北の黄土地帯には城壁をめぐらした古代都市があり、その都市一つ一つが国家でした。

城壁の外側には農園が広がる。広大な大地、地平線から日が昇り始めると城門が開き、農夫たちは農具を担いで出ていく。
農夫は田畑を耕しながら歌う。農作業の動作は4拍子。詩経の詩も4つの漢字の連続4拍子から成り立っている。
詩経の「国風(民謡)」を読むと、目前に農作業をする農夫たちの姿が浮かんでくるばかりか、歌うリズムまで聞こえてきそうです。

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(唐代宮女の雅楽図)

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ナシ族民間雅楽(撮影2002年)

詩経の愛の詩は、風が漂い草や枝をなびかすように、詩を読む声は漂い相手の心を動かします。詩を歌い相手の心に誘いをかけるのは、古代の恋人たちの習わしでした。

詩経の中には、相手の非を詩に歌い反省を求めるものも多くみられます。誰からともなく歌われ次第に広まり、その歌によって為政者の心を反省させ、正しい政治に戻そうとする、世論を表わす歌もありました。

また先祖を神とあがめて、子孫が真心を込めた詩は、詩を歌い先祖の霊を動かして、子孫に福をおろすものでした。

詩経の詩は、時には農作業の力を呼び起こすものであり、時には詩によって愛する者の心を引き寄せ、時には民衆の苦しい境遇を歌い為政者に反省を求め、時には神に子孫の訴えを届け平和と繁栄を願う者でした。
全ての詩は自分の思いを歌にし、相手に感動を与え心を動かそうとする切実な願いなのです。

【泉和丹】泉とダンの物語

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泉和丹

【泉和丹】泉とダンの物語
日本人の女の子「泉」とオーストリアの女の子「ダン」は中国を旅する中で知り合い、仲良くなりました。別れの時、遠い国の二人は二度と会うことが出来ないかもしれません。そこで、彼女たちは二人の名前を印章に刻んで、一生の記念にしたいと考えました。不思議な縁で二人に関わった私が、印を刻むことになりました。二人の友情を表すために「泉と丹(ダン)の姉愛」と記し「海を渡る鶴」を刻み、印の輪郭も、丸を楕円にして丸い地球の距離を縮めることができることをイメージしました。
「遠く離れていても、
         心は鶴のように海を渡り、
                   いつもそばにありますように」

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