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世界変わった話

10万円あったら何しよかな

迷う事なく決めている。
補聴器を買うと。

理由
私は突発性難聴だ。片耳の高音が聴こえない。そして聴こえない高音域の耳鳴りがずーーーっと鳴っている。いきなり現れてかれこれ1年以上、鳴り止む気配はない。毎日とても元気が良い。雨の日なんかは特に。厄介なのは騒音と共鳴すると、耳鳴りは音量を上げ頭に響き渡る。耳に狂犬を飼っている。喧しい。なんとかしたい。

出会い
補聴器と出会ったのは前職を辞めてすぐ。ゲリラ豪雨に遭遇し、避難した商店街で看板を目にした。雨が降り止む様子はない。ちょっと覗いてみよっと。軽い気持ちで中に入ると、優しそうな白衣の先生が話しかけてきた。お茶とか出してくれる。これは数分じゃすまんぞと、身構えながらお茶をいただく。美味しい。自分から乗り込んだにもかかわらず、経緯を話すのは気が重い。緊張して吃りながらもぽつぽつと話をした。まずは検査をしてみましょう。となった。

検査
仕事辞めたし良くなってないかな〜という淡い期待も虚しく、やはり難聴であり、言葉が聞き取れていないことも判明した。落ち込んだ私の前に、補聴器は現れた。ケースを開ける。
ちっさ!!え、軽っ。
思ったことが脳を介さず声になる。
先生、ニコニコしてる。
装着感があまりにもないため、気づかぬうちに無くしてしまいそうだ。儚いという言葉が似合いすぎる。
祖母が使ってる我、補聴器。みたいな強い見た目の補聴器しか知らなかったので、あまりのフォルムの美しさに慄く。

PCで私の聴こえる音域を入力し、慣れた手付きでプログラミングしてくださる先生。音を調整し完了。眼鏡で言うと、視力を調整するとき分厚いレンズを入れ替えたりする作業になるんかな、補聴器ハイテクすぎん?

その後、補聴器をつけた状態で再検査、微調整を繰り返した。
よかったらサンプル借りていきます?と提案される。ちなみに音楽モードもあると言われたので、趣味でバンドをしている私、歓喜。

使用感
すっかり雨は上がり家に帰る。手始めに大好きな米津玄師さんの海の幽霊を聴くことに。
音が流れ始めた瞬間、泣いてた。
え、いま何が起こってんの?感動と動揺。
ぽかぽかの陽気に揺らぐカーテンがちらつく。
身体は固まって地べたに座り込んだまま。
涙、だばだばと流れ続ける。
こんなにも、綺麗だったのか。
音が、歌声が、脳が とてつもなくクリアだ。
何層にも重なった音は立体的に聞こえる。
音の層がみえることで、映像がより際立って綺麗。迫力が凄まじい。4分15秒、見入った。
我ながら初めの選曲センスに惚れ惚れした。

あの感動は今でも忘れられない。

決意
この時点で、補聴器の購入を決意した。何日か使った結果、聴こえは良かった。音楽スタジオでも久しぶりに自分の奏でる音を認識できた。ただ、使用後に耳鳴りが悪化してしまうため、使いながら慣れていく必要があるんだろうと思う。レンタルした補聴器の中で、私が気に入ったのは片耳で約30万。
たっっかいわ!心がひゅっとする。そこは眼鏡よりにしてくれ。お金を貯めると心に決めた。

現在
世界が変わった。もはやマスクをしていない人の方が少ない。口の動きがわからないことは難聴者にとって致命的なのだと痛感する。
え、なんて?って聞き返しすぎて流石に怒られそうな気がする。私に補聴器をくれ。今こそ補聴器が欲しい。

最後に
眼鏡やコンタクトは安価で手に入るし、当たり前に社会に周知されているように思う。
補聴器はどうだろう?
少なくとも私は、自分がこうなるまで補聴器について詳しく知らなかった。仕事で対応することの多い難聴者には、大きな声で話せば良いと思っていた。何を話しても、にこにこと笑っていた、あなたたちの気持ちを理解できていなかった。
聴こえていた世界も、聴こえない世界もどちらも私は生きていく。今の耳も大事な大事な私の一部だ。補聴器が欲しい。

ここまで長々と読んでくれてありがとう。
難聴者でも重症度や症状に違いがあるため、補聴器が適応でない人もいる。
一概に良いとは言えないが、私は確実に世界が変わったのでそれを伝えたかった。
どんな形であっても良い。あなたや周りのいろんな人に伝わればいいなと思う。

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