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あるおばあさんの話

最近亡くなった、同じ団地に住んでいたおばあさんの話です、

その人と初めて会ったのは5,6年前
引っ越して来たばかりで、コインランドリーの場所を
駐車場の車で仕事に行く準備をしていた私達に聞いてきた時です。
小柄でシャンとした方に見えました。

早朝から大きなリュックを担ぎ出掛けて行くので
何処かで働いているのだと思っていました。
何度か道を一生懸命に歩いているのを見かけた時は
車に乗せてあげようかと思った事もありましたが、
後に近所の人に聞いた話しでは
亡くなった母親の未着用の服を譲ってあげたところ、
今度はその人が着ていた服が欲しいと言われて驚いた事
近くのコンビニで面識もない人に
「500円貸して」と言ったとか、
たまたま同じ団地に住んでいたその男性は可哀想に思い
「もう返さなくて良いよ」と言い1000円あげたところ
何処で聞いたのか家にチャイムも鳴らさず鍵がかかって無いドアから
ずかずかと部屋に上がり込んで来たとか
とんでもなく非常識な人なのだと聞かされました。

絶対に関わっては駄目だとも言われました。

週に2,3回夫を職場がある駅前まで送って行く時に必ず9時前に
一生懸命少し曲がった腰で歩いて行くのを団地から7㎞位の所で目にしていました。(6時位に家を出て、3時間掛けて7㎞を歩いている勘定に
なりますが、歩くスピードはとても速いので、何処かで休憩を取っていたのでしょう)
70台後半だと聞きました。
夫も「凄いなぁ!とても真似出来ん」と言って2人で感心していました。

12、3㎞の道のりをほぼ毎日雨の日も
雪の日も、猛暑の日も、だだひたすらテクテク歩くのです。
帰りは18時過ぎに駅から25分バスに乗って帰っていたとか。
一年365日ほぼ同じ生活を送っていたようです。

何年も背負っていたリュックを止めて
大きな袋を2つ下げるように成った理由を聞くと
家でお風呂に入る事は無く、真夏でも月に1、2度銭湯に行く程度なので
背中に酷い汗疹が出来リュックを背負う事が出来なくなったとか
余りにも気の毒で、普通であれば
誰でも手を差し伸べたいと思うでしょうが
関わってはいけない人なのです。
聞けば立派な企業に勤めている息子さんも県内にいらっしゃったとか、

実の子供でも関わらない、常識を持たない人だったようです。

夜、階段に何時間も座っていたとか
夜中に大きな声で叫んでいたとか
夏ごろ自ら電気を止めていたのに家の中は暑いし暗くて怖いからと
玄関前で座り込んでいたとか
駅前の店で万引きをして捕まったとか
色々な噂を耳にしました。
結局毎日何処に行っていたかは分からないままでした。

夫が何度か駅前の商業ビルの中とか、駅周辺を行ったり来たりしているのを
目にした事があった様ですが…

去年の夏ごろから姿を見かけなく成ったので
夫と、病気になって入院でもしているんじゃ無いかと話していましたが
10月に入って亡くなった事を知りました
同じ棟に住む方が引越し作業中の人に聞いたところ
8月に亡くなられたそうで(とても元気に見えていたので驚きました。)

その方は息子さんだと言っていたそうです。
高級な車に乗っておられる、
60前後の背の高い容姿の良い方だったようです。

まぁ色々な事情はあるのでしょうが、
孤独に暮らしていたであろう人を思うと悲しくなりました。

毎日、毎日一生懸命にテクテク歩いていた小さい背中を
もう2度と見ることは無いのだと思うと悲しくて、淋しさを感じるのです。

我々にしたら気の遠くなるような距離を、只ひたすらに歩く姿をみると
自分達も頑張らなければならないと思えましたし、
誰にも真似出来ない凄いことだと、
夫は「尊敬するわ」と何時も言っていました。

私達は殆んど仕事で不在でしたが、
全く関わりを持とうとしなかった事は間違いでは無かったのか
夫と2人で【少し悲しくて淋しいね】と言いながら
自問自答している今日この頃でです。








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