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企業広報のお仕事内容が、あまり知られていない理由

広報のお仕事というと、たいていの人は商品やサービスを紹介する「マーケティング広報(マーケティング・コミュニケーション)」を思い浮かべるようです。実際、消費者の皆様の目に触れるものはマーケティング広報による情報発信やイベントが大半かもしれません。

これまで企業広報(コーポレートコミュニケーション)とマーケティング広報の両方を経験してきたのですが、お仕事としては両方とも楽しく、奥が深く、キャリアとしてもお勧めできると思っています。だからこそ、世の中に企業広報のお仕事内容があまり知られていないのを、かねてから残念に思っていました。もっと知られていたら、企業広報を目指す人がもっと増えるのではないか、と。

まず企業広報の定義を見てみたいと思います。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会のウェブサイトに載っている用語集には、次のように表記されています。

コーポレート・コミュニケーション(Corporate Communication)
「社会や消費者に対し、企業の理念や活動内容、情報を伝達する活動。PR・広報、広告、IRなどを中心に、オープンハウスやファクトリー・パーク、地域社会への貢献、エコロジーへの取り組みなどという形で実践される。企業活動の支持・理解を得ることで、マーケティング上の戦略につながる」
出典:https://prsj.or.jp/dictionary/

企業の理念を伝えるのが企業広報、商品・サービスについて伝達するのがマーケティング広報で、お互い連携して実施していきます。企業を人に例えると、写真家Aさんの作品や関連グッズを紹介するのがマーケティング広報、Aさんの環境への取り組みや考え方、動物を愛する気持ち、写真家としてのプライドを紹介することでAさん自身の魅力を広めるのが企業広報、というイメージです。

企業広報の範疇に入る活動は大きく分けると次のとおりです。

 決算発表リリース(IRと連動)
 役員人事発表
 M&Aなど企業活動に関する発表
 CEO・社長などトップメッセージ(対外・社内)
 危機管理広報(イシュー、リスク、クライシス)
 SDGs(持続可能な開発目標)やCSR活動報告
 インターナルコミュニケーション*専門の別チームが担当する場合もあり
 採用広報*専門の別チームが担当する場合もあり

このように企業広報の範疇はかなり広くなります。企業によりますが、特に外資系企業の場合は上記の発表・コミュニケーション部分だけでなく、そのプランニング段階から広報担当が経営陣を補佐しプロジェクトに関わることが多くあります。ここに企業広報の実際の仕事内容があまり知られていない理由があると思うのです。

前置きが長くなりましたが、企業広報の仕事内容が、外部から見える「発表」部分以外あまり外部に語られないのは、機密事項が多く、仕事内容は外部に話すことではないのと、黒子である広報担当者が自身の仕事内容や実績を詳細に語ることはあまりない、というのが理由だと思います。日本企業のイメージでは、「経営戦略室」の仕事に近いかもしれません。

広報の仕事を始めたころ、PR会社の大先輩が「仕事で知った機密事項は他言無用、その時に秘密を守るのはもちろん、墓場まで持っていけ」と言われて驚いたことがあります。その時は「なんて大げさな」と思いましたが、それから約20年、PR会社や事業会社にて様々な事案に関わってきて、その方が言っていた意味が分かった気がします。企業広報の仕事では事業の再編やM&A、提携案件なども、そのプランニング段階から入ります。意外かもしれませんが、PR会社にもこのようなお仕事が入ります。法律事務所や財務アドバイザーなど、社外のステークホルダーとのやり取りも発生します。ですが、それが全て決定となり発表されるわけではありませんし、むしろプランニング段階で白紙になることもあります。

その他の仕事も、常に発表前の機密事項に接することになるため、広報担当には“口が堅い”ことが求められます。一方、方針が決まり外部に発表する際は、事実をきちんと伝える“コミュニケーター”としての役割をしっかりと果たす必要があります。そして、会社の顔であるCEOや社長のメッセージがきちんと社外・社内のステークホルダーに伝わるように、文書作成から伝達方法まで最善の方法を考え、実施するのが仕事です。経営陣の考えを言葉に落とし込む、スピーチライターとしての役割もあります。

もう一つ、忘れてはいけない観点は、広報の仕事はアウトプットだけでなく、インプットもかなりの比重を占めるということです。特に、インターナルコミュニケーションやCSR、SDGsの観点からのコミュニケーションを実施する際は、資料を作成する前に、社内ヒアリングや情報収集、本社や支社、場合により関連会社やパートナー企業への取材も行います。発表する前に、発表する資料を作り込んでいく過程が大変長いのです。外部から見えるのは発表資料だけかもしれませんが、その裏に情報収集のプロとしての仕事量がかなりあります。ですが、その仕事内容が外部に知られることはあまりありません。黒子は主役(企業そのものや経営陣、従業員)を引き立てるために自分が果たした役割を外部に語らないからです。

また、インプットの部分には、業界全体のトレンドや競合他社の動向、世間やメディアの関心事に常に注意を払い、経営陣に報告するという大事な仕事もあります。

以上、企業広報(コーポレート・コミュニケーション)の実務内容を紹介させていただきました。文章を書いて発表するだけではない、とてもやりがいのあるプロフェッショナルな役割であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。そして、仕事をしながらスキルや知識を吸収し続けることができる、とても“お得な”キャリアだと、ご理解いただけましたでしょうか。

これからキャリアを作っていく若い世代の皆様に興味を持っていただき、広報のお仕事を未来の選択肢に含めていただけると、大変嬉しく思います。

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