だから今日もコーヒー豆を挽く

朝食後、食器の片づけが終わったら、コーヒーミルを挽き始める。

がりがりがり。

ミルで豆がすりつぶされて粉になるときの細かな振動で、手がむず痒い。

ハンドルが回らないくらい固い豆、するすると軽く挽ける豆、それくらいの違いは分かるようになった。近所の喫茶店の豆が一番好きだけど、飽きっぽいので、今日は職場近くのカフェの豆だ。バリ神山《シンザン》。

がりがりがり。
粉になったコーヒー豆が砂時計の砂みたいにさらさらと、コーヒーミルの下の方に落ちていく。

市販のドリップコーヒーでも十分美味しいのに、どうして毎朝、こうやって時間をかけて、コーヒーミルのハンドルを回すのだろう。

「挽きたてコーヒーを飲む」とか、ただ流行りに乗りたいだけなんじゃないの? 味の違いなんか分からないくせに、あちこちの豆を買って試してみたりして、いっぱしのコーヒー通にでもなったつもり? 

「僕の分もある?」
キッチンを通りかかった夫が言う。
「ある」
「今日はどの豆?」
「バリ神山っていうやつ。インドネシアのコーヒー豆なのに、神山って漢字で書くんだって」
「へえ、なんで?」
「知らん。ググって。もう手が疲れた、代わって」
「はいはい」
今度は、夫がミルを挽く。
「挽けたよ。お湯は任す」
無言で、フィルターをセットしたプラスチックのドリッパーにお湯を注ぐ。
金色の粒が、水面で跳ねながら、ポットの中へ落ちていく。
知らない間に、夫はキッチンからいなくなっていた。洗濯かゴミ出しだな。

そうか。
別にコーヒーじゃなくても、みそ汁でもトーストでもいいんだ。
夫とこうして、意味のない話をする時間が欲しいんだ。
たまたま、朝、話題にするのにちょうどいいのが「コーヒー」だったんだな。

「コーヒー入ったよー」
「ありがとう」
私はマグカップ、夫はタンブラーに淹れたてのコーヒーを入れて、それぞれの部屋に持っていく。夫は在宅勤務、私はnoteを書く。

朝のわずか数分のこと。
でも、この時間がとても大事な瞬間。

がりがりがり。

だから今日も、私は豆を挽き、コーヒーを入れる。

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