モヤモヤお化けはチワワにしてしまえ
私の働いているところは、恐ろしく長時間労働する人が多い。「働き方改革!」なんて人事課は声高にいうくせに、自分のところの残業は常態化していて本末転倒。職場全体の仕事量は増えるばかりで、残業縮減と言い始めた数年前から、残業時間も支払われる残業代も増えていく一方。この状態は、もはや滑稽だ。アホらしくて「働き方改革を! 業務改善を!」なんて人事課が言っても、聞く耳を持つ気にもなれない。
私は残業は嫌いだ。
それは、私は根本的に怠け者で、働くのがキライだからかもしれない。
こんな私も、去年までの数年間は残業続きの毎日だった。
ありがたいことに、今は残業のない部署にいる。
でも、周りを見れば残業が常態化していて、残業していない人の方が少ない。
私の友人などは、連日深夜まで働いて、その上、休日出勤も当たり前。
そういう話を聞くたびに、モヤモヤ、イライラするのだ。
自分は残業していないから、関係もないくせに、
「どうしてもっと効率的に働けないのだろう。仕事できない人?」
「上司も、そんなに残業させなくてもいいように、もっとマネジメントをちゃんとしたらどうなんだよ」
「もしかして、不必要な残業して、残業代を稼いでいるんじゃないの?」
「私なんてもっと忙しいところにいたのに、そこまで残業しなかったけど?」
なんて、長時間労働している人やその上司たちに批判の目を向けていた。
昨晩、夫とケンカした。
お互いのささいな意識の行き違いが引き起こした実にくだらないケンカだった。
夫との口論が一旦収まって、お互いちょっと冷静になってきたところで、夫が、
「なんか知らんけど、最近、モヤモヤ、イライラしてるんだよ」
と言った。「なんか知らんけどモヤモヤする」か。
私は夫に言った。
「そのモヤモヤの原因を探した方がいいんじゃない?」
夫に「イライラの原因を探してみたら?」と提案した手前、夫の愚痴を聞くことになった。聞けば、夫のモヤモヤは3つあった。
一つは、会社の経営があまりうまくいってなくて、いよいよ会社の存続に黄色信号が灯っている。40代半ばで再就職することも難しいと噂されているし、子供には、どんどんお金が掛かる。これからどうなるのかという不安。
もう一つは、先月契約した車の購入手続きに、自動車販売店の営業とうまく意思疎通が図れなくて、手続きにいろいろ不備が出て、納車の時期が決まらないという焦り。
最後は、実家の父が病気で車の運転をやめていたのだけれど、回復したので車に乗っていいという許可をもらうために、関係各所に書類を持って回らなければならず、仕事を休んであちらこちらにいくのが面倒だし、運転させることが不安ということ。
この話をして、最後に夫が、
「先の見通しが立たないことや雑事が片付かないことにモヤモヤしてたんだな」
と、ちょっとスッキリした声で言った。
モヤモヤの原因を認識することで、モヤモヤは少し解消されたようだ。
そんな話を夫としていて、ふと「私はなぜ残業が多い人を見ると、モヤモヤするのだろう」という疑問が湧き上がった。
私もモヤモヤの原因を探した方がよさそうだ。
少し前にもnoteによく似たことを書いたが、一つは、忙しくて残業の多い友人と気軽に会えないという寂しい気持ちが原因だった。その気持ちは、今もある。
でも、もう少し他にもありそうな気がする。
さっきも言ったが、私もここ数年、残業が多い生活をしていた。その上、初めての仕事ばかりで、右も左も分からなかった。やってもやっても湧いてくる仕事。メールを開くたび、未読の仕事の依頼メールがずらりと受信ボックスに並んだ。一つこなせば二つ来る仕事の依頼。二つこなせば四つ来た。ネズミ算のように仕事は増える。仕事の先が見通せない。前倒しどころか、現在進行形にもならない。締め切りに追われ、「リマインドですが」なんていう催促メールまで来るようになった。
負の無限ループ。
そうやって1年、また1年と毎年新しい仕事に追われてきた。
2018年度からまた新しい仕事だったけれど、残業しなくてもこなせる仕事量になった。今は、その恩恵を存分に受けて、文章を書いたり、本を読んだり、旅行したりさせてもらっている。
自由に時間が使えることのありがたさを痛感している。
そうか、あの負の無限ループに、またいつか戻らされるかもしれないという恐怖があったんだ。今のように時間を自由に使って、自分のペースで生活がしたい。
だけど、人事は非情にも、私をあの残業地獄に突き落とすかもしれない。
それがとてつもなく怖いのだ。自由がなくなる。思考が停止する。ただ機械のように朝起きて仕事して仕事して仕事して、帰って寝る。休日もぐったりのあの生活になるのが怖い。疲れた顔をして、長時間労働する人たちを見ると、「またいつか自分もあんなふうに疲れた顔して働くのだろうか」と怖くなる。残業する世界さえなければ、私の不安は消える。だから残業がキライなのだということに気が付いた。
怖かったんだなと気づいたところで、じゃあどうしたらいいのと自分に聞いてみた。人事は私の手の中にはない。「異動はしたくありません」と希望は出したし、上司も「人事には、あなたはここに残るようお願いしています」と言ってくれた。もうできることは何もないのだ。ジタバタしたって、結果は変わらない。ここは私には、手出しのできないところだ。
その一方でできることはある。例えば、効率的に仕事をする方法を学ぶとか、時間の使い方を考えるとか。転ばぬ先の杖というか、自分のスキルアップとか、そういうことなら自分でできる。それから、自分も含め同僚や後輩が、仕事を抱えすぎないように気を配ってみるとか、小さなことならできそうだ。
それと、もう一つ、以前働いていたところは、いろんな部署の中でも一番忙しいと言われているところだった。だから、次がどんなに忙しいところだとしても、前にいたところほどにはならない。よく似た部署なら1年のサイクルもだいたい分かっている。見通しを立てることはできるはずだ。多分大丈夫。
気づいてみれば、なんとかなりそうな気がしてきた。
残業続きで忙しいという友人の話も、モヤモヤ、イライラせずに聞けるような気がしてきた。
大きな大きな真っ白いお化けのようにに見えた恐怖も、よく目を凝らして見てみれば、ただの白い布だったっていうようなもの。
突き詰めて考えてみると、それほど恐れなくても、嫌わなくても大丈夫そうだ。
モヤモヤ、イライラしていることには、大抵自分の中に原因がある。
でもそれを突き詰めてみるのはなかなか難しい。
私は考えることが苦手なので、大きなお化けをいつも胸の中で飼ってしまう。
大きなお化けはどんどん不安を煽って、外の景色の見え方さえも変えてしまう。
辛いのを人のせいにしてみたり、劣等感を隠すために、誰かを見下してみたりする。今の自分には関係ないことにまで、イライラしたり、偽りの正義を振りかざして批判してみたりする。
全ては、自分の心の中のお化けのせいだ。
お化けがただの白い布だと知らなければ、何も解決しない。
心がモヤモヤした時は、モヤモヤお化けの正体を見つけてみるのが一番だ。
私にとっては、それが文章を書くことだ。
人に話すのもいいかもしれない。人それぞれ、やり方はあると思う。
そして、モヤモヤお化けの正体は、大概とっても自分勝手で子供じみた感情だったりするから、ちょっとかっこ悪い。狼くらいの怖さかと思っていたら、実はチワワだったりするから、なおさらかっこ悪くて、アホらしい。
でもそれでいいのだ。チワワならなんとか、飼える。散歩もさせられるし、躾もできそう、何より可愛いじゃないか。
どうしても、モヤモヤお化けは日々生み出されてしまうことだけど、まあいいさ、心の中のモヤモヤお化けは、書いてチワワにしちゃうからね。
どっからでもかかってこいよ!
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