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不惑が食らう、ファンシーなパフェ #いちまいごはんコンテスト

そこは、最高においしい夢の国だった。
ピンク、イエロー、グリーン、ブラウン、ホワイト、パステルカラーがきらめく世界。

40代、「不惑」の男女3人組が行くには、あまりに似つかわしくない所だった。
お昼を過ぎた日曜日の午後。店内は若い女性でほぼ満席。
でも、半年かかって、やっと3人そろって来られる時間を見つけた、今日がその日。

来たのは、パフェ専門店。

徳島市内の中心部に、数十年にわたって人気のパフェ専門店がある。
私が高校生だった1990年代初頭からあるので、少なくとも30年近く昔からある。

昭和から平成に変わるころ、世の中には「ファンシー」という言葉があって、パステルカラーやチェック、リボンのようなメルヘンチックなものが、特に女子学生の中で人気だった。今でいう「ゆめかわいい」というのに似ているけれど、もう少し、ごてっと重さがある感じ。

そのパフェ専門店は、当時のファンシーを今に残す天然記念物のような店。

立て看板はショッキングピンクに青い文字。
店内を覗けば、壁はパステルカラーのグリーン、白、ブルーで三角や四角でポップに塗り分けられている。テーブルは大理石風の細かなマーブル模様。統一感があるような、ないような、この絶妙な組み合わせが80年代のバブル時代を思い出す。

入り口のショーケースには、イミテーションのパフェたちが、つんとすまして、こちらを見ている。
ピンク、イエロー、オレンジ、ブルー、グリーン。色とりどりのアイスクリームやクジャクの羽のように高くそびえるフルーツたち。陽気な夏の砂浜みたいににぎやかだ。
期待が高まる。気持ちが高ぶって、ゾクゾクする。

いざ、店内へ。

「いらっしゃいませ」
声をかけてくれたのは男性だった。この店のマスターか。
よかった。
我ら40代の3人、場違いなパフェ専門店にどんな顔していればいいのか心配したけど、どうやら居場所がありそう。
見た目の印象は、私より少し年上。多分、バブル期に20代だったんだろう。長い間、若者を相手にお店をやっているからか、どこか年齢より若くておおらかな雰囲気があった。

店先のレジのわきには、アイスクリームのケースが置かれていた。前を通り過ぎながら、ちらりと中を覗いてみる。
バニラ、チョコ、ストロベリー、ほかにもどんな味か想像できない色のアイスが並んでいた。この子たちが、私たちのパフェになるんだな。

さあ、夢の時間のはじまりだ。

きっかけは、半年ほど前。
「昔、駅前にパフェ専門店があったよねえ」
なんの会話の続きだったか、親しくなった同僚のMちゃんと、学生時代に通ったパフェ専門店の話が、ランチの後の雑談で話題になった。
「あった、あった。高校生のころ、学校帰りによく寄りましたよ」
「あ、やっぱり? 懐かしいねえ。今もあるんかなあ」
私の素朴な疑問に、Mちゃんが素早くスマホで調べてくれた。
「今もやってるみたいです」
「へえー、久しぶりに行ってみたいなあ」
「いいですねー」
Mちゃんも同意する。
私は、ちらりと隣の席に目をやった。
「ねえ、Kさんも一緒にどう?」
隣の席のKさん(男性)に声をかけてみた。
私とMちゃんは、彼と一緒に仕事をするようになってから、彼の硬い態度の奥に隠された本性をさぐってきた。
内偵すること数か月、物証は集まった。
彼が甘いもの好きの「スイーツ男子」だという証拠。
毎朝、オフィスに来るヤクルトさんから買うのは、健康にいい乳酸菌が400億個入ったやつではなく、甘い甘いパイナップルジュース。
重要書類がしまってある引き出しから、あめやチョコやガムのパッケージが見え隠れしてる。
「彼、書類を取るついでに、あめやチョコを一つ取り出して口に放り込んでます!」
彼の正面に座っている優秀なM捜査員は、犯行を見逃さなかった。
彼が残業中に、甘い菓子パンをかじっているのを目撃したし、酒好きの私の話を笑顔で聞きながら、「お酒はほとんど飲まないんです」とも言っていた。

その日、パフェの話の間、彼が聞き耳を立てているのを、私たち敏腕捜査員は知っていた。
「じゃあ、Kさんも、一緒に行かない? なんてねー」
乗ってはくるまいと思いながら、カマをかけてみた。
「いいですね、行きたいです」
と、思いがけない返事。
「それ、どこにあるんですか?」
畳みかけるように聞いてきた。
隠れスイーツ男子が、パフェ専門店に目が眩んでつい口がすべったか。
「Kさん、甘いもの、好きでしょ?」
「ええ、好きですねえ」
と自白。落ちた。

我ら2名の女性捜査員は、彼の身柄を即、確保。
半年後、パフェ専門店へ連行した。

マスターが水とメニューが持ってきてくれた。
メニューの見開きいっぱいに、大小、色とりどりのパフェがびっしりと並んでいる。
さすが専門店、パフェとお茶しかない。
メニューをじっくりながめる。
美しい。
パフェは食べられる立体芸術だ。
優美な曲線の百合の花、直線的な二等辺三角形、盃を大きくしたような形、様々なフォルムのガラスの器に、アイスクリームや生クリームの芸術的なデコレーション、綺麗にカットされて、高く盛られたフルーツ。

メニューを見ているだけで、ファンシーの世界にどっぷりはまる。

さて、どれにしようか。
その日、私たちは早朝から仕事で大きなイベントの応援に行って、腹ペコのままここへ来たのだ。究極の1つを選びたい。

2人以上じゃないと絶対食べきれない、巨大パフェを指さして、
「ねえ、Kさん、せっかく来たんだから、これ、いったらどうです?」
面白半分で私が提案したら、
「うーん、だったら小さいのを2個食べるほうがいいですね」
と、非常に建設的な意見が返ってきた。おぬし、やる気やな。

率先してパフェ専門店に誘っておきながらなんだが、私はフルーツアレルギー。イチゴとメロンとブドウしか食べられない。
うず高くデコレーションされたパイナップルやバナナは、ただただ観賞するしかなくて、非常にくやしい。
嘆いても仕方がないので、食べられるパフェの中で一番ボリュームが多そうなイチゴパフェを注文。残りの2人も、チョコバナナとかチョコパフェを注文。みんな割とオーソドックス。安定、安パイ。
こういうところが、「四十にして惑わず」の40代。

待っている間、たわいもない話をする。
「今朝の仕事が過酷だった」とか「健康診断の結果が悪かった」とか「ぎっくり腰の症状とは」とか「春から子供が幼稚園に行く」とか「星野源のライブに行きたい」だとか「仏像のガチャをコンプリートしたい」とか、そんなこと。しょうもない。けど、楽しい。

「はい、お待たせしましたー」
マスターが、パフェをもってテーブルにやってきた。

大きなパフェが3つ、どんと置かれた。4人掛けのテーブルを半分占拠する。
「うわー、すごーい!」
私とMちゃんはスマホで記念写真をパシャパシャと撮る。すると向かいに座ったKさんも、スマホを取り出して写真を撮り始めた。
「写真を撮るなんてめずらしいですね」
「こんな機会、めったにないですから」
彼はパフェの尊さを分かっている。それでこそ、スイーツ男子。

熱いものは熱いうちに、冷たいものは冷たいうちに。
写真を撮るのも楽しいけれど、料理は、供されたときが食べ時であることを忘れてはいけない。
スプーンをつかんで、パフェに向き合う。
百合の花をひっくり返したような曲線美が美しいガラスの器、そこを飛び出して、うず高く盛り付けられた真っ赤なイチゴ。器の中には、パステルピンク色のストロベリーアイスと、一口大にカットされた淡い黄色のスポンジケーキ、真っ白の生クリームが、層をなして収まっている。
まさにファンシーな色合いと見た目。
それに、実物には生身の美しさがある。空気を通して、冷たさや甘さが伝わってくる。

さて、どこから食べようか。
山のように盛られた生クリームの上にどんと乗った大きなイチゴを、生クリームごとすくって口に運ぶ。
旬のイチゴは思った以上に甘かった。ほんのり酸味。生クリームの脂肪分とイチゴの酸味がよく合う。
次は、ストロベリーアイスとイチゴ。
キンキンに冷えたアイスが、一気に口を冷やす。イチゴが温かく感じる。アイスの甘さにイチゴがからめとられ、酸味は消えて、イチゴの風味がふわりと鼻に抜けた。そして、イチゴの果汁とアイスが溶けあって消えた。

アイスとイチゴをよけながら、器の奥に隠れた小さなスポンジケーキを探り出す。
イチゴ、ストロベリーアイス、生クリーム、スポンジケーキを一度にすくって、大きな口を開けてぱくりとやると、まるでショートケーキを食べているような味わい。

日本語の「パフェ」という言葉は、フランス語の「パルフェ」、英語でいうところの「パーフェクト」から来ているらしい。
ほんとにパーフェクト。
どんなスイーツの要素も全部受け入れて、完璧なおいしさにまとめあげるパフェは、スイーツ界の女王。
美味しい幸せってこんな近くにあったんだな。
頭もお腹も大満足。

スポンジケーキを少し残して、器の一番底をつつくと、イチゴソースが現れた。
「これ、底にイチゴソースが入ってます」
私が言うと、すかさずKさんが、
「それは王道ですね」
と言う。じゃあ、邪道は何ですか? と尋ねると、
「コーンフレークのやつです」
さすがスイーツ男子、返答が速い。
器の底のコーンフレークは、アイスクリームについてくるウエハース的な、口の中の冷たさを和らげる役目もあるのかもしれないが、確かに、言われてみれば、底上げっぽい気もする。
「最後までソースやクリームが入っているのは、作り手の本気度が感じられます」
とまで言う。パフェで店の矜持まで分かるってことか。
感心して聞いていたけど、よく見たらKさんのパフェの底はコーンフレークだった。3人でお腹を抱えて笑った。
「Kさんのそれ、邪道やん」
「そうですね、次はコーンフレークじゃないやつにします」

ところどころにクリームがついて、ちょっと汚れた空っぽの器と、満タンに満たされた私のお腹と心。
スプーンを器の中に落とし込んで、椅子に体をもたれさせた。

美味しかった。
ファンシーな夢の時間はあっという間に終わってしまった。
でも、もう少し、味わっていたいな。

「Kさん、2つめ、行きましょうよ。コーンフレークじゃないやつ」
満腹の私とMちゃん、Kさんに2つめを勧める。
「お二人は、食べないんですか?」
私たちに遠慮して聞いてくれるKさん。いい人だ。
「いいのいいの、パフェで冷えちゃったから、温かいお茶でも飲んで待ってるから」
ちょっとうれしそうな顔になるKさん。やっぱり食べたいんじゃん。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「すみませーーん!」
「はーい」
と駆け寄ってきたのは、若い女の子の店員さんだった。

不惑の3人のファンシーな夢のパフェタイムは、もうしばらく続いた。

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このnoteはこちら企画に参加させていただいております。

タダノヒトミさんの「いちまいごはんコンテスト」


ヒトミさんの出張いちまいごはんは、緊急事態宣言によって中止を余儀なくされたそうです。近い将来、また精力的に活動されますことを、心よりお祈りしています。

ずっと書きたかった話です。
一度、別のところでこの話を書いたことがありましたが、公開されることはありませんでした。今回、また書くきっかけをいただきました。
ありがとうございました。

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