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おせち料理のあるお正月 #いろは醤油

おせち料理。
子供のころ、我が家にサンタが来ないという話をしたが、おせち料理も作る習慣がなかった。
父には兄弟が多くて、正月になると当時まだ独身だった県外に住む叔父が帰省してきて泊まり込んだり、近くに住む叔父や叔母もやってきて、どんちゃん騒ぎをするのが正月の風物詩だった。
元日早々、近所の仕出し屋で、両手に抱えきれないほどの大皿の料理の盛り合わせを注文する。
焼き鳥や刺身、魚介の焼き物、煮物、その他子供だった私には得体のしれない珍味が山のように盛られていて、一見豪華だったけれど、冷め切って、酒に合うように濃く味付けされた料理は、お世辞にも「美味しい」ものではなかった。

私は、おせち料理に憧れていた。

年末になると、料理雑誌や料理番組がこぞって特集する「おせち料理」
たたきごぼう、紅白なます、黒豆、数の子、栗きんとん、エビ、魚の焼き物、煮しめなど、色とりどりの食べたことのない料理が、青々とした葉っぱのつまものやお正月飾りと一緒に、美しい塗りのお重に整然と詰められている姿に惚れ惚れしていた。母に、作ってくれと頼んだこともあったが、「そんなんじゃ我が家の客には全然足りない、作ったことがないから無理」と一蹴された。
数年後、同居していた祖父母が亡くなった頃から、親戚は集まらなくなり、正月は静かなものになった。
それからは、バイトしていたスーパーでパック入りのおせち料理を買ってきて食べてみることもあったけれど、どこか味気ない、コレジャナイ感。

2000年に夫と結婚した。夫の実家にはちゃんとおせち料理があった。家庭でこしらえる、その家庭の味が詰まったおせち料理。義母が手間暇かけて仕込んだ、息子(私の夫)の好物の数の子がたっぷり入っていて、料理上手の祖母のお手製黒豆や煮しめも美しく重箱に詰められていた。
それは、まさに私が食べて見たかったおせち料理だった。おせち料理が食べたくて、夫の実家に新年の挨拶にいった。

それも、祖母と義母が立て続けに亡くなって、消えてしまった。
教わる暇もなく、あっけなく……

もう、自分で作るしかない。
私の手で我が家の伝統の味を作るしかない。
思い立って、義母が亡くなった次の年から、おせち料理を実家の母を巻き込んで作ることにした。
あれから10年近く、料理雑誌や料理番組、レシピサイトを巡り巡って、毎年試行錯誤を繰り返しながら、大晦日の朝から、我が家と実家と妹の3軒分のおせちを作り続けている。
私が数の子と、黒豆を担当し、数日前から作って実家に持ち込む。母は、煮しめやなますの担当。エビやぶりの焼き物は、手の空いたほうがやる。そんな役割分担もでき、手際もどんどんよくなってきた。ついに、今年(去年?)からは、娘も手伝ってくれるようになった。
次第に、家族の味ができてきた。この伝統が子供達に引き継がれていけばいいなあと思う。

さて、令和元年末に作ったおせち料理は、平成の時とちょっと違う。それは何かというと、しょうゆに「いろは醤油」を使ったこと。
上品で優しい塩気と風味が特徴のいろは醤油。おせち料理に合わないはずがない。早速、新品のいろは醤油を実家に持ち込んで、おせち料理開始。

まず、卵焼きから。
おせち料理に入っているのは、はんぺんを潰して、卵に混ぜ込んだ伊達巻というものらしいけれど、我が家は普通の卵焼き。砂糖たっぷり、めちゃくちゃ甘いやつ。
ただ、私も最近血糖値が高いと言われたし、義父も実母もすでに立派な糖尿病患者。できるだけ、砂糖の量は減らしたいということで、今年は、例年より砂糖を減らして、代わりにいろは醤油で味付け。

(*写真が下手すぎる)

はい、どん! 3軒分、卵10個使いました。
端っこをカットして一口味見。卵の香り、砂糖のほんのりとした甘さの中に、鯛の出汁のまろやかな風味とさっぱりとした塩気が混じって美味しい。

次、煮しめ。ここは母の担当。
母に「いろは醤油使って!」とお願いし、味付けに加えてもらいました。

どれも、ほっくり煮上がりました。

煮しめってめんどくさい。食材一つ一つ煮ていくから、時間がかかるし、なんどもなんども鍋を洗って、煮てを繰り返す。筑前煮なんかでもいいのかもしれないが、ここは母のこだわり。どうしも煮しめがいいらしい。
でも、一つ一つ丁寧に煮ていく時間も、年末をしみじみ味わういい時間。
こちらも、薄味なのに奥のほうで、いろは醤油の風味を感じる優しい一品に。

さて、次は、紅白なます。

いろは醤油が濃口醤油のため、少し色がよくないけれど、出汁の効果か酢の酸味がぐっと丸くなった。酢の物が苦手な人(私だ)も、パクパクいける味。

そんなこんなで、仕上がったおせち料理がこちら。

もちろん、数の子もいろは醤油を使って作りました。
普段のお出汁より、しっかり味がつきました。大量に作った数の子、家族に好評で、わずか1日で完売。

今年も義父の家に持って行って、新年の挨拶を交わす。仏壇と神棚に手を合わせ、子供たちは、じいじからお年玉をもらってホクホク。
義父の近況を聞き、みんなでクロスワードパズルをやって。静かにお正月はすぎていく。
今年も、穏やかなお正月を迎えられた。
義母のがんが見つかって、暗いお正月だった年もあるし、祖母が年末に亡くなって急に寂しくなったお正月だったこともある。急に、元日にお客さんが来ることになって、おもてなしに徹した年もあるし、年明け早々、家族で順番にインフルエンザや感染性胃腸炎にかかって、生活が破綻しそうになったこともあった。
穏やかで何事もなく、おせち料理をつつきながら、お酒を飲んで、機嫌よく過ごせることがありがたいことなんだと、しみじみと感じる令和最初のお正月。


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