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浪漫飛行の途中

米米CLUBの「浪漫飛行」を知っている人は、きっと私と同世代だろう。
知らない人には、一度聞いてほしい。いい曲だから。

はじめて、ちゃんと聴いたのは高校の体育祭だった。
体育祭では、応援合戦というのがあった。クラスごとに大きな横断幕を作って、衣装をそろえ、ダンスを踊って、クラスの士気をあげるイベント。
文化祭と体育祭は9月のはじめに行われるので、熱心なクラスは、夏休みから準備に取り掛かる。

衣装もダンスも完璧なクラスがあった。
一糸乱れぬダンスに、手間暇のかかってそうな衣装。
クラスの結束の強さが、遠くで見ている私にも伝わってきた。
当然、優勝だった。

正に青春、キラキラしていた。

そのクラスが踊っていたのが、米米CLUBの「浪漫飛行」だった。


夢を見てよ どんなときも
すべては そこから始まるはずさ
そこから逃げ出すことは誰にでもできることさ
あきらめという名の傘じゃ 雨はしのげない

なんの夢もなくて、将来を考えることも嫌で、めんどくさいことから逃げて、ただ毎日を無為に生きていたあの頃には、あまりにも痛い歌詞だった。

頑張ることや群れることをかっこ悪いと思う自意識過剰な人間だったくせに、みんなで一緒に一つのことを成し遂げた彼らが、とてもうらやましかった。
でも、ひねくれた性格は、それを素直に認めることができなかった。
聞きたいけど、聞けない。
だから、私の中の「浪漫飛行」を封印した。

それから長い時が過ぎて、大人と呼ばれる年齢になって、「浪漫飛行」に再会した。

同僚と集まった飲み会の二次会のカラオケで、そのうちの一人が「浪漫飛行」を歌った。ちょっと驚いた。
今までにも何度か同じメンバーでカラオケに行ったことがあったけど、彼がJ-POPを歌うのを見たことがなかった。まあ、同世代なのだから知っていて当たり前なんだけれど、いつもふざけて軍歌なんか歌う人が、そのときは、何を思ったか、浪漫飛行を歌った。

忘れないで あのときめき
もう一度 空へ

ああ、そうだ。私にも夢があった。
それは、医者になるとか、弁護士になるとか、世界へ飛び出すとか、そんな大きな夢ではなく、ただ、自分の生きる糧を自分の力で手に入れて、穏やかに、大きな不自由はなく、家族と愛する人に囲まれて生きる暮らし。
そういう暮らしを思うたび、目の前が開けて、心に小さな明かりがともった。
大きな夢を語る彼らには言えない、私だけの小さくて大事な夢だった。

そうか、私は夢を叶えていたんだ。

時が流れて誰もが行き過ぎても You're Just A Friend !
この胸に

そして、私の前には、彼の歌う「浪漫飛行」に手を叩き、共に歌い、踊り、笑い合う友がいる。You're Just A Friend !

世界に飛び出さなくても、大きなことを成し遂げなくても、

トランク一つだけで浪漫飛行へ In The Sky
飛び回れ このMy Heart

幸い、手のひらの小さなトランクひとつで、世界とつながる時代。

すべては、私の心次第。
どこにいても、何をしていても、夢はきっとかなえられる。
いろんな経験をした今やっと、自分の「浪漫飛行」を認められた。

そして、私はまだ「浪漫飛行」の途中。


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