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木蓮の香り……?

今年も木蓮の香りがしている。

エキゾチックな甘い香り。
金木犀ほどではないけれど、季節が巡って春が近づくと、通りのどこからか香ってくる。好きな香り。

木蓮の匂いがすると、木蓮を探す。
葉のない枝に、大きくて白い鳥の羽のような花が咲く木。
同じ春に咲く桜のような、かわいらしさはないけれど、白い大きな花弁が、すんと天に向いて咲いている凛とした姿が好きだ。

その日も、どこからか木蓮の香りがした。

立ち止まって、空を見上げる、そのままぐるりと回って木蓮の木を探してみたが、それらしい木は見当たらない。
道を挟んだ向こうにお寺が見える。
多分、あの木々の中に木蓮があるのだろう。きっと隠れて見えないんだな。

再び歩きはじめる。
足を進めると香りがどんどん強くなってきた。

おかしいな。お寺を遠ざかっているし、このあたりには木蓮のような、背の高い木がないのに。

強烈に木蓮の香りがしている。
気になって、また立ち止まる。
周りを見渡すと、通りの植え込みに小さな小さな濃いピンク色の花をつけた小さな木があった。足の膝くらいの高さしかない小さな木。

木蓮の香りは、その小さな木の無数に咲いた花からしていた。

もしかして……?

スマホを取り出して、Googleレンズで調べてみた。

じんちょうげ。

ああ、沈丁花!
かの松任谷由実も名曲「春よ、来い」で沈丁花と歌っていたあの沈丁花ではないか。
私はずっと、この花の香りを木蓮だと勘違いしていたらしい。

思い返せば、沈丁花の香りがしても、木蓮の木が見当たらないことも多かった。なのに、
「多分、どこか見えないところで咲いているんだな」
などと都合よく解釈してまで、木蓮だと思い込んでいた。

どこでどう間違えたのかは、全く分からない。

思い込みとは、恐ろしい。

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沈丁花、沈丁花、沈丁花と呪文のように唱えながら、家に帰った。

年とともに、年々忘れっぽくなっているから、きっと来年もまた「木蓮の香りがする」と思うのだろうけれど。


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