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今朝、娘に言わなかったこと

やっと出かけてくれた。静かになってホッとしたというのが、今のホンネ。

三連休だというのに、子供たちは明日の日曜日しか休みじゃないらしい。
今日は、模擬試験、明後日はオープンスクールだそう。
子供たちの休日は、実質明日しかない。(一応、火曜日は振替休日らしい)
三連休がまるまる休みにならないことに怒っていて、昨日の夜から娘の機嫌が悪い。

何か一言言おうものなら、10倍になって返ってくる。
明日の予定を夫と相談しようとすれば、
「ママはいいよ、三連休でしょ!」
それを聞きつけた娘に、絡む気満々で突っかかってこられる。
「社畜だ」「働き方改革だ」「人でなし」だと学校と先生を罵って、怒り散らしている。

小さい頃なら、美味しいご飯やお菓子、好きなテレビなんかを見ていたら、気分も変わって、機嫌も直ってくれるものだけど、高校生にもなると、
「そんなもんじゃ、気分は変わらない!」
プイッとそっぽを向いて、また怒りのスイッチを探している。

娘は、休日が好きだ。
休みの日に、やりたいことがたくさんあるらしい。絵を描いたり、歌ったり、踊ったり、友達と出かけたり、昼寝したり。
意外と真面目な性格のせいで、学校の勉強も部活も頑張りすぎて、ちょっとお疲れ気味の娘。2学期になってから体調を崩しがちだ。だから、彼女にとって、息の詰まる学校生活から解放される休日は、貴重なリフレッシュタイムになっているのだろう。

こんなとき、どうすればいいんだろうと、ほんとに途方にくれる。
「くわばら、くわばら」
早々に娘が陣取るリビングを退散し、寝室に避難したものの、もっと娘の話を聞くべきだっただろうかと反省したり、後悔したり。

娘の気持ちはよくわかる。私も、社畜になれない人間だからだ。
オンとオフがバランスよく分かれていないと、精神的なダメージが大きい。忙しい職場にいるときほど、サイドBが欲しくなる。死ぬほど忙しい部署でいたおかげで、場所と時間を選ばない「文章を書くこと」をサイドBに見つけちゃうくらい。
帰ったら、あのテレビを見よう、本を読もう。友達に連絡しよう。休みになったらお菓子を作って、編み物をして、映画を見に行こう。ゆっくり美味しいお酒とご飯を楽しもう。
そうやって、オフの楽しみを考えて実行できているから、オンもがんばれる。
自分で考えた計画を、自分で実行でできる楽しみが、オフのいいところだ。

学校というところは、会社以上に、自分の自由がきかないところ。
難しい年頃の若者が、好き嫌い関係なく同じクラスに放り込まれ、学校の決めたルールにのっとって、生活している。
学校生活では、うまくいかないこともたくさんあるだろうし、やりたくないことだってあるだろう。真面目な娘は手を抜くこともできず、しんどい思いを抱えながら、笑ってやり過ごしているんだろうなと想像する。

彼女はちゃんと分かっているのだろう。
模擬試験が大事なことも、オープンスクールが必要なことも。
だけど、休日を台無しにされたというモヤモヤを消せるほど、心の整理がついていないんだろうな。
休みたい。自由な時間が欲しい。うん、うんわかる。
でもここで娘に面と向かって「うん、うん、その気持ちよくわかるよ」なんて言おうもんなら、
「ママの時代と、今じゃ忙しさが違うんだから、ママに私の気持ちはわからないわよ!」
なんて、鬼の形相で噛みつかれるのがオチだ。
言いたいけれど、日に油を注ぎそうで、怖くて言えない。

娘のグチに「大変だねぇ」くらいしかコメントできないのが情けない。
はあ、母も辛い。

今朝も、むすっとした顔でリビングに座っている娘。
うわ、機嫌悪そう……
何をしているのかと思えば、制服のシャツにアイロンをかけていた。
文句言いながらも、やることはやるんだ。
その態度のギャップに、心の中でちょっと笑った。
そっと、何も言わず、冷凍ご飯をチンして、醤油、鰹節、ゴマ、ごま油を混ぜ込んだおにぎりをこしらえ、フライパンで焼いた。
それから、玉ねぎ、小松菜、サツマイモ、豆腐の具沢山の味噌汁。消費期限の近いウィンナーも焼いて出す。
この朝ごはんで、模擬試験の時、ちょっとでも頭が働くように祈るばかりだ。

「先生の言う通りのタイムスケジュールを組んだら、自由時間が1日に5分しかないんだよ。どう思う!?」
スマホのメモに記録したタイムスケジュールを見せながら、朝食の食卓で文句をたれる娘。
学校、部活、宿題、自主学習と食事や入浴のような日常のルーチンをこなすと、娘の自由時間はわずか5分だそうだ。
「こんなんじゃ、本も読めない!」
また、怒る。
それは、ちょっとひどいなあと私も思う。
まるで、残業して深夜に帰って、晩御飯食べて、お風呂に入ったら寝るだけの生活する会社員みたい。
学校ってさ、社畜養成機関なの?

「でも、今も昔も学生が、先生のいうとおりになんかしないだろ? それは先生の理想だから」
「まあ、そうだけど……」
夫が、意外な返答をしてくれたおかげで、ちょっと娘の怒りのボルテージが下がった。ほっ。私はだまって横で、二人のやりとりにハラハラしているのだ。

そう、先生のいうとおりにしなくていい。

自分の体や気持ちに正直に優しくあること、やりたいことをできるってこと、本当にやりたくないことは、やらなくていいこと、ちょっと頑張ればうまくいくこともあること、できることなら、そういうことを、若い頃に気づいてほしい。

やりたくない日はやらなくていいし、疲れた日は自分を甘やかしていいのだ。
そう娘に言ってあげたいと思う。
(「もっとしっかり勉強してくれよ」と口をついて出そうだけど、ぐっと我慢)

「どうしても行きたくないなら、模擬試験もオープンスクールも休んじゃえ!」

制服にアイロンをかけている今日の娘には言わなくていい言葉だけれど、本当にしんどいときは、そういってやろうと思っている。

「いってきまーす!」
元気な声が玄関で響く、ドアがバタンとしまって、娘は出かけて行った。

すまん、娘よ。母はこの静かな連休をこうやってnote書いて堪能している。




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