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「アドリブは音響エフェクト」とフェルナンドは言った

日曜の昼下がり、NYで暴漢に襲われて重傷を負ったピアニスト海野雅威さんの支援配信ライブを聞きながらの、つぶやき。しかしこの支援ライブ、ぶっ続け7時間で日本の錚々たるジャズミュージシャンが数十名総出で、(たしか)後からも録音が聴けて、3000円。こんな豪華でお得な企画めったに無い。チケット代は支援にいくし、ネット配信もさくさくでいい音。

90年代前半、NYに仕事で赴任していたときの思い出。仕事とは関係なく趣味で、たしか6番街と20丁目あたりだったかにあった音楽学校で週1回2時間の夜間のジャズの授業を受けていた。その学校がはいったビルの下がマクドナルドだったので、毎週毎週、授業の20分前くらいにかけつけて、いつもチーズバーガーをコークで胃に流し込んでから教室のスタジオに行っていた。いまでも、マックに行くとこの日々を思い出す。

不思議なフォーマットで、ジャズを勉強したい人の楽器からクラスをうまく調整してコンボのメンツを形成して、先生のピアニストがコンボを教えるというフォーマットだった。たしかその時は、メキシコ人のプロのピアニストの先生フェルナンドと、生徒はベースのアメリカ人、トランペットのユダヤ系の小柄な女性、サックスが2本でジャマイカ人のやつと僕、そして、その学校はドラムスクールが母体で同じフロアにドラマーが沢山いたので、毎回暇そうなドラマーが入れ替わりSit inしていた。

それで、たしかArt Blakeyとかのコンボというかビックバンドっぽい譜面をベースに皆であわせるのをやりつつ、アドリブ道場みたいなことをやっていた。このCircusとかChppin' Inとか、好きな曲だった。

先生のフェルナンドは鼻髭をたくわえた、いかにもラテンな風貌なピアニストだったが、メキシコ人にしては、意外にも英語が流暢だった。

初対面でメキシコ人と聞いて、スペイン語で「メキシコシティといえば、コヨアカンのライブハウス Arcano に行ったよ」というと、えらく懐かしがってくれたが、すぐにクールな英語に切り替わった。その落差がおもしろかった。日本人もそうだが、海外にいて頭のモードが英語とかになっていると、けっこうクールな感じになる人がいる。俺はこのマンハッタンでしのぎを削って日々生きてるんだ、というようなプレッシャーを背負っていて。それで、メキシコつながりでスペイン語で打ち解けることは特になかったのだが、音楽には真剣で賢くて、とてもいい先生だった。

ちょっとしたことだが、おもしろかったのは、演奏前のチューニングはAの音でするんだが、フェルナンドが、Aそしてそのオクターブ上のAを弾いて、何度かそうして、それでソシbソミファソとやってこちらをニヤリとみる。それ、タイトル忘れたが古いメキシコの有名な歌謡曲の出だし。トリオ・ロスパンチェスとかがやっているような。メキシカーンだったのはそれくらいで、フェルナンドは、クールなヒスパニック系ニューヨーカーという感じの人物だった。

アドリブの授業のとき、今でも覚えている、フェルナンドの名言があった。

「アドリブするとき、自分の楽器を、映画のサウンド・エフェクトの道具のように考えてみよう。静かな映像が流れてそしてサスペンス、盛り上がり、クライマックスへ。自分がそんな効果音担当だと思って、サックスだったら相手を驚かすとこでは思いっきりフリーキーな音をだしてもいいし、やさしく行きたいときは、やさしい音でそういう雰囲気のフレーズでいく... 」

こんなことも言っていた。

「.... ジャズの演奏って、クラッシックやロックと違って観客はじっと聞いていないんだよね。がやがやしたバーとかの演奏だと、我々はBGMなんだ。それでいいんだよ。で、アドリブやるとき、喋ったりしているカップルをみつけて、そのカップルの深層心理に働きかけるような演奏を試みてみる。楽しそうじゃなかったら、二人を楽しい気分にさせるようなアドリブを。あまりに楽しそうにしてたら、二人を険悪なムードにして喧嘩させるような演奏だってありかもしれない(笑)。そういうターゲットを定めて、自分が起こすサウンド・エフェクトでどうやってサブリミナルに人の心理を動かすか、そんなことを考えてやると面白い」

日本のジャズのライブにいくと、演奏中はおしゃべりはだめというようなストイックさがあったりするが、やはりジャズはキャバレーやダンスの音楽だったというその歴史的背景からも、がやがやした飲食の環境でも楽しめるもんだと個人的には思う。静粛の中での鑑賞のクラッシック演奏、逆に観客参加を求めるロックとは違って。食べて飲んで喋っていい時をすごしてください、我々がBGMで場を盛り上げますので、といった感じで。

でも隠れたところで、ミュージシャンたちは、あなたたちの深層心理にいろいろと働きかけをやっているかもしれませんが。

(このタイトルのマンハッタンの夜景のような写真は僕がとったやつで、シンガポールの夜景。このペントハウスのバーOrgoは閉鎖になってしまったが)

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