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ボビー・エンリケス

Bobby Enriquez はフィリピン出身のジャズ・ピアニスト。もう他界しているが、80年代にサックスのRichie Coleのバンドにいてその演奏のレコードを数枚持っていた。


どの「LP」の「ラインノート」(どちらももはや死語か)か忘れたが、ジャズ評論家の誰かがおもしろい解説していた。このフィリピンはネグロス島出身の「野人ピアニスト」がすごいと。

たぶん大方作り話なのかもしれないが、フィリピンのど田舎のジャングル生まれのWildman Bobby Enriquezは、ほんとにワイルドで、少年時代はターザンのような生活をしていたらしい。

大家族だった彼の親は女の子供だけピアノレッスンをつけていたが、Bobbyはそれを横でみていて、あっという間にピアノが弾けるようになる。14歳になるとルソン島のマニラに上京、夜な夜なナイトクラブに出演するようになって、それでチャンスを掴んで渡米、その後はアメリカで活躍と、そんなような生い立ちの説明のラインノートだったのがおもしろくて覚えている(記憶をたどって再現したが、あのラインノートまた読んでみたいなあ)。

演奏は、天性の才能だろうかピアノの技巧は凄そうだが、熱くなってくるとげんこつ、肘打ちもくりだして、打楽器のようにピアノをたたきだす。

ちょっとキャバレーちっくなフレーズが多いが、アジアのラテン、フィリピンならではのポップでハチャメチャでおもしろい演奏。ただ、音の使い方はオーソドックスで、あまりコードの外側にはいかないので、そこはコンサバ。

こういう演奏↑を聞いていると、やはり、本当のジャズアドリブは漫才のぼけとつっこみみたいだなと思う。

アドリブにはいって、音もリズムもくずしはじめると、あれボケがはじまったという感じだが、周りが「おいおいおい」とつっこんで、すぐに心地よい調和のとれたところへもどしたりする。

遊びで他の曲のフレーズを引用したりしはじめると、いかにも音楽的ぼけのようで、「おいおい、それはあの曲のだろ」とこちらは思うが、すぐにちゃんともとのコード進行にもどったようなフレーズに。もちろん、即興なので、時にはすべってしまうこともあり、それはそれでお愛嬌。すべり方、すべりそうでうまくもとに戻るのが、はらはらとおもしろかったりする。バンドのほかのプレイヤー、とくにドラムからのラテンリズムの執拗なつっこみもあったりして、漫談は進んでいく。

フィリピンはともすれば、「おじょうず」なコピーバンドみたいのが多いような気がするが(飲み屋ライブでそういうバンドしか聞く機会がないからか)、うまいんだけどすごいなあと思うことが少ないが、このBobbyみたいなジャングルのパワーを持ち込んでくる野人には脱帽。元気がもらえる。■

(タイトル画は note gallery でピアノで検索してたくさん出てきた中から、いい感じのを拝借)

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