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映画『ビッグ・リボウスキ』鑑賞雑感

Netflixで推奨してきたのでみてしまった1998年の映画。なんとなく聞いたことのある映画だったが、けっこうカルト的に語り継がれている映画らしい。

結論、えらくおもしろかった。

こういう映画が好きだとかいうと、通ぶっているようだが、あまり先入観なく観て、この娯楽映画でもなく、文芸映画でもなく、スタイリッシュの対極をいくようなダサさ(基本はおっさんがボーリングする映画)、とくに汲み取れるような深い人生のメッセージもないのがえらくよかった。いくつかこちらのツボをつく、大爆笑シーンもあった。

あらすじなどは、検索してみてください。あらすじはどうでもいいような映画。タイトルのビッグなんとかは、LAだし、金持ちが脅迫されてそれで依頼されてというような展開から、ハードボイルド探偵小説の傑作の『大いなる眠り』(The Big Sleep)にかけたのかなと一瞬思うが、べつにパロディでもないし、主人公の男は単なる失業者で探偵でもないし、大金持ちが同姓のリボウスキだったので、金持ちのほうがBig Lebowskiだというだけ。

話は、誘拐劇の解決よりも、主人公の趣味のボウリングのトーナメントに重きをおいて描かれたりしている。このボーリング仲間がなんともいい。そして、細かいディテール、なぜかいつも飲んでるホワイト・ロシアンというウォッカとカルーアにクリームをいれたカクテルとかに、こちらの関心が行く。

主人公の Dude 、いい味だしてる。熊男みたいなJeff Bridgesが、もさっとした、もとヒッピーの中年おやじを心地よく演じている。地なんじゃないだろうか。彼の存在がこの映画のテーマか。

社会的には負け犬なんだが、なんか主義を持っていて、文句言いながらも飄々とそれなりに楽しそうに生きている。なんか近年、似たような映画みたことあるなと記憶をグーグルしたら、思い出した日本映画がこれ。『俺はまだ本気出してないだけ』。こちらも、中年になって急に漫画家になろうとする主人公役の堤真一がいい味だしていた。こういう映画、主人公演ずる役者の地ともいえるキャラクターが勝負か。

主人公の自称あだ名 Dude は、学校の英語の授業では習わないんだが、アメリカに住んだことがある人であれば、「あいつ」とか「やつ」みたいな感じで男性をさして使われているのを何度も聞いたことがあるはず。おい、おまえな、Hey, Dudeとか、呼びかけで使ったりもする。英国の貴族のDukeみたいな響きもあるからか、映画でも His Dudenessとか呼んでくれてもいいよという軽口があったが、dude の響きにはまったく尊敬のようなものは存在しない。ちょっと若ければ、「にーちゃん」、この映画みたいに中年の dude は「おっちゃん」というイメージだろうか。

映画で語り部?みたいに唐突にでてくる、西部劇のカウボーイみたいな男がなんとも意味深というか意味不明なんだが、たしかその立派なマスターシュのおっさんとの会話で、The Dude abides とか言うこれも意味不明なのが出てくる。文脈から想像するに、「Dudeなんで、相変わらずさ」いったところか。謎。直訳だと、Dudeは守るとか耐える、だが。語り部は、罪深き我々の代わりにやつがテキトーに生きてくれてるんで、助かるぜ、とか更に不思議なことを言っている。

失業中なんだが、焦らず、ホワイトロシアン飲んでポット吸ってボーリングに行く。不思議な倫理観というか、他人への思いやりもちょっとあって(誘拐された娘の命は救わないととか)他人のごたごたにも巻き込まれてしまうが、本人はあくまでも自分のマイペースの生活をすることだけに関心があるといったところ。この周りに惑わされない心の平静みたいのが、この映画がカルトになったポイントなのかな。

とかく、人間、他人の目とか、社会的評価とかに縛られてしまって、このビッグ・リボウスキのビジネスで成功したという大富豪が言うような、働け!困難に負けずに頑張って成功しろ!というような叱咤激励が呪縛となって人生にのしかかり、結構不幸になってしまっている。そんな中で、Dudeみたいに生きてみようよということか。

この映画、絶対、毛嫌いする人がいるんだろうな。むしろ、そういう人のほうが多いかもしれない。Dudeが唯一フィリップ・マーローみたいな探偵っぽいことをするシーンで、悪いやつが電話を受けてメモをしてそれを破ってさったところへかけ寄って残ったメモ帳に鉛筆でメモの跡をささっと浮かび上がらせようというのがあるんだが、メモの内容が???という間抜けなものだったというのがあった。僕は、大爆笑、ひとりでNetflixみていたが、声をだして大笑いしてしまった。こういう馬鹿らしさを毛嫌いしないで、おかしさを共有できる人は、結構、Dudensss、心の平静さがある人なんじゃないだろうかと勝手に思った。ミュージカル仕立てのDudeの空想シーンとかも、なにこれ?と受け付けない人もたくさんいるのでは(あのボーリングシーン、最高なんですが)。

あと、アメリカならではというか、主人公がリボウスキといういかにもポーランド系名字が、ポーランド系には申し訳ないがなんともユーモラスな味付けになっていると思う。地域性があるのかもしれないが、カルフォルニアで、「電球かえるのにポーランド人何人必要か?」とかいうたわいのないポーリッシュ・ジョークをよく聞いた。にやりとさせられるタイトル。ボーリング仲間も、もともとポーリッシュ系カトリックだったのがユダヤ系の奥さんと結婚してユダヤ教に改宗して、離婚をした今も自分はユダヤ教徒だと宗教日の禁忌にこだわるというのも、なんともあほらしく可笑しかった。

なんとも、気難しい芸術作品に対するアンチテーゼのような、はちゃめちゃながら、鑑賞後の後味がよい映画でした。

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