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【リサーチ旅・東京浅草①】もう一人、美しい手の女性と出会った。93歳、東京最高齢の芸者さん。

習字の先生の美しい手と、同じ手を持つ女性に出会ったことがある。
東京で最高齢 93才で現役の浅草芸者をしていたゆう子姐さんだ。何度もロケでお世話になり、そのたびに、私たちスタッフにもてなしをしてくださった。
見番(芸者の取り締まりを行う事務所)の近くに、姐さんがよく行くという喫茶店があり、お茶をごちそうしてくれた。面白いのは、姐さんのコーヒーの飲み方だ。
角砂糖を1個、2個・・・どころではなく、5個、6個、7個も入れて、ミルクもたっぷり入れてやっと姐さんのコーヒーが完成する。超がつく甘党なのだ。少し震える手でカップをつまんで、かみしめるように熱いコーヒーを飲む。その姐さんの華奢な手が、私が将来こうなりたい、理想の手なのだ。きっと、手の甲をつまんだら、ぷにっと盛り上がって気持ちいいんだろうな。あの手だ。ゆう子姐さんは、手だけでなく雰囲気も、私の習字の先生とどこか似ていた。目が細くて、物腰柔らかで、年を重ねても変わらない女らしさがある。姐さん自身も、芸のためにやっていることは「いつまでも女でいること」だと言っていた、別に男にモテようとしているわけじゃないし、若い頃に散々モテたのでもう男はいらない!「もう年だから」と諦める人もいるが、 女は男よりもずるいんだから、そのずるさも取り入れて芸にする、と。

姐さんは13歳で年期奉公に出て、16歳から芸者の修業を始めた。ようやく独り立ちした20歳の時は、戦時下だった。初めてついてくれた旦那さんには向島芸者の奥さまがいた。その旦那さんにも赤紙が届き、戦地へ向かうため大勢の町の人に見送られる中、ゆう子姐さんも旦那さんの無事を祈りながら遠巻きに見守ったと言う。しかしその二日後、真夜中に窓の外から「ゆう子、ゆう子」と聞き覚えのある声が。窓を開けると、戦争にいったはずの旦那さんが外に立っている。実は喘息持ちで体も細かったため、送り返されてしまったという。町中の人に見送られていながら、こんなに早く戻ってきてはバツが悪い。
芸者の奥さんから「ゆう子さんのところへ行ってらっしゃい」と言われたという。その主人との間に子供をもうけて、22歳で出産。大好きな人の子供をもうけたことが一番の幸せだと話してくれた。

私が「こうなりたい」と憧れる二人の女性には、共通点が多い。十代で新たな扉を開いて、戦争を経験して・・・一生続けられる手仕事を身に付けた。
特に感じるのは「人に教えることが好き」なことだと思う。習字の先生は次々訪ねてくる子ども一人一人を横に座らせ、必ず手本を書いてくれた。ゆう子姐さんは、芸者の仕事が大好きだから、一日何回でも、お弟子さんに教えても疲れない。その日最後に教えたお弟子さんがご飯に誘ってくれるのが楽しみだといっていた。どんな時でも心の余裕をもって、毎日を楽しむことが、いつかの手の美しさを約束してくれるのかもしれない。いつかああいう手になりたい。



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