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【創作】『不思議な国のアリス』第一章「ふかいふかーい穴」

 お昼時。アリスはお弁当を食べ終わって学校から家に帰ってきました。家の中は静かで、アリスの足音だけが響いています。いつものように部屋に入ると、病気がちのお姉ちゃん、セシルがベッドの上でにっこり笑いながらアリスを待っていました。

「ただいまー!お姉ちゃん起きてたの?」珍しく元気そうにしていたのでアリスは嬉しくなりました。セシルは軽くうなずいた後、優しい声でこう言いました。
「アリス、お願いがあるの。ママが忙しいから、お使いに行ってくれる?」
アリスはうなずいて、お姉ちゃんの頼みを聞くことにしました。お使いの中身を紙に書いて部屋を出ようとしたとき、セシルが呼び止めました。
「アリス、これを持って行って。」
セシルはアメジストが入ったペンダントを渡しました。その紫色の宝石がきらきらと輝いています。
「これ、お姉ちゃんが大切にしてるペンダントだよね。どうして?」宝石を見ながら言いました。
「…以前、アリスが道ばたで転んで怪我をして帰ってきた時があったでしょ?お守りとして渡しておこうと思って」
アリスはアメジストが入ったペンダントを首にかけると、お姉ちゃんににっこりしました。
「ありがとう。お姉ちゃんって優しい!」

 こうしてアリスはお使いに出かけました。セシルお姉ちゃんは日が落ちるまでには帰ってくるようにと言っていたので、まだ時間はたっぷりあります。
 すぐに帰るのもなんだか勿体ないと思ったので、アリスはひなたぼっこをすることにしました。川沿いの草むらにある大きな石に座り、アリスは退屈そうに周りを見回しました。「天気がいいだけで、代わり映えのしない風景だなぁ」
 ふと、アリスは姉からもらったペンダントを手に取り、じっと見つめました。その紫色の宝石は、太陽の光を受けて輝いています。アリスはペンダントを渡されたときのことを思い出しました。セシルがペンダントを手渡すとき、少し涙ぐんでいたような気がしましたが、アリスは気のせいだと思うことにしました。

 そうして、ペンダントを見るのもすぐに飽きてしまったアリスは、ボーッと移ろいゆく景色を眺めながら「何か面白いこと起きないかなぁ…」とつぶやきました。
 そのとき、不意にウサギがアリスの前を横切りました。アリスは反射的にそのウサギを目で追いました。ウサギは丸太の上にジャンプし、立ち上がって時計みたいなものを取り出しました。
ウサギはアリスを見て一瞬驚いた顔をしましたが、すぐにまたジャンプして姿を消してしまいました。「う、ウサギが立った!」あまりの出来事にアリスは目をぱちくりさせた後、丸太の上に立ってあたりを見回しましたが、ウサギの姿はどこにも見えません。キョロキョロと探していると、アリスは足を滑らせて丸太から落ちてしまいました。

「きゃあ!」アリスは思わず叫びましたが、尻もちをつくかと思いきや、どんどん落ちていきました。「と、止まって!」最初は落ち続けることに恐怖を抱いていましたが、まるで滑り台みたいに滑り落ちる感覚に、アリスは次第にわくわくしてきました。
「地球の果てまで落ちちゃうかも…」アリスはつぶやきました。「ここから反対側って…ブラジルかな?いきなり地表から出てきて『こんにちは」って言ったら驚くかも!」
そのようなことをつぶやいている間にも、どんどんどんどん落ちていきます。
 暗い中で、アリスの目にはアメジストのペンダントがほのかに光っているのが見えました。その光がアリスの心をちょっぴり落ち着かせました。「お姉ちゃんから貰ったペンダントがあれば大丈夫!…でも、お守りならこんなことにはならないよね?」そうツッコミたくなりましたが、「きっとこの先に退屈とは無縁の素敵な世界があるに違いないわ!」と、期待に胸を膨らませていました。

その間にも、アリスが落ちたふかいふかーい穴は、終わりが見えることはなく、まるで本当にブラジルにたどり着いてしまうのかと思わせるかのように深く続いていくのでした。


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