ナチョスから思い出すこと

オランダ留学中、私と友達が愛して止まなかったお店がある。
「SUPERMERCADO」
飲屋街の角にあるそのお店は、ピンクのネオンの看板を光らせ、人々を引き寄せる。
いつも人で溢れていて、金曜日に予約なしで行ったら一見さんだってすぐにわかっちゃう。
そんな、街で一番人気のメキシカンレストランなのだ。
オランダなのにメキシカンって疑問に思うかもしれないけど、わたしが暮らす街は、オランダの中でも移民が半数以上暮らしていたから、意外とオランダ料理屋の方が少ないのだ。

今日は金曜日。私とGabyは授業を終え、くったくた。

「あ〜、Mizuki〜今日はもうご飯作る気ないし、どっか食べに行こうよ〜」
「同感。私も今日は疲れたし、お酒飲みたい気分だわ〜。」
Gabyがニヤッとした。
私もニヤッとした。
『SUPERMERCADO!!!』
そう、こういう時はSUPERMERCADOのナチョスとビールを飲むのが私たちのお決まりなのだ。
時計の針は18時。
まずい、今日は金曜日だから早くしなくっちゃ。
二人で急いで自転車を漕いだ。

18時24分。
ついた。
「Hello! 予約はしてないんだけど、空いてるかしら?」
「ごめんね〜今空いてなくってね。一時間くらい待つことになるけど平気そう?」
私はGabyの顔を見ずに答えた。答えはもう顔を見なくてもわかる。
「大丈夫です。ミニバーのところで待ちます。」
「あら、わかってるわね!ありがとう!そしたら案内するわ。」

そう。満席の時は店内のミニバーで待つことになっていて、その間は、食事は頼めないけど、お酒は頼めるのだ。私たち二人はお酒は好きだし、おしゃべりだから、一時間なんてあっという間。待つことになるって言われても御構い無し。余裕余裕。

適当に席を見つけて、とりあえず、乾杯。一週間頑張った私たちのとっておきのご褒美。
ごくっと一口飲んだら、さあて、おしゃべり大会の始まりだ。
授業の話、ルームメイトのおかしな話、最近はまってる音楽や面白かった動画。恋愛の話しに、スキンケアのこと。それにものすごく真面目に社会の問題や将来の話しだってする。何から何まで話せて最高の友達。留学中に、まさかこんないい友達ができるなんて思わなかった。

「お嬢さんたち、何か食べもの注文する?」
話し込んでいると、不意に店員さんに声をかけられた。
「え?食べ物って今注文できるんですか?」
「そうよ、スナック系はね。ほらナチョスなんてどう?」
私とGabyは顔を見合わせた。
まさか。ミニバーで待ってる間にナチョスを頼めるなんて。何回も来ているのに、初めて知って、二人ともびっくり仰天。なんで今まで知らなかったんだろうって大笑いした。
「そしたら、ナチョスをひとつお願いします!」

お皿いっぱい山盛りに積まれた黄金色のチップス。口に入れるたびに、パリパリと音を鳴らし、噛み応え抜群。
そこに熱々の黄色いチェダーチーズと白いマスカルポーネ、緑色のワカモレがたっぷりと。真っ赤なサルサも酸味が効いてる。でも所々に青唐辛子が潜んでいるので、要注意。奴はとっっっても辛いから、そのまま食べたら火がでそう。まあ、そのパンチが美味しさの秘密なんだけど。
好きなスポットに狙いを定めて、チップスを一枚手に取り、そこにチーズやワカモレをどんどんすくって食べていくのが私流。Gabyはとにかく目の前の一枚を手に取り、バリバリ、バリバリ、ものすごい勢いで食べる。本人には言わないけど、その速さはブルドーザーみたいで、たまに口元にチーズがついたまま喋っているからおかしくて笑っちゃう笑。こういうお茶目なところが大好きだ。

ああ、幸せ。
まだまだ夜はこれから。思う存分楽しむわよ。




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