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【041】個人的な会計業界2023年振り返りと2024年序盤の見通し

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

今年2024年は1月1日から能登半島での地震、羽田空港での事故、北九州市魚町銀天街で火災と、正月三が日は何とも形容しがたい年初めとなりました。被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。

2024年の会計業界の行く末について年末年始考えていたのですが、まずは2023年も色々あったので簡単に振り返りが出来ればと思います。タイトルに個人的な、と付けている通り、網羅性は無視しており、特に監査については最前線から離れて久しいのでほぼ妄想です。

会計監査

思い出しただけでもざっと以下のようなお話がありました。

  • ニデック、分配可能額超過に関連して、PwC京都監査法人に対してプレスリリースで言及

  • グッドフィールド、監査法人の不手際を理由に上場できなかったとして、三優監査法人が東京地裁に提訴される

  • いなげや、監査不備でTOB延長

  • あらたとPwC京都の合併

  • EY、分離せず

  • J-SOX、15年ぶりの改訂

  • 四半期報告書の廃止

個人的には、EY分離の話は他ファームにも結構影響あったかと思いました。真偽は不明ですが、分離を前提とした採用等も一定職位以上では画策されていたかと推察しますので、採用マーケットにも影響あったかなと。

加えて、「EYが分離できるならウチも!」ということで他Big4は上手くいきそうなら追随する可能性もあったのですが、それも無くなりました。あと数年、少なくとも各ファームのグローバルの議長が変わらない限りは、この議論は再燃しないでしょう。

四半期報告書の廃止

また、四半期報告書も個人的にはビッグニュースでした。2023年11月下旬に決まって、その直後12月初週にBig4で監査をしているシニアスタッフの方数名と飲んでるときにこの話題になったのですが、流石に全然議論に詰まっていないと。加えて、面倒だったのが、その発表がちょうど会計士試験合格の発表と被るようなタイミングで、「四半期報告書の廃止で採用減りますか?」みたいな質問もあったとか。採用に駆り出されている方々一同としては、知らんがな、ですね。

監査報酬はもちろんのこと、監査対応や決算プロセス、決算スケジュールや経理人材の採用にまで影響ありそうなので、このニュースは2024年の影響大とみています。個人的な予想として、決算短信自体は廃止されないので、会計監査の業界全体では、監査報酬と監査手続は微減かほぼ変わらない気がします。

ただ、東証から出ている「四半期開示の見直しに関する実務の方針」では、その背景として「コスト削減や開示の効率化」とあり、「将来的な四半期決算短信の任意化」も言及されているので、この辺り踏まえると、初年度でプラクティスが固まらず流動的になる可能性もあります。

資本市場における企業情報開示の継続的な見直し

なお、日本公認会計士協会の年頭所感を拝見する限りでは、四半期開示制度の見直しの次の施策として、統合報告や会社法と金融商品取引法の法定開示書類との一元化が挙がっているようです。個人的には、四半期よりも先に会社法と金商法の一元化する方が良かったのでは?と思ってます。

(前略)さらに、経済の健全な発展に資するためには、資本市場における企業情報開示についても、制度全体を俯瞰し未来を見据えての在るべき姿を検討していく必要があります。2023年11月20日に「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が成立し、本年4月から四半期開示制度の見直しが実施されます。このほかにも、企業と株主との対話促進を目的とした株主総会開催前の有価証券報告書の提出、資本市場におけるサステナビリティ情報開示の充実及びその信頼性の確保、また、企業の統合報告や会社法と金融商品取引法の法定開示書類との一元化など、社会からのニーズや検討すべき論点はまだ多数あります。当協会は、開示制度の一層の充実に向けて、引き続きステークホルダーと積極的に対話をしていくとともに、資本市場制度の担い手の一員として積極的な対応を図ってまいります。

2024年年頭所感 ~社会の期待に応え、信頼溢れる未来へ~

大手監査法人の人手不足はそろそろ収束するのでは…

ここまでは資本市場含む需要側のお話でした。供給側の問題として、真っ先に挙げられるのは大手監査法人における人手不足でしょうか。

個人的には、そろそろ解消するのではないかと思っています。希望的観測もあるのですが、いくつか想定される要因のうち筆頭は上記四半期報告書の廃止なのですが、それ以外にもマクロ環境の影響もあります。

特に米国の会計監査を数年遅れで追いかけている現状に鑑みると、インフレにより平均時給が上がり続けている米国でのプラクティスを日本に取り入れる流れはより一層加速しそうで、プロフェッショナルが行う仕事がより一層限定されるのではないでしょうか。加えて、世界的にも結構な国で人員整理が行われている中、日本は特異的です。米国のEYの対象はアドバイザリー業務中心でしたが、2024年もどこかのファームで大規模な整理はあるでしょう。

会計アドバイザリー

J-SOXの改訂

2008年の制度開始から15年ぶりに「内部統制報告制度」が大きく改訂されました。改訂した制度は2024年4月以降に始まる事業年度から適用になります。

久々の改訂でしたが、COSO報告書の改訂やコーポレートガバナンス・コード導入等の国際的な内部統制の枠組みが変更されたものの、それに伴う基準・実施基準等の変更は行われていなかったのに加えて、昨今、経営者による内部統制の評価範囲外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例や、内部統制の有効性の評価が訂正される際に十分な理由の開示がない事例が一定程度見受けられたのが背景のようです。

導入時にはJ-SOXバブルなるものが期待されており、今回もITの委託業務に係る統制の重要性や情報システムに係るセキュリティの確保の重要性が改めて示されているので、部分的なコンサル需要は一部あるかもですね。明示的にクラウドサービスに言及されたので、特にIT×会計という分野での需要は一定程度ありそうです。ただ、特需といえるほどの規模感にはならないものと思料します。

IESBAの動向

IESBAについては、2022 年 4 月に「IESBA 倫理規程の改訂『上場事業体及び社会的影響度の高い事業体の定義』」 を公表したり、 2023 年 2 月には「グルー プ監査における特別な考慮事項(構成単位の監査人の作業を含む。)」を公表したりと、昨今、独⽴性を強化・明確化する改訂が相次いでいます。

そういえば、前述のEY分離の話にも独立性の話が絡んできます。

余談ですが、こういう独立性を確保するための会計事務所の分離において、その線引きが難しいのは税務です。監査は文字通り監査、コンサル・FASは非監査に綺麗に分かれるのですが、税務は監査・非監査両方と仕事しており、0/100で議論できないところがあります。税理士法人も大別すれば、申告書等の対応している部門と、移転価格やM&Aなどに対応している部門に分かれるので一応は分けることが可能なのですが、もちろんそれらに跨る間接部門等もあり、なかなか議論が難航するポイントかと思います。いわゆるM&Aにおけるカーブアウトですね。

話を戻して、独立性に関連するか否かはさておき、デロイトは非監査部門を監査法人から切り出しました。

おそらく監査業務と相性の良いサステナ関連の非監査業務は法人内に残るものと想像しますが、大部分は別法人に切り出される形となりました。他の法人も、同様に法人内の非監査業務の比率が高まれば、2024年以降、同様の動きがあるかもしれません。

フォレンジック

やはりビッグモーター

色々ありましたが、ビッグモーターですね。

近畿日本ツーリストがコロナ関連事業で過大請求していたり、楽天モバイルの元部長らが部材運搬車両の借り上げ費用などを水増し請求したりと、色んなニュースがありましたが、桁が1,2つ違いました。

IPO

2023年は100社に届きませんでしたが、90社超の企業がIPOしました。時価総額と調達規模では、ともに前年比で大幅に伸長しており、2023年は株式市場全体が堅調で市況が相対的に安定していたことが寄与していたものと思われます。

更なる税制優遇

12月には税制改正大綱にストックオプションに係る改正が盛り込まれたので、より一層、IPO市場が今後活況になってくる材料になりました。

親子上場の意義

その一方、向い風としては、親子上場に関する風当たりは日々強くなっています。IPOの件数のうち、マイノリティではありますが、大企業の子会社が上場するハードルは高くなりましたね。

M&A

過去最多のTOB

M&A関連でいうと、やはりTOBです。

件数としても過去最多ではありますが、まだ公開買付期間な企業もありながらも、東芝、大正薬HD、ベネッセHD、シミックHD、ベネフィット・ワンと名だたる企業が出てきました。

2024年もこの流れは一定程度続くことになろうかと思います。資本市場からの要求・上場維持に係るコストなどの差し出す対価に対して、上場することで得られるリターンが上回っているのか否か。少なくとも証券会社を筆頭に、FAや専門家からTOB予備軍の企業へのアプローチはもう結構進んでいるものと思われます。

2023年をまとめるキーワード「ガバナンスの在り方」「資本市場との対話」

改めて全体を振り返ってみると、J-SOX改訂然り、ビッグモーター然り、企業のガバナンスの在り方が問われる話が多かったように思えます。この流れは2024年以降も続くと思われますし、年始に発生した能登半島地震の影響で、否が応でもサプライチェーンや地政学リスクに対するリスクマネジメントを考えざるを得なくなりました。

加えて、四半期報告書の廃止や親子上場の意義、TOBなど、なぜ上場企業は上場し続けるべきなのか?ということを考えさせられるトピックが多かったと思います。

2024年後半の展望については、今月来月にかけて、いろいろな方々との新年会やお仕事でお話させていただく際に、いろいろ情報交換できればと思います。

プロボノに先んじて

最後に、改めてではありますが、能登半島地震により被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。

本当はプロボノなど自分が得意とする領域のお仕事で貢献したいところなのですが、まだ余震も続く状況化出来ることとして、まずは寄付をさせていただきました。一日も早く復興・復旧されることを心からお祈り申し上げます。

今週は以上です。ありがとうございました。

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