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平渡和は文字を作る

平渡和ひらわたりなごみとは高校の文芸部で一緒だった。彼女は意味の無い文字列をずっと打ち込んでいた。彼女にとって文字列は見た目が全てだった。だから、意味の無い文字列をずっと作っていた。自分でフォントを作ることもあった。
「自分でフォントを作るなんてふぉんと凄いですね。」
彼女は無視して、パソコンを打ち続ける。
「ふぉんと…」
「分かったよ。」
彼女は手を止める。
「全然、凄いことじゃないさ。全てのフォントは誰かが作ったものなんだから。」
「でも、文章を書くときにフォントから作る人間なんて聞いたことありませんよ。」
「君、小学校の教科書の書体が何か知っているかい。」
「えーと、明朝体ですか?」
「教科書体だよ。」
教科書は書体から作られている。私達はそれで育った。何も凄いことではない。そう彼女は言った。
でも、やっぱり異常だと僕は思う。

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