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SES業界の透明性と倫理:課題、現状、そして弊社の展望

新年に際して、SES業界が直面している問題点と、弊社の現状と今後の展望についてまとめました。

SES(System Engineering Service)は、エンジニアをクライアントの元へ派遣し、専門的な技術や経験を提供するサービスです。SES企業はクライアントからの派遣料金(請求単価)とエンジニアへの支払い賃金(給与)の差額を収益として運営しています。

SESに類似したサービスとして派遣がありますが、両者の主な違いは指揮命令権の所在です。SESでは指揮命令権は所属会社側にあり、エンジニアはSES企業の社員としてプロジェクトに参加し、SES企業からの指示に従って業務を遂行します。一方、派遣では指揮命令権がクライアント側にあり、派遣社員は派遣会社に雇用されつつ、クライアントから直接業務指示を受けます。

しかし、実際にはSES契約でプロジェクトに参加しているエンジニアがクライアントから直接業務指示を受けるケースが多く、SESと派遣の境界が曖昧になることが珍しくありません。SES契約下でクライアントから直接指示を受ける場合は「偽装請負」とされ、これは違法行為であり労働局の指導対象になります。最近では偽装請負の問題が注目され、多くのSES企業が労働者派遣事業の許可を取得し、派遣事業に参加しています。その結果、SES業務を名目上行っているが実際には派遣事業と併行しているのが一般的な状況です。

SES企業の成功のカギは営業力に依存しています。IT業界は多重下請け構造を持ち、上位企業から始まるピラミッド型の階層構造になっています。各階層で請求単価からマージンが控除されるため、階層が下になるほど請求単価は低くなり、それに伴ってエンジニアへの支払い給与も低くなる傾向にあります。そのため、上位の階層で取引を行うことはSES企業にとって重要な課題となります。高い請求単価で取引ができれば、高い給与で求人を出すことができ、応募者を増やし、企業の売上と利益に貢献します。

しかし、設立年数が浅い、または営業力に欠けるSES企業にとっては、上位の階層でビジネスを展開することは困難です。大手企業は管理工数を削減するために、取引先数を絞っています。そのため、新規取引を開始するためには高い営業力が必要とされます。この背景から、設立年数が浅い新SES企業の多くは、比較的取引がしやすく、請求単価が低く商流が深い階層でビジネスを展開していることが多いです。

請求単価が低いということは、エンジニアに支払われる給与も低くなる傾向にあります。この状況が「高還元」という言葉の発生の背景になっています。高還元とは、請求単価に対して他社よりも高い割合で給与を還元することを意味します。これは、平均年収よりも還元率を重視し、それを応募者に訴求する方法です。

しかし、先ほど述べた通り、請求単価自体が低いため、いくら還元率を高めたとしても実際の給与額にメリットはありません。たとえば、還元率が75%と高くても、もし請求単価が月額50万円なら、年収は390万円にしかなりません。反対に、還元率が65%であっても請求単価が月額70万円なら、年収は460万円になります(捕捉1)。このような状況下では、年間で70万円の違いが生じ、エンジニアにとってどちらが魅力的であるかは明白です。

また、新SES企業が提示する還元率は単純な給与支払い率とは異なる問題があります。通常、還元率と聞けば請求単価に対する給与の割合を想像しますが、SES企業が示す還元率には給与だけでなく、社会保険の会社負担やその他の経費も含まれていることがあります。たとえ還元率が75%とされても、これらの費用を含むため実際の手取り給与の割合は60%から65%程度に低下することがあります。

この給与支払い率65%はエンジニア派遣業界の平均支払い率と同じ割合です。1日あたりの派遣料金の平均が約32,000円、派遣賃金の平均が約20,000円で、この割合は約61%です(捕捉2)。ただ、この計算には従業員の有給休暇の消化費用が含まれていません。これを加味すると、実際の給与支払い率は約65%になります。SES業界で高いとされる還元率75%は、実際にはエンジニア派遣業界では一般的な割合です。エンジニア派遣業界で問題視される高マージン率が、SES業界では逆に良条件として宣伝されるという矛盾が生じています。

要するに、還元率が75%と高く見えても、請求単価が低い場合、実際の年収は低くなります。また、この還元率には様々な経費が含まれているため、実際に受け取る給与の支払い率は、エンジニア派遣業界の一般的な支払い率と同じ割合です。これは、商流が深く、低い請求単価しか請求できないSES企業が、通常のマージンを取りながら運営しているだけであり、実際は好条件であるかのように見せるための偽装に過ぎないということを意味しています。

SES企業が示す還元率には統一されたルールが存在しておらず、どのような経費を含めるかは各SES企業が自由に決定しています。例えば、バックオフィスの社員の給与や事務所家賃まで還元率に含めることも実質的には可能です。応募者はSES企業を選ぶ際に、このような曖昧な基準に基づいて選択するしかありません。還元率を給与支払い率と思い込んで入社した後に、実際は異なっていたと気づいても、多くの場合、「会社説明の際に説明したはず」「勘違いしたのは自己責任」とされることが多いようです。

応募者の注目を集めるために還元率に様々な経費を盛り込んでおきながら、勘違いしたのは自己責任とするのは、あまりにも不誠実な態度だといえます。SES業界がネガティブな言葉で語られるのは、こうした不透明で不誠実な態度からなのではないでしょうか。SES業界の健全化のためには、倫理的な採用プロセスの普及が不可欠です。

このような背景を踏まえて、弊社は創業以来、請求単価に対する給与支払い率を一貫して公開してきました。弊社のウェブサイトでは、給与体系を「報酬早見表」として公開し、誰でも簡単に閲覧できるようにしています。透明性のある情報提供を行いつつ、SES業界で最高水準の還元率を実現しています。また、勤続年数に応じて還元率を上昇させるシステムを採用し、社員の会社への貢献度に応じた公平な評価を行っています。

報酬面における課題は解決した弊社ですが、社員教育の面ではまだ課題を抱えています。今年から、この問題に取り組み、「年収を上げるための社員教育」に力を入れていく予定です。報酬と教育の両面において充実を図り、SES業界およびエンジニア派遣業界において、名実共にトップ企業を目指します。

最後になりますが、私はSES業界の問題は「還元率」という言葉の使用にあると考えています。還元率という曖昧な基準が用いられるため、応募者は企業間での正確な比較を行うことが困難になり、結果として入社後に想像していたものと異なるミスマッチが生じています。しかしながら、応募者獲得競争が激化しているSES業界の現状を考慮すると、私がどれだけ問題提起をしても、簡単に改革が実現するとは思えません。そのため、応募者はSES企業を選ぶ際に、このような背景を理解し、慎重に判断する必要があると思います。

(捕捉1)年収を求める際の還元率は、還元率の中に社会保険料の会社負担が含まれていると改定して、それぞれの還元率から10%を差し引いた給与支払い率で計算してあります。
(捕捉2)厚労省「令和3年度 労働者派遣事業報告書」によると情報処理・通信技術者の1日当たりの派遣料金は32,394円、派遣賃金は19,886円で、割合は61.4%となります。

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1.1年目からの「通常契約」時の年収
2.4年在籍で適用される「プロ契約」時の年収
3.10年在籍で適用される「さよならマージン」時の年収
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