あの子が通うなら
小学校5年の終わり頃。
僕はクラスに好きな人がいた。
僕はその人から「4月から新しく学習塾に通う」という話を聞いた。
駅の向こう側にあるチェーン展開している塾、少し遠いが、自転車を使えば問題のない場所。
この人があの塾に通うなら、僕も一緒に通いたい。
クラスの中ではうまく喋れないけど、放課後ならもっとちゃんとできる、変な自信が僕の心の中にはあった。
親に、あの塾に通ってみたいと頼み込んだ。
教育ママ憧れを持つ母親は、むしろ僕が前向きに塾に通いたいだなんてと喜んでオーケーを出してくれた。
好きな人には何て言おう、そうだ、親と話をしていてその塾の名前を出したら親が勝手に入塾手続きを・・・。
今思えば、現在揺れに揺れている日本の男性アイドル事務所のような流れだ。
翌日、学校に行ったら、その好きな人は脚を骨折していた。
骨折の理由は最後まで聞けなかった。
気丈に振る舞ってはいるものの、やはりつらそうにしていて、僕はそれ以上踏み込めない何かを感じていた。
その人は、4月から塾に通うことを諦めると言った。
脚がそんな状態では通えないので当然だった。
ということで僕も入塾を断念。
心のどこかで、塾に一緒に通いつつ、帰り道も一緒で、そうしている間に心を通わせることができたら、そんな淡い下心、いや、濃厚な下心をハッキリと持っていただけに、とても悔しい出来事だった。
ひょっとしたら、君らはご縁がないからと神様が引き離したのではないかな、と思っている。
それだけ、これ以上ないタイミングで僕らが仲良くなれそうなきっかけが奪われてしまったからだ。
このご夫婦のエピソードを読んでいて思い出した、僕の過去の話。
君が歩みを止めるのなら、僕も一緒に。
そこに迷いはなかった。
ちょうど桜が蕾から開花する頃、桜が開花しても僕は何も花開くことはなかったけど、健やかで爽やかすぎて悲しいとは思っていない青春の思い出。
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