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書評 リスクにあなたは騙される ダン・ガードナー

1カ月ぶりのnote更新になってしまった。Kindleにダウンロードした英語の本がなかなか進まないなか、以前から気になっていた本をオーダー。こちらは文庫化はされていたが、まだKindle化はされていない。新型コロナをめぐる問題や先の九州などの大雨被害で、改めてリスクとは何かが我々に突きつけるなか、2001年9月11日の米国同時多発テロなどを契機に、リスクについての考察をまとめた1冊が同書である。

同時多発テロは、航空機が世界貿易センタービルに突っ込んでいく映像は、我々日本人にとっても衝撃的だったが、米国では飛行機での移動を避けて、車で移動する人が増加したという。もちろん、飛行機でテロに遭わないようにリスク回避した結果なのだが、この結果、交通事故で亡くなる人が増加し、1500人が命を落としたという。おそらく飛行機で何らかのアクシデントで亡くなる確率と、交通事故で亡くなる確率を考えると、前者のほうが少ないだろう。著者は、病気や化学物質、性犯罪などさまざまなリスクを事例に挙げて、実はさほどリスクがあるわけではないにもかかわらず、人はなぜリスクを恐れるのかについて、分析している。そのなかで出てくるキーワードが、「頭」と「腹」である。何かが起きたときに、直感的に素早く判断するのが「腹」であり、計算にとって素早く処理するのが「頭」である。これは狩猟社会の時代から人間が生き延びることができた仕組みであるが、文明社会になるなかで、「腹」で対処すべきリスクは減っているにもかかわらず、それに対応できていないために、ついついリスクが過大評価されているというのが著者の指摘である。

そこには、現在のマスメディアの問題も当然のことながら、指摘されているが、人間に備わっている判断基準のあり方が、大きな背景にあるとするのが、著者の見方である。あとがきの佐藤健太郎氏は「ゼロリスク社会の罠」という本を書いており、著者と同じような認識を有しているが、福島事故の後にさまざまな「放射能」をめぐる無意味な言説がまき散らされたことなどを引き合いに出して、「成熟したリスク認識をもった社会は困難」だと指摘する。しかし、1つ1つやはり事実を積み重ねて、理解を深めていく以外にないのではないかとも、確かなリスク認識を深めていく以外にはないのではないかと感じた。

#書評 #リスク社会 #ノンフィクション #数理