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書評 95 早見和真

95年に起きた地下鉄サリン事件をモチーフにしたドラマが始まるというので、見始めたのだが、ストーリーが気になり、原作を読むことにした。地下鉄サリン事件に遭遇した高校生秋久(通称Qちゃん)が、これまでの縁のなかった同級生からグループに招き入れられ、そこからそれまで経験したことのない、日常が始まるという内容。他校生の対立から、渋谷を仕切る黒幕的な存在との対決まで、物語は引き込まていく内容。小説は2015年時点の渋谷のカフェからスタートする。主人公の秋久が、高校生時代の秋久とその同級生たちについて調べているという女子高生が、話を聞きたいということで、会うシーンだ。ドラマでは、雑誌編集者の女性と違う設定になっているが、どちらも秋久が高校生時代にとかつて縁のあった女子と、縁のある女性だ。小説では、15年と当時を行き来しながら、ストーリーが展開される。
当時の社会問題となった援助交際なども織り交ぜながら、ポケベルといったアイテム、ファッションや音楽なども出てくる。95年はオウム事件や阪神・淡路大震災など、当時としてはインパクトを残す出来事が多かった。そのなかで、秋久をチームに引き入れた翔こと鈴木翔太郎は、「今だけを死ぬ気で生きることが、カッコいい大人になる近道だ」と語る。15年時点で当時の仲間たちが改めて出てくるシーンが描かれているが、いわゆる普通の日常を過ごしている。高校生の秋久がわずかな期間のなかで、さまざまな事件に巻き込まれていく。どのような事態が起きようとも、日常は訪れるし、日常はそこにある。実は日常と、一見かけ離れているようなことも案外、近い存在にあるのかもしれない。読んでそんな思いに駆られる1冊だった。

#書評 #小説 #早見和真 #1995年