書評 我々はどこから来て、今どこにいるのか? エマニュエル・トッド
ホモ・サピエンスの誕生から米国における2016年の選挙におけるトランプ大統領誕生まで、人類史の全貌がわかるというのが、同書のキャッチコピーだが、その視点の1つが「家族」というキーワードだ。著者はフランスの人類学者で、過去にソ連崩壊や英国のEU離脱についても、予言したことで知られており、数々の著作を世に放っている。
上巻では、新しいと思われてきた「核家族」が最も原始的で、この原始的な核家族こそが、近代国家との親和性を持つことを明らかにし、「アングロサンがなぜ世界の覇権を握ったか」を解き明かす。下巻では、民主主義が元来野蛮な起源を有していたことを指摘。「家族」の視点から、主要国の現状と未来を分析し、下記のように示す。
・「核家族」の英米では、高学歴エリートの左派が体制順応派となり、英のEU離脱や米トランプ政権誕生のような「民主主義」の失地回復は、学歴社会から取り残された右派で生じている。
・「共同体家族」の中ロでは、少子高齢化が急速に進む中国の未来は暗く、ロシアの未来は明るい。
・「直系家族」の日本とドイツでは、東欧から人口を吸収し、国力増強を図るドイツに対し、少子化を放置して移民も拒む、国力の維持をあきらめ、世界からひきこもろうとしている。
日本語版のあと書きでは、各国の現状と今後について、別途各国の現状と今後の見通しについて、示しているが、日本に関しては、米国の動向次第で不必要な戦争などに巻き込まれるリスクがあると指摘している。今後の世界を見ていくうえで、ルーツをだどりながら、今を踏まえておく必要があることを強く認識した同書だった。