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2−6 「僕」から「俺」になり、一皮剥けた 挑発的な歌詞が印象的な「ガラスを割れ!」

6作目である本楽曲は前作から約5ヶ月後、2018年3月7日にリリースされた。この約3ヶ月前、2017年12月31日に放送された「第68回NHK紅白歌合戦」で4th single「不協和音」を披露した際、倒れる振り付けの際、センターの平手が右腕を強打し上腕三頭筋を損傷したとされ、1月30日・2月1日に行われる予定だった日本武道館での公演が欅坂46(漢字欅)からけやき坂46(ひらがなけやき)の公演に振り替えられた。その怪我から復活後初のリリースとなる。また、1期生21人で発表した最後のシングル曲となった。


 本楽曲MVでは前作から引き続きズボンを着用している。白いトレーナーに黒いパンツ姿でロング丈のMA-1を羽織っている。MA-1はリバーシブルになっており、平手は赤、他のメンバーは黒を表にして着用している。これは「スイミー」(アメリカの絵本作家レオ・レオニ作の絵本である。小さな魚の話で、仲間達がみんな赤い魚だったのにスイミーだけは真っ黒な魚である。)をイメージしている。撮影は長野県諏訪市にある巨大な工場跡地にセットを作って行われた。最低気温マイナス10度の中撮影をしたため、メンバーが吐く息が白く写っている場面も見られる。また、世界最速でカメラを動かす機材も使用されており、よりエネルギッシュなパフォーマンスが表現されている。今回は「現状を打破する」がテーマとなっており、仲間と自分による大人との戦いを見せている。他人である大人の存在を強調するためだろうか、ダンサーを起用しているのは前回同様である。


 MVは騒音の中、車に寄りかかって息を切らして座り込んでいる平手のカットから始まる。


 前奏が始まると同時にソファーに座った本楽曲センターの平手友梨奈の映像に変わる。その平手の視線の先にはテレビがあり、そこには先ほどの車に寄りかかって息を切らしている平手の姿が写っている。そして、その映像を睨みつけ何か覚悟したような表情を浮かべる。「Oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh Hey! Hey!」というフレーズが2回繰り返されており、声以外に鳴っているものはない。「Oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh」はメンバーの声だが、その後の「Hey! Hey!」は男性の声に変わっている。
 その次は、歌詞の内容・繰り返す回数は変わらないが、声だけだった最初の2回に対して次の2回では伴奏が流れ出す。「Oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh」はメンバーの声だが、その後の「Hey! Hey!」は男性の声であるのは前半と変わらない。MVは前半の続きから始まっている。睨みつけていたテレビを蹴る平手の後に、フォーメーションに並んだメンバーが険しい表情で歩いてくる映像やその足元のカットが入る。テレビを蹴るシーンは過去の自分に対する感情を表しているのだろうか。フレーズの2回目、フォーメーションに並んだメンバーがこちらに向かい前進している映像では、メンバーの頭上に曲名が大きく表示される。そして、前2最後にはドラム缶から燃え上がる炎の中に、右腕にしていた自身の三角巾を落とし燃やす映像が入る。三角巾は平手が普段使用していたものであり、燃やすことは平手自身が撮影現場で発案し行った。


 Aメロは大きく2つのフレーズで構成されている。前半は「川面に映る自分の姿に 吠えなくなってしまった犬は 餌もらうために尻尾振って 飼い慣らされたんだろう(bow wow)」と歌っている。後半は「噛みつきたい気持ちを殺して 聞き分けいいふりをするなよ 上目遣いで媚びるために 生まれてきたのか?(hound dog)」となっている。 Aメロでは人を犬に例えて歌っている。後半に相手に対して呼びかけているような語尾が出てくることから、主人公が相手に対して投げかけていると考えられる。また、相手がいると仮定したら、最初の「川面に映る自分の姿に 吠えなくなってしまった犬」とは、主人公が投げかけている相手を「吠えなくなってしまった犬」と貶していると考えられる。そして、このフレーズでは2つ英語が出てくる。1つ目の「bow wow」は日本語でいうと「ワンワン」であり、犬の鳴き声を英語で表した擬音である。2つ目の「hound dog」は「猟犬」を意味している。歌詞中の「飼いならされた」犬を強調するために用いられたのではないだろうか。MVは主にダンサーとメンバーによる戦いを表しているダンスの映像が使用されている。ここでまず、前に述べた「自分・仲間」対「大人」を表しているのではないだろうか。前進や後退、腕の動きで攻めと守りが繰り返されている様子を表している。そして、途中にはメンバーが振り返りながら歌っているソロカットのリップシーンが入っている。


 Bメロでは「今あるしあわせに どうしてしがみつくんだ? 閉じ込められた 見えない檻から抜け出せよ Rock you!」と歌っている。ここも主人公が相手に対して問いかけ、投げかけている内容である。フレーズの最後の「Rock you!」には「やっつける」という意味があり、檻から抜け出す・支配から逃れるといった意味とリンクしていると言えるのではないだろうか。MVでは最初の平手のソロカット・スタンドマイクを使ったフォーメーションのカットで前に述べた機材を使用していると推測できるような、今までのMVでは見られなかったカメラワークがうかがえる。最後の「Rock you!」はスタンドマイクを持ちカメラを睨みつけながら歌う平手のソロカットになっている。


 続いて、サビもAメロ同様に2つに分けられる。前半では「目の前のガラスを割れ! 握りしめた拳でoh!oh! やりたいこと やってみせろよ おまえはもっと自由でいい 騒げ! Oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh」と歌っている。ここで、主人公が訴えかけている相手が「おまえ」であることがわかる。前回までは「君」だったのに対し「おまえ」に変化していることから、主人公が荒々しくなっていると推測できる。Bメロで出てきた「閉じ込められた 見えない檻から抜け出せよ」に合わせ、より強く訴えている内容になっている。「サイレントマジョリティー」でも出てきた「自由」という言葉がここでも出てきている。「見えない檻」がルールであり、大人に「飼い慣らされ」、自分の意見や意思を伝えられなくなっている「おまえ」に対し、「自由」を訴えている。言葉が荒くなっているが、伝えたいことの根本は同じなのではないだろうか。MVでは振り付けが中心に映されている。ステップとともに腕を伸ばしあげ前進し、今度は顔を守るような動きをしながらステップも後退している。そしてまたステップを踏みながら合わせて腕を伸ばし前進し、右腕を頭上で振り回している。フォーメーションに並んだメンバーの後ろにはダンサーがおり、さらに後ろでは欅坂46のロゴで使用されている緑と紫のフラッグが振られている。平手と他のメンバーをよく見て比較すると、腕を痛めていた平手の腕の上がりが低い。しかし、センターにいることや前傾姿勢をとっていることから可動域の狭さがカバーされている。
後半では「邪魔するもの ぶち壊せ! 夢見るなら愚かになれ 傷つかなくちゃ本物じゃないよ」と歌っている。「夢見るなら愚かになれ 傷つかなくちゃ本物じゃないよ」は「サイレントマジョリティー」に出てくる「夢を見ることは時には孤独にもなるよ 誰もいない道を進むんだ」「誰かの後 ついて行けば 傷つかないけど その群れが 総意だと ひとまとめにされる」の2フレーズに通じるのではないだろうか。MVでは平手を囲むようにして手首を合わせ回し腕を下げると同時に、平手以外が膝立ち、頭を下げ、その真ん中を平手が征して歩いてくるのが印象的だ。前にものべた通り、衣装のMA−1が平手だけが赤で、他が全員黒だが、ダンサーも黒の衣装を着用しているため、平手の赤いジャケットがより目立っている。


 2番Aメロも1番同様2つのフレーズに分けられる。前半は「他人を見ても吠えないように 躾けられた悲しい犬よ 鼻を鳴らしすり寄ったら 誰かに撫でられるか?(bow wow)」となっている。後半は、「リードで繋がれなくても どこへも走り出そうとしない 日和見主義のその群れに 紛れていいのか(hound dog)」と歌っている。歌詞の内容や「おまえ」に向けて訴えている方向、使用されている英語などはAとほとんど変わらない。この中で気になるワードが1つ出てくる。後半に出てくる「日和見主義」だ。日和見主義とは形勢を見て有利な方に追従しようとする考え方のことであり、「不協和音」に出てくる「軍門に下る」に近いのではないだろうか。理不尽なこととわかっているけど大きな力によってねじ伏せられ従っている不協和音の内容に通じると考える。前半のMVの中心は、メンバーが2列に一直線に向かい合って並びさらにその外側にダンサーが同じように並んでいる。メンバーが向き合っている間を平手が前進してくるシーンだ。基本的な動きは平手も含め全員同じだ。後半は1番にもあったメンバーの後ろにダンサーがつき、最後尾にはフラッグを持った人がおり、フォーメーションで踊っているシーン・平手のソロカット・スタンドマイクを持って歌うメンバー数人のソロカットで構成されている。全員で踊っているところではヘッドバンギングを首だけでなく、上半身を使って行なっているような激しい振り付けもうかがえる。


 次の2番Bメロでは、「すべて失っても手に入れたいものがある がむしゃらになってどこまでも追い求めるだろう Rock you!」と歌っている。このフレーズは、他にはある荒々しい言葉が出てこない。「すべて失っても手に入れたいものがあるなら、がむしゃらになってどこまでも追い求めるだろう?」と「おまえ」に対して「そうだよな?」と同意を求めるような言葉になっている。MVでは1番同様特殊な機材を使用していると推測できる映像が使用されている。今までは全員で踊っているかソロカットが多かったが、ここではいくつかのグループに分かれて踊っているカットと、1〜3人で静止しカメラを見つめているカットで構成されており、それまでに出てきていない映像が出てくる。


 そして、2番のサビの前半は、「抑圧のガラスを割れ! 怒り込めた拳で oh!oh! 風通しを良くしたいんだ 俺たちはもう犬じゃない 叫べ! Oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh」と歌っている。ここで初めて自分を含めた複数人を表す「俺たち」が出てくることで、主人公の一人称が「俺」であることがわかる。他人から受けている、見えない「抑圧」を壊すことで自分たちは飼い犬ではなくなり、自由になるんだ!と訴えているような歌詞である。MVではスタンドマイクを使用している。そして、2番Bメロに続き特殊機材を使用して撮影している。2番Aメロで出てきた、ヘッドバンギングのような激しい振り付けを、スタンドマイクを傾けて持ちながら行なっている。後半では「偉い奴らに怯むなよ! 闘うなら孤独になれ 群れてるだけじゃ始まらないよ」と歌っている。ここでも「サイレントマジョリティー」に出てくる「この世界は群れていても始まらない」、そして「不協和音」に出てくる「不協和音を 僕は恐れたりしない 嫌われたって 僕には僕の正義があるんだ」に通じる歌詞が出てくる。MVだが前半の「Oh,oh,oh,oh,oh〜怯むなよ!」まで平手のソロカットになっており、全員で踊っていたものと同じ振り付けを一人で行なっている。その後、全員のカットに戻る。先ほども出てきたヘッドバンギングのような激しい振り付けを、スタンドマイクを持ちながら行なっている映像と、スタンドマイクを持って歌っているソロカット、特殊機材を使っているカットなどが入り混じっている。特殊機材を使っているカットでは映像が真横を向いているところから90度回転して元に戻るカットもあり、それまでにない不思議な絵になっている。


 そして、ここで間奏が入る。間奏の中心となっているのは、真ん中に平手がおり、それを内側からメンバー・ダンサー・フラッグが円を作り囲っている映像だ。平手に詰め寄るようなダンスも出てくるため、主人公「おまえ」=平手対「抑圧」である大人の構図が見えてくる。その後、平手のアドリブダンスのソロカットが入ったのち、全員の円形の映像戻り、平手が弧を描くように上半身を回すのに合わせ、囲っている人が跪き頭を下げる。そして、平手のソロカットに戻る。不協和音でも平手対他メンバーの構図で間奏のダンスを行なっていたが、本楽曲ではダンサーを起用していることもあり、戦いのインパクトがより大きく描かれている。また、不協和音ではワンピースの形の制服衣装で撮っていたのに対し、今回はズボン・MA-1で踊っているからか、腕や上半身で大きく動いているのはもちろん、足の動きもより細かく、より鮮明に見えるように感じる。さらに、フラッグを使用することによって、人だけでは表しきれないダイナミックな動きも取り入れられ、フラッグの揺れる動きと色により、集団が大きく感じられる。


 続いてのラスサビ①は、歌詞は1番のサビと同じで前半途中「騒げ!」まで刻みがなくなり雰囲気が一変する。MVも「夢見るなら愚かになれ」まではすべて平手のソロカットになっている。「目の前のガラスを割れ! 握りしめた拳で oh!oh!」はスローモーションで再生される。まず、「握りしめた拳」のところでは左手で実際に拳を上へ突き上げている。「やりたいことやってみせろよ」では頭を抱えもがき苦しんでいるような絵になっているが「お前はもっと自由でいい 騒げ!」ではスタンドマイクを抱えカメラを睨みつけているカットや頭を抱えていた腕を外した後、・冒頭で蹴り飛ばし画面が割れたテレビのカットなどが混ざって出てくる。「Oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh 邪魔するもの ぶち壊せ! 夢見るなら愚かになれ」では平手の力強いソロダンスが繰り広げられる。「傷つかなくちゃ本物じゃないよ」では黒いMA-1を羽織った他のメンバーが歩いてやってくる。ここが、「俺」である平手が訴えかけていた仲間である「おまえ」=他メンバーが賛同しだした瞬間ではないだろうか。


 ラスサビ②には1番・2番のサビでは出てこなかった歌詞が出てくる。前半では「想像のガラスを割れ! 思い込んでいるだけ oh!oh! やる前からあきらめるなよ おまえはもっとおまえらしく 生きろ! Oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh」と歌っている。今までは「目の前のガラスを割れ!」「抑圧のガラスを割れ!」と具体的に示していたが、最後は「想像のガラス」になり、「思い込んでいるだけ」と直後に歌っている。今まであると思っていた「目の前の」「抑圧の」ガラスは「思い込んでいるだけ」であって、実在しなく「想像」していただけであるということを示しているのではないだろうか。自分自身で抑えているだけであって、本当は何にもないんだということを伝えたいのではないだろうか。そして、ここでも「サイレントマジョリティー」に通じる歌詞がある。「おまえはもっとおまえらしく 生きろ!」は「君は君らしく生きて行く自由があるんだ」「君は君らしくやりたいことをやるだけさ」に該当するのであろう。MVでは、集結したメンバーがフォーメーションで踊る映像が中心に構成されている。ここでは、他の場面ではいたダンサーやフラッグはない。その映像にスタンドマイクを持ったソロカットや平手が一人で踊っているカットが混じっている。「Oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh」の前半はメンバーのカット、後半は平手のソロカットになっている。ここは他とは違いそれぞれが体や頭を揺さぶり、自由に踊っている。後半の歌詞は「愛の鎖引きちぎれよ 歯向かうなら背中向けるな 温もりなんてどうだっていい 吠えない犬は犬じゃないんだ」と歌っている。MVでは「愛の鎖引きちぎれよ」まではその前のメンバーのカットが続いている。「歯向かうなら背中向けるな」では再びスタンドマイクを傾けて持ちながら行うヘッドバンギングのような激しい振り付けをし、「温もりなんてどうだっていい」でメンバーが集結して、前にも出てきた手首を合わせ回し、腕を下げる振り付けをする。そして、最後の「吠えない犬は犬じゃないんだ」では平手のスタンドマイクのソロカット→背を向けて歩き出すカットが一瞬映り終わる。歌詞に出てくる「愛の鎖」とは、これも「サイレントマジョリティー」に出てきた「見栄やプライドの鎖」に繋がれた大人=自分たちを飼い慣らしていた大人なのだろうか。飼っていた=育ててくれた・世話してくれた、愛情を注いでくれた大人に対して、その見えない鎖を引きちぎって、自分の足で生きて行けと訴えかけているのではないだろうか。


 最後まで見てきたが、それまでの曲に出てきた「サイマジョポーズ」がMVに出てきていないが、音楽番組やライブなど、全編振り付けで行う際、冒頭の「Oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh Hey! Hey!」を繰り返しているところで出てくる。前のフレーズの2回目で、平手以外が、胸の前で、左手でサイマジョポーズを作り、足を肩幅に広げており、前2のフレーズ1回目で全員が揃って行う腕を使った振り付けの際に両手でサイマジョポーズを作っている。MVでは見られないが、印象を伝えるのに大事な曲の冒頭の振り付けに「サイマジョポーズ」は使用されている。


 この曲は「サイレントマジョリティー」「不協和音」に続く、我々若者に対して自ら考え、自らの意思で動くんだ!と訴えかける曲となっている。現状を打破することは容易ではない。しかし、打破しない限り大人やルールに縛られ、いつしか自分を見失いNoと言えなくなってしまう。打破するためには、自分で作り上げた「想像のガラス」を割り、自らの意思を強く持ち行動して行く必要があると伝えているのではないだろうか。



【フォーメーション 一覧】
(1列目 7名、2列目 7名、3列目 7名 計21名)

ガラスを割れ!

【参考資料】
https://www.oricon.co.jp/news/2105728/full/
https://twitter.com/i/moments/963637230274252800
https://youtu.be/A2k6ZO6B0A8