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【掌編小説】 ていこ


最近
涙もろくなってきた

以前は漠然と
泣くことが
いけないような気がして

人前では勿論

一人きりの時でさえも
泣いたりしなかった

最後に
泣いたのが
いつだったのかも
思いだせないほどだったのに

年のせいなのか

マンガやドラマ
映画など
ちょっとした
心の機微や

動物の愛らしさ
美しい景色にさえも
涙腺が緩むようになった

わたしに
こんな涙があったのか
っていうくらい

今まで
泣いてこなかった分を
取り戻すかのような
激変ぶりに
自分が一番驚いている


誰かが

泣くっていうのは

泣けって命令して
泣くのではなく

ずっと
泣くなって命令し続けていて

それを辞めたときに
泣くのだ

と言っていたのを
思い出した

真偽はわからないが

その話を
信じるのなら

わたしは
ず〜っと
泣くなの命令を
出し続けていて

最近
それを解除することを
許せるようになったということなのか


何にせよ
今まで張りつめていたものが

柔らかさに
変化して
表情も優しくなった気がする

そんな自分も悪くない


公園を
散歩していると

少し前を
老夫婦が
手を繋いで
仲良く歩いている

あぁ
こんなふうに
一緒に
歳を重ねていけるって
素敵だな

そんなことにさえ
泣きそうになるのだ

当のわたしは
結婚20年

大学生と高校生の
娘2人も手がかからなくなり

ポッカリ空いた隙間を
何で埋めようかと
思案中だ

夫との仲も
悪くはないが

トキメキもなく
お互い
空気のような存在に
なりつつある

そういえば
夫の前でも
泣いたことないな

夫の前で
泣くことができたなら
関係は
変わっていくのだろうか


若いころ
遠縁の
おじいちゃんの家に
遊びに行ったとき

亡くなった
おばあちゃんの為に
旬の果物や好きだったものを
お供えしたり
(自分は食べないのに)

おばあちゃんの洋服を
買ってきたりしてるのを見て

愛されるって
こういうことなのかなって
微笑ましく思えた

今のわたし達に
その絆が
あるのだろうか

幸い
どちらかが
死ぬまでには
まだ
時間があるはずだ

今からでも
積み重ねていけばいい

手始めに

一緒に手を繋いで
映画でもみて

彼の前で

泣いてみることから
始めてみようか

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