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ウォーレン・バフェットの投資手法は、結局何が凄いのか

コロンビア・ビジネススクール(Columbia Business School, 以下CBS)の代表的な卒業生として、最も名前が挙がるといっても過言ではない、投資家ウォーレン・バフェット(他にも著名なところでは、大手PEファンドKKRの創始者ヘンリー・クラビスなどもCBSの卒業生)。先日ツイートした下記のAdvanced Corporate Financeの一環でウォーレン・バフェット、及び彼が保有する投資会社バークシャー・ハサウェイの投資手法を詳細に分析したため、そちらを日本語化し、共有したいと思います。

 1. 投資企業としてのバークシャー・ハサウェイとGEの違いは何か 

バークシャー・ハサウェイとGEは、①ビジネスモデルと構造、②投資戦略、⓷業績と評判、④株主関係の4点で大きく異なります。 

ビジネスモデルと構造

  • ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイは、基本的に多数の事業の持株会社で、保険(GEICO)、鉄道輸送(BNSF)、公益事業とエネルギー(バークシャー・ハサウェイ・エナジー)など、多様な事業を所有しており、加えてApple、アメリカン・エキスプレス、コカ・コーラといった大企業のマイノリティ株を大量に保有しています。

  • 一方で、GEは、航空、電力、再生可能エネルギー、デジタル産業、ヘルスケア、製造業など様々な分野で事業を展開するコングロマリット企業。傘下に複数の事業を持つが、バークシャーとは異なり、一般的に外部企業の少数株式ポジションは持たず、中核事業の運営に重点を置いているのが特徴。GEはバークシャー・ハサウェイとは異なり、2008年の金融危機後、金融部門であるGEキャピタルの大部分を切り離し、金融サービス・セクターへのエクスポージャーを大幅に削減しています。 

投資戦略

  • バークシャー・ハサウェイは「バリュー投資」の哲学に依拠し、割安で強い競争力を持つ企業に投資することを企図しており、多くの場合、買収した企業には手を出さず、既存の経営陣に経営を任せます。

  • 一方でGEは、買収と事業再編を通じて成長を加速させてきた歴史があり、同社の戦略は、効率性と収益性を向上させるために、事業シナジー、コスト削減、業務の合理化に重点を置くことが多いです。 

業績と評判

バークシャー・ハサウェイは、株主価値創造の目覚ましい実績を示し、その長期的で価値志向の投資アプローチで高い評判を築き上げています。

一方でGEは、20世紀には大きな成長・成功を収めましたが、21世紀には大きな課題に直面し(特に2008年の金融危機時)、その課題に対処するために事業を売却し、再編成してきた歴史があります。この違いの顕著な例は、2008年の金融危機時の対応です。

  • GEの金融サービス部門であるGEキャピタルは、多額の短期負債を抱えており、コマーシャルペーパー市場に大きく依存していたため、金融市場が凍結した際、短期債務のロールオーバーや新たな資本調達に手間取り、流動性危機を誘発。

  • 結果として、GEはバークシャー・ハサウェイに資本注入を依頼。依頼の背景は、バフェットの投資は多くのケースで将来性を見込める投資のシグナルとみなされるため。

  • 2008年10月、バークシャー・ハサウェイはGEに30億ドルを投資し、10%の配当(または年間3億ドル)を支払う優先株を購入し、さらに1株当たり22.25ドルの行使価格で30億ドルのGE普通株を購入するワラントを受領。この動きは、同時期におけるバフェットのゴールドマン・サックスへの投資と同様。

  • バークシャー・ハサウェイからの投資は、GEの財務状態の安定化に役立ち、また市場が大きく不安定な時期に、同社に対する信頼を提供。 

株式所有構造と株主関係

  • バークシャー・ハサウェイの株主は、個人投資家の保有する割合が非常に高く(約80%)、一方でGEは個人投資家が保有する割合は40%程度。

  • バークシャー・ハサウェイは、株式の回転率の低さからも明らかなように、株主との関係が強く(例:2007年時に同社の発行済み株式は15%未満しか売買されておらず、米国の典型的な大企業であるエクソン・モービルの109%に比べれば、その差は歴然)、年次株主総会の出席率の高さにも表れている。対照的に、GEの株式は市場で活発に売買されており、1日に数千万株が売買されることもよくある。

  • バークシャー・ハサウェイは、長期投資家を惹きつけるための様々な政策をとっており、例えば普通株式の分割を行わないこと、定期的な財務ガイダンスを行わないこと、電話会議や投資家会議などの典型的なチャネルを通じてウォール街と関わらないことなどが顕著な例として挙げられる。 

2. バフェットが採用した従来的な投資の原理原則は何か

  • “Circle of competence”: バフェットとチャーリー・マンガーは、自分たちが理解していることにのみ投資を行うことを原理原則としており、“サークル・オブ・コンピタンス”と呼ばれる、彼らの知識や能力の境界線を明確に定義し、彼らが本質的な競争力の源泉を理解できない企業への投資は避けている。

  • ”Safety margin”(安全マージン): これは、会社の買収が健全であることを保証するために用いられる指標(建築工学における、建物が瓦解しないために必要なバッファーが言葉の由来)で、事業評価における経営陣の判断ミスや予期せぬ出来事からの財務を守るためのバッファーを用意。

  • “Economic moat”(エコノミック・モート): バークシャー・ハサウェイは、長期にわたって収益性を維持できる強力な競争優位性=「エコノミック・モート」(コストリーダーシップ、ブランド・商標、特許等)を持つ事業へ投資することを企図。

  • ポートフォリオ企業の経営陣の人間性管理: バークシャー・ハサウェイは、誠実で有能な経営者が経営する企業に投資することに拘っており、リーダーシップにおける知性・エネルギーとともに、誠実さの重要性を強調している。経営者に対しては法的順守と評判の観点から、最高水準の誠実さを維持することが求めており、管理職の意思決定による評判リスクを考慮するためのプロトコルとして、新聞テスト(各経営陣の意思決定を翌日の新聞の見出しで見た時にどう感じるかを基に意思決定すべき、という指針)を使用。

  • 報酬体系: バークシャーの子会社の経営陣は、バークシャー・ハサウェイ全体の業績ではなく、個々の事業部門の業績に基づいて報酬を受け取る。この報酬モデルにより、管理職は個々の会社の利益のために行動するようになり、その結果、バークシャー・ハサウェイ全体に利益がもたらされるようになることを企図。

  • 長期的な経済性の重視:バークシャー・ハサウェイは、すべての投資決定が長期的な収益性の向上に向けて行われるようにしており、会計や財務報告への影響は最小限にとどめ、ビジネスが生み出す可能性のある将来の価値に重きを置いている。 

3. バフェットが採用した非従来的な投資の原理原則は何か

  • 限定的なDD(デューデリジェンス): 企業を買収する前に大規模なデューデリジェンスを行う一般的な企業とは異なり、バークシャー・ハサウェイは非常に限定的なデューデリジェンスを実施する。バフェットは、コンサルティングファームや監査法人よりも、事業とそれを経営する人々に対する自分の判断に重視しており、この非従来的なアプローチはリスキーに捉えられることもあるが、時間をかけたDDを行う必要があるということは、既に何かしらの問題がある可能性が高いと考えている。

  • スピーディーなディール実行: ほとんどの企業は、交渉と取引の最終決定に時間をかける。しかし、バフェットは迅速な取引を信条としており、売り手が提示した価格が自身が納得できるものであれば、それに同意し、取引は迅速に成立させる。この直感に反する手段は性急に見えるが、バークシャー・ハサウェイでは、事前に慎重に企業や経営者を選んでいることから、このスピード感でのディール実施がうまく機能している。

  • 負債の非利用: 多くの企業や投資家が買収やその他の投資資金を調達するために負債を多用しているが、バフェットは一般的に負債を避けることを好む。

  • 統合なき買収: バークシャーは企業を買収するが、殆どのケースで、企業構造に強制的に統合することなく、独立した経営を認める。経営陣は自由に協業の機会を探ることができるが、バークシャーからトップダウンでそれを強制されることはない。

  • マスター戦略の非保有: バークシャー・ハサウェイは包括的な戦略計画を持たず、加えて会社内に経営企画チームも存在しない。その代わりに、投資機会が訪れたときにバフェットとマンガーが柔軟かつ迅速に行動することを信条にしている。

  • 長期保有: バフェットは、株式市場の大半を占める短期売買の考え方とは対照的に、無期限保有を意図して株式を購入することが多い。彼の長期的なアプローチでは、短期的に業績が芳しくない企業であっても、その企業の長期的な将来性を信じる限り、投資を継続することもある。

  • 短期的な財務ガイダンスの不在: 多くの企業とは異なり、バークシャー・ハサウェイは四半期や年間の業績ガイダンスを提示しない。短期的な市場・投資家に向けの宥和策よりも、長期的な価値創造を重視している。

  • 定期的な投資家会議の非実施: バフェットとマンガーは、定期的な投資家会議やアナリスト・ミーティングを行わず、投資家との主なコミュニケーション手段は年1回の株主書簡のみである。

  • 株式分割の非実施: バークシャー・ハサウェイは、小口投資家が投資しやすいように頻繁に株式分割を行う多くの企業とは異なり、長期投資家を惹きつけるためにクラスA株比率を高く維持している。

  • 配当の非実施: バークシャー・ハサウェイは、かなりの数の黒字企業を所有しているにもかかわらず、株主に配当金を支払っていない。その代わり、バフェットは利益を事業に再投資するか、新しい事業の買収に使うことを信条としている。 

4. バフェットの成功の秘訣は何か。バリュー投資は他の戦略に勝っていると思われるか

バフェットのアプローチがバリュー投資の一形態であるということは正しいが、彼の成功をこの戦略のみに帰するのは単純化しすぎている。彼の成功は、原理原則、戦略、習慣、そして個人の特質が独自にブレンドされた結果だと考えられ、加えて彼のアプローチは、多くの個人投資家が再現するのが非常に難しいスキルと忍耐力が必要であると思われる。 

  • 長期バリュー投資: バフェットの基本哲学。彼は短期的な変動や時流には興味がなく、その代わりに永続的な価値を持ち、長期的に好業績を上げると信じる企業に投資を行う。しばしば「Buy and hold forever(投資後、永遠に保有し続ける)」という言葉を用いて、自身のアプローチを表現しており、コカ・コーラやアップルのような企業への投資は、この戦略の典型例。

  • 複利の力: バフェットは早くから投資を始めており、彼の富は長期間にわたる「複利の力」の証である。単に賢い投資判断をするだけでなく、その判断が長期にわたって報われるような仕組みを構築することが重要。多くの投資家とは異なり、バフェットは自分の投資が高く評価されても、慌てて現金化することはなく、彼は投資を成長させることを企図し、しばしば同一銘柄を何十年も持ち続ける。この忍耐力によって、彼の投資は時間とともに価値を大きく高めていく傾向がある。

  • 理解可能なビジネスへの投資: バフェットは、自分がよく理解しているビジネスにしか投資しない。彼はしばしば「サークル・オブ・コンピテンス(Circle of Compentence」について語り、投資家に自分の専門分野に留まるよう助言している。このアプローチは、理解不足による過度のリスクを伴う投資を回避するのに役立つ。

  • 慎重なリスク管理: バフェットは負債を嫌い、「安全マージン」を維持することに重点を置いていることで知られている。彼はしばしば、重大な財務上の危険から自身を絶縁することを重視している。

  • 経営陣の人間性評価: バフェットは、企業の財務状況だけでなく、経営陣も重視している。彼は、頭が良く、献身的であるだけでなく、高い誠実さを持つ人物が経営する企業を探し求めており、優れた経営陣が企業の長期的成功に大きく貢献することを理解している。

  • 経営陣の自主性の尊重:組織は、買収のプロセスにおける経営陣の信頼性を高く評価し、買収後に包括的な権限を与える。このアプローチは、絶対的な経営陣の自主性による会社の継続的な運営を促進する。目先の結果にこだわらないため、買収前の熱意を維持しつつ、長期的な経済的要因を前提とした戦略立案や意思決定が可能となる。

以上いかがだったでしょうか。下記にもMBA、戦略コンサルでの学びを纏めたnoteを作成しているので、そちらも参考になれば幸いです。

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