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コロンビアビジネススクールからMBAの価値を考察する-1

MBAでの生活に通じて色々感じることがあり、記事を書きたいと思っていたのですが、日々の生活がバタバタしていたこともあり、渡米してから2か月半たって、ようやく一つ目の記事を書いていきたいと思います。今後はできる限り短いスパンで、コロンビアビジネススクールでの学びを発信していければと思います。

今回はビジネススクールの授業にフォーカスし綴っていければと思います。

今学期は最初の学期ということもあり、全ての授業はコア科目として履修が必須となっています。1つのセメスターは各6週間の前期と後期に分かれ、各期5~6つの授業、1つの授業当たり1.5単位がもらえる仕組みです。卒業までに60単位が必要なため、4つの学期で15単位程度ずつを取得していく形です。

一学期目の前期のコア科目は、リーダーシップ論、バリュエーション、統計、会計、ストラテジー、マネジリアル・エコノミクスの6つでした。各授業の具体的な考察に入る前に、MBAの授業全般を振り返り、良い点、悪い点について私なりに感じたことを述べたいと思います。


MBAの授業の良い点・悪い点

良い点としては、やはり教授の全体的な質が高いこと、結果として教授-学生間で双方向的なコミュニケーションが促進され、座学だけでは得られない学びが生まれていることだと感じます。各授業が終了すると、生徒が教授を評価・フィードバックする仕組みが整っており、教授も生徒の反応を注意しており、結果として授業の質が向上していくという、正のサイクルが生まれていると感じます。日本の場合、教授が一方的に学生を評価し、学生側が教授を評価するということはなく、結果として「一度教授になってしまえば安泰」という環境だと思います。そういった環境下では教授が良い授業を提供しようというインセンティブを失い、結果としてアカデミアの質が低下するという負のスパイラルになっていると米国のMBAと比較して感じます。下記のツイートでも述べましたが、コロンビアビジネススクールでは、20代の若い教授も一定数存在しており、教授の選定において健全な市場原理を働かせることで教授・授業の質を担保しています

もう一つの良い点は、徹底的に実社会で活かせることを意識したカリキュラム・コンテンツになっていると感じることです。勿論、ビジネススクールであるため、他の修士課程と比較しても、実社会に即した学びを提供するという側面が強くなるとは思いますが、非効率な手法(例:ググればすぐに分かる内容・公式を暗記させる)は教授、学生ともに可能な限り避けていると感じます。本質的で重要なコンセプトの粒度を理解させることを意図しており、全体観を捉えるという観点では非常に効率的な学びのカリキュラムが整っていると感じます。

一方で悪い点としては、一部の教授はその人自身の明確な考え・答えを持たないまま、学生からの意見を聞くことに終始する人もいることです。ファシリテーターであれば、その役割で十分ですが、授業という形態で教授と学生という立場であれば、やはり議論のイニシアティブはしっかりと教授が握り、学生からの発言のエッセンスをどう集約し、教授自身が事前に考えている見解・答えに結び付けていくかが、「優秀な教授」と「いまいちな教授」の大きな違いだと思います。加えて、学生間でも発言の質に偏りがあり、どうしても議論の質は玉石混交になってしまいがちな気がします。発言の質は勿論見られているのですが、「発言なし」 < 「質が6~7割でも発言すべき」という風潮であることを踏まえると、この点は授業のスタイル上仕方がない事な気もします。

各授業からの学び

具体的に一学期目の前期の各授業を考察していきたいと思います。

リーダーシップ論:コロンビアビジネススクールで最初に履修が必要となる科目で、意思決定プロセス、交渉術、コミュニーション、ネットワーキングについて体系的に学ぶ授業です。日本の大学ではどうしても座学/ハードスキルに偏重しがちですが、ソフトスキルも体系化することで基礎的な素養になるとして米国MBAは重視していることを感じます。具体的な内容としては、行動経済学の要素を多く含んでおり(アンカリング、ヒューリスティック、確証バイアス、プロスペクト理論など)、それを活用することで、どういった意思決定を行う/リーダーシップを取るべきか、についてケースを取り上げながら議論していきます。特に興味深かった事例は、NASAのスペースシャトルのチャレンジャー号爆発事故を取り扱ったケースで、公からの大きなプレッシャーを踏まえ、どうしてもスペースシャトルを発射させたいNASA上層部に対して、職位の低い連中が発射することに大きな懸念があることを伝えることが出来ない会議の様子は、人間心理を端的に表現した事例として印象に残っています。

バリュエーション:投資のNPV(正味現在価値)、債権/株式価格の算出方法、オプション価格を算出するブラックショールズ理論までというバリュエーションの基礎的な内容を広く浅くカバーする授業です。コンサルタントとして仕事をしていると、バリュエーションの概念を意識して仕事をする機会はほぼないため、個人的には新たな学びも多い、面白い内容でした。特に株式価格を算出するゴードンモデル(GGM)のP=D/rE-g (P=株式価格、D=配当、rE=割引率、g=配当成長率)のシンプルな式は、配当成長率を一定で捉えるなどの制約があるものの、安定成長期の米国企業の株価を見る際の一つベンチマークになり得るなと感じます。

統計:いわゆる経済学部で実施する統計学と同様の内容です。正規分布、標準誤差、信頼区間、回帰分析、等を学びながら、実際のビジネス現場でどのように統計を活用すべきを意図した授業です。内容自体は元々学部時代に学んだことがあっただけにそこまで新たな学びはなかったが、社会人を5年以上を過ごし、「統計的に有意である」ことをきちんと説明できることの重要性はいくつかのプロジェクトで感じたことがあったため、その点に関して時間をかけて深く理解できたことは良かったように感じます。戦略ファームで働いていると、一定の割合で「消費者サーベイ」というものを実施します。消費者サーベイは消費財・小売り企業のBDDやプライシングのプロジェクトで行われることが多く、マクロミルや楽天インサイトなどのサーベイ調査企業を活用して、いくつかの候補施策について、それぞれ顧客はどのように知覚するか、どの施策を実施していくべきか、などを定量的に調査していくものです。その際に、どの程度のサンプル数を確保することが、統計的に有意と言えるのか、どのくらいの信頼度で確からしいのか、をきちんと説明するという観点からも統計の知識は必須であり、社会人経験を踏まえて、改めて統計学は学ぶ価値の大きい学問だと感じました。

会計:こちらは前期・後期にまたがって1学期間かけて、財務3表の作成、収益認識基準、原価算出などをカバーする授業です。シンプルに言えば簿記2級を少し簡易化した授業と考えてもらうと分かりやすいかと思います。基礎的な会計知識は保有していることもあり、こちらの授業も新たな学びという点では限定的ではありましたが、コンサルタントとして働く際は、PL(損益計算書)にフォーカスして見ることが多く、CF(キャッシュフロー計算書)を見る必要がある機会も限定的、BS(バランスシート)についてはROICの算出時や競合他社とのベンチマーク時に資産の一部項目を考慮する程度しか確認することはないため、改めて財務3表をスクラッチから作成するのは良い復習になると感じました。加えて、会計を英語でやること自体には大きな意味があると思っており、海外チームと協働するプロジェクトでも会計知識が基盤となるケースが多いので、その観点では学ぶ意味があるものだと感じています。

ストラテジー:様々なケースを通じて、各企業の競争優位性を理解する授業です。Apple、ZARA、Samsungといった所謂MBA好みのケースから、Monsanto(バイエル社に買収された遺伝子組み換えラウンドアップ種子を販売していた大手化学品企業、「モンサントの不自然な食べもの」というドキュメンタリー映画は一見の価値あり)、Maersk(海運コングロマリット)、Brooklyn Brewery(ニューヨークのクラフトビール)といった日本人にはあまり馴染みのない企業まで12の企業のケースを読み、授業内での討議を行う形式です。シンプルかつ分かりやすく、本質を捉えているなと感じた本授業での学びは、企業の競争優位性は顧客のWTPを上げるためのブランディング、マーケティングを行う or コストリーダーシップ戦略・規模の経済を確立し価格の面で競合に勝っていく、のいずれかしかないということです。ケースの内容自体は面白いものが多かったのですが、各ケースで重要な意思決定がされた際の判断軸がなんだったのか、失敗した場合はその原因がなんだったのか、を体系的にアプローチされなかったことが個人的にはいまいちだなと感じる要因でした。具体(各ケース)と抽象(そのケースから汎用的に言えることは何か)のバランスがそこまで良くなく、当たり障りのない表面的な議論に終始することが多かったと感じ、そういった点はコンサルファームでの論点の深堀と比較すると浅いな、と感じました。

マネジリアル・エコノミクス:所謂ミクロ経済学を基に、企業の行動を経済学的な手法を用いて考察する授業です。プライシング、需要供給の均衡、ゲーム理論、オークション理論、プリンシパル・エージェント理論などを幅広くカバーします。自分のバックグランドに関連する点もあると思いますが、限界収益・限界費用を考慮したセグメントプライシングや、外食チェーンなどフランチャイズビジネスを踏まえたプリンシパル・エージェント理論は実際のビジネスでもある程度応用できる重要なコンセプトだと改めて感じる機会でした。

結局、MBAの価値って・・・

結論、最初の学期のコア科目は日本の経済学部+商学部の内容でビジネスの現場に活きる内容を凝縮したものになっていると感じます。そういった観点から、経済学部出身でコンサルバックグランドの私にとっては、授業の内容自体はそこまで目新しいものがあるわけではないですが、「英語」で他国の優秀な人たちとアウトプットを創出していく過程自体には学ぶことが多々あると感じます。学部自体にもグローバルランキング20位内の大学に交換留学していた経験がありますが、それと比較してもコロンビアビジネススクールに来ている学生の質は全体でみると非常に洗練されていると感じます。勿論、勤務経験があること、戦略ファーム出身者が2~3割存在(特にマッキンゼーからの社費は本当に多い)することに起因する部分もあると思いますが、それでも「細部への拘り」や他者と議論しながらアウトプットの質を昇華させていくメソッドからは学ぶ点が多々あると感じます。加えて、「簡単には学位は授与しない」ということなのか、それ相応に工数をかけて予習・復習、課題を行う必要があることは勿論のこと、試験期間は1週間毎日4~5時間の試験があるなど、米国トップスクール/アカデミアの権威の理由が垣間見えている気がします。

今回はMBAの授業にフォーカスをあてましたが、今後は各国から来ている学生のプロフィール、インターン・就職先、具体的な給与・賞与体系、授業外での活動からの学び(ビジネススクールでは毎日のように何かしらのイベントが開催されており、その中でも興味深いと感じた、ノーベル経済学賞で教授のJoseph Stiglitzと、リーマンショックの裏側を描きアカデミー賞を受賞した「インサイド・ジョブ」に登場する元コロンビアビジネススクールの学長Glenn Hubbardのセッションや、ニューヨークタイムズ記者2人による「When Mckinsy Comes to Town」(マッキンゼーが各国経済、グローバル企業にどういったネガティブな影響を与えているかをまとめた本)に関するセッション、等)なども発信していければと思っています。

下記にもMBAでの学びを体系化した本の紹介や、MBA受験体験記(準備開始から合格まで)を纏めたnoteを作成しているので、そちらも参考になれば幸いです。

今後もMBA、資本主義におけるキャリア(特にコンサル、PE)の考え方などを発信していきますので、是非「いいね」、「サポート」をしてもらえると嬉しいです!

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