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患者さんを捉える -右手に痛みがある症例 後半-
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
手関節の背屈運動で手背に痛みが生じる。
問題は手関節の掌側偏位であった。
背側骨間筋の強化で可動域拡大と痛みの軽減があったが痛みが残っていた。
そして、体幹の左回旋運動で痛みが消失した。
今回、体幹の右回旋の可動域が左に比べて大きく、優位であることが問題なため、その原因を探る。
Q)何が原因か?
A)日常で体幹の回旋を頻繁に使うのは歩行である。
Q)歩行のいつ、体幹の回旋を使うのか?
A)TSt~PSw、TSw~ICで歩幅を稼ぐための骨盤回旋時で使う。
Q)歩行の状態は?
A)右が左に比べてToe outである。
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また、歩行時のTSt~PSwの骨盤を触診で見ると、左が右に比べて後方回旋であった。
これは、体幹の右回旋が左回旋に比べて大きいことを意味する。
Q)なぜ、左骨盤が右に比べて後方回旋なのか?
A)症例は下肢に既往がないため、左立脚時間が右に比べて長いことが考えられる。
Q)長い原因は?
A)左はToe inなので、右に比べて足指への荷重到達時間が長い。
Q)Toe inの原因は?
A)Toe inの原因の一つに、けりだ出しのための前足部剛性作用がある。
Q)それは?
A)Toe inは外側荷重になりやすいので、下腿三頭筋が働きやすくなる。
これは、前足部剛性として距骨下関節回外作用が使いやすい。
逆に、Toe outは母指に荷重が乗りやすくなる。
その場合、足指伸展による足底腱膜伸張を利用したウインドラス機構が働きやすい。
ここで、ウインドラス機構を効率よく働かせるためには、足底腱膜の伸張が必要である。
足底腱膜は足指の伸展で伸張される。
それを上げるのに内側縦アーチがある。
そこで、左右の内側縦アーチを調べた。
予想としては、右がToe outなので、右内側縦アーチが高い可能性がある。
Q)結果は?
A)左内側縦アーチが右に比べて高かった。
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Q)通常であれば、ウインドラス機構を発揮させやすい内側アーチ高がToe outになると考えるが、逆である。これは?
A)Toe out、Toe inは足部とは関係ない箇所の影響である。
Q)どこか?
A)足関節の外転、膝関節や股関節の外旋可動域の問題が考えられる。
Q)評価では?
A)股関節の回旋に左右差があった。
Q)どのような差か?
A)外旋が右>左、内旋が右<左である。
また、エンドフィールも硬く、骨性を感じさせるものであった。
そこで、股関節回旋において骨の形状と関係する場合は、前捻角と関係するので、それを調べた。
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結果として、右は左に比べて外旋(前捻角が小さい)であった。
よって、症例のToe outは股関節の形状で、理学療法ではどうにもならない。
Q)問題は、立脚期延長の左Toe inであるが?
A)左はToe inで距骨下回外が優位にあるにも関わらず、ウインドラス機構に有利な内側縦アーチも右に比べて高かった。
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Q)それが?
A)症例は歩行、動作では左下肢を主に活動している。
Q)前捻角が小さいことと、どう関係するか?
A)通常、蹴り出し優位脚と逆の脚が立脚を主にする。
ところが、症例は立位でも左荷重なため、左が両方を担う。
この原因として、右前捻角減少の問題とその肢位で安定させる筋力の低下が考えられる。
その可能性を示すものとして、右脚体重支持立位では、左脚体重支持に比べて股関節が内転位である。
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これは、右脚体重支持では筋と言うよりも、腸脛靱帯や関節包・関節包内靱帯の張力を使用して支持している可能性が高く、股関節安定化筋の低下を伺わせる。
また、関節包・靱帯支持のため骨頭と臼蓋がズレ、結合組織にもテンションがかかり、違和感を感じたことが考えられる。
体格のある症例の歩行時の推進力として、足関節の最大作用筋である下腿三頭筋とそれだけでは足りない分をウインドラス機構でカバーしていた。
そのためのToe inが立脚時間を延長させ、今回の手の痛みの原因の一つになった。
Q)どうすればよいか?
A)右股関節の安定化を図り、左右の立脚時間の差を減らすことで、骨盤から体幹の回旋の左右差を減らす。
Q)なぜ、右股関節の安定化を図ると左右の立脚時間の差が減るのか?
A)左足はToe inで下腿三頭筋優位の肢位であるが、その作用だけでは不十分で、母指方向の荷重を加えてウインドラス機構も使用している。
その分、立脚時間が延長される。
右は、股関節の不安定化による立脚時間の減少と蹴り出しの低下が起きている。
股関節が安定すれば、それが少し解消されて右立脚時間が延長される。
また、右蹴り出しにより、左蹴り出しを少なく出来る。
Q)股関節の脆弱筋として何が予測されるか?
A)右の前捻角が減少しているので、大転子は通常より後方に位置する。
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Donald A.Neumann 原著 嶋田 智明 他監訳:筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版 より引用
よって、股関節安定化筋で大転子より後方にある筋は短縮し、前方では伸張される。
ここで、股関節安定化筋には、外旋6筋、腸腰筋、小殿筋、恥骨筋、内外転筋合力、などがある。
予想としては、大転子後方の短縮筋の機能低下が考えられる。
しかし、評価しなければわからない。
Q)評価では?
A)今回は実施しなかった。
理由は、体幹回旋運動で痛みが消失したからである。
但し、体幹の回旋運動を止めると元に戻るようであれば評価が必要になる。
経過のまとめ
右手関節を自動背屈させると手の背部に痛みが生じる。
痛みは右手関節の掌側偏位が原因であった。
掌側偏位を減らすため手背屈筋群を強化した。
痛みは減少したが2週間のexでも残っていた。
手関節以外では、体幹の右回旋優位が影響していた。
体幹の右回旋は左Toe inによる左立脚時間の延長が原因であった。
左Toe inは右股関節前捻角減少と右股関節不安定性が原因の可能性があった。
右股関節安定化筋の評価が必要である。
今回、このような痛みが起きた推論
先天性の右股関節前捻角の減少により、無意識下で右股関節をかばい、それが右股関節安定化筋の低下を招いた。
それにより左下肢優位の歩行となり、体幹の回旋の左右差を生んだ。
歩行で生じた体幹右回旋は、動作でも頻繁に使用されるようになり、それを高めるために筋連結を介して右手関節掌屈筋の緊張が高まり、右手関節の掌側偏位を生じた。
それに加え、利き手、仕事での上肢の使用量から今回の痛みが生じた。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
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