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立脚期が不安定な片麻痺症例

以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。

情報)
高齢の方である。

左基底核の梗塞で右片麻痺である。

発症は10年程前である。

元々、歩行器で自宅内歩行が自立していた。

但し、麻痺の分離が低く、緊張が高いため、右下肢にはSHBを装着している。

歩行器歩行の状態は、右の上肢と下肢の緊張が高く、右肩は下制して体幹は麻痺側に側屈している。

下肢の振り出しは、屈曲と伸展パターンが見られてぎこちないが、クリアランスは確保されている。

右下肢を振り出して、その後、左下肢の振り出しで、右立脚期の足に左足を揃える歩行である。

右立脚期では全般に踵が浮いて前足部支持である。

この時、右Toe inで膝関節は伸展位である。

上肢は補助手レベルである。

それでも歩行器歩行は安定している。

しかし、歩行器からベッド、食卓、トイレ移動など歩行器から離れることで、上肢での支えが充分に行なえない場合、右下肢の前足部荷重では不安定であり、転倒の危険性がある。

今回、右立脚期で支持基底面を広げられないか検討した。

Q)どのように考えればよいか?

A)発症してかなり経過しているので、これ以上の分離は難しい。

ここで、右下肢はtoe inである。

toe inは、下腿三頭筋に刺激が入りやすく、下肢の伸展パターンを促し、踵も浮きやすくなる。

そこで、少しでもtoe outに持って行き、緊張を和らげで支持期底面を広げられないか考えた。

Q)右Toe inの原因は?

A)膝関節は伸展位で、足はSHBを装着しているので、股関節の内旋が考えられる。

Q)評価では?

A)股関節外旋可動域に左右差(左>右)はあったが、歩行時ほどの内旋可動域制限はなかった。

エンドフィールから、筋緊張による影響が考えられた。

Q)股関節内旋筋の緊張は、どうして起きているか?

A)股関節内旋筋には、股関節外転筋群、内側ハムストリングスがある。

歩行器歩行を見ると、右遊脚期でぶん回しは見られず、骨盤後方回旋位から下肢を前方に振り出す。

この時、ぎこちない膝関節の屈曲とその後に膝関節のぎこちない伸展が起こる。

このぎこちなさは、膝関節に対する拮抗筋の協調した収縮ができないことが考えられ、拮抗筋同士の痙縮が起きていることが伺える。

Q)拮抗筋同士の痙縮が起きるのは、なぜか?

A)右下肢の遊脚時、体幹の側屈は強まり、上肢の屈曲方向の緊張も高まる。

体幹が側屈してしまうのは、ほどよい収縮ができず、左体幹側屈筋との協調が行なわれていないことが考えられる。

それは、麻痺による痙縮の影響ではないかと考える。

Q)上下肢の緊張は?

A)筋連結で考えると、上肢屈筋と腹直筋、大腿直筋と腹直筋、ハムストリングスと脊柱起立筋がつながるので、骨盤を引き上げるための体幹側屈筋の収縮を高めるための作用と考える。

Q)評価は?

A)体幹筋の使用が大きい、寝返りと起き上がりで右上下肢の緊張を確認した。

寝返りでは、左寝返りで反応はなかったが、右寝返りで右下肢の伸展パターンが出現した。

Q)これは?

A)右寝返りは、右内腹斜筋と左外腹斜筋が使用される。

ここで、下肢の伸展パターンが出現することから、この時、腹直筋が使われていることが考えられる。

Q)なぜ、腹直筋?

A)外腹斜筋と内腹斜筋は腹直筋鞘と白線に停止する。

腹直筋を収縮させることで、これら筋の収縮を促したことが予想される。

ここで、麻痺は右なので、収縮が弱いのは右内腹斜筋が考えられる。

Q)起き上がりは?

A)これは、最も体幹筋、特にパワーのある腹直筋が使われる。

起き上がりは、一人では行えず介助であった。

起き上がりの最初は、下肢の屈曲パターンが出現し、その後、伸展パターンが出現した。

この伸展、屈曲パターンの出現の推論として

起き上がり当初が最も体幹の屈曲筋が使われるが、この時点では、起き上がれる力はないので、起き上がり介助で体幹が屈曲方向に動くことに対して、脊柱起立筋の収縮で脊柱へのストレスを和らげるためのハムストリングスの緊張による下肢の屈曲パターンの出現する。

その後、体が起きて、自身の体幹筋を使用して起きれる可能性から、腹直筋が使用されたことによる下肢の伸展パターン出現ではないかと考える。

Q)なぜ、このようなことが起きたのか?

A)これも推論になるが

中枢が損傷されると、支配神経が多いインナーから低下する。

症例は分離が不十分なので、体幹や上下肢を含めたアウター筋の作用も限られてくる。

要は、二関節や多関節筋で大きな筋が使用される。

これらは、筋連結でつながっている。

ここで、脊柱の安定化や姿勢保持、動作で限られた体幹筋を使用する。

但し、それら筋群も麻痺により出力は低下している。

そこで、筋連結を利用して筋の収縮を促して、諸動作に対応しようとした。

Q)すると、症例は?

A)インナー筋の低下で、起き上がりや寝返りの状況から内腹斜筋などが考えられる。

Q)評価では?

A)腰三角を触診すると、左に比べて右で緊張が低かった。

AnneM,Gilroy 他著、坂井 建雄監訳、市村浩一郎 他訳:プロメテウス解剖学コアアトラス第2版より引用


Q)アプローチは?

A)右の内腹斜筋、腹横筋の収縮を促す。

Q)方法は?

A)症例の麻痺は10年が経過しており、上下肢と体幹のつながりが強く、パターン化されている。

体幹への大きな負荷では、インナーは対応仕切れず、アウターで対応してしまう。

そこで、姿勢反射を利用した。

方法として

セラピストは、右の腰三角を触診して収縮を確認しながら、体幹を他動で左に傾斜させて、体幹右の側屈筋の収縮を促す。

その傾きの肢位から、軽く息を吐いて腹横筋と内腹斜筋を強調して収縮させる。

この時の傾斜角度や息の吐き方は、腰三角の緊張、腹直筋の緊張、上下肢の緊張を視診、触診で確認しながら行なった。

これを休みを含めて20分実施した。


Q)結果は?

A)歩行時のToe inの減少と支持期底面の拡大(中足部までの荷重)があった。
また、右遊脚期のぎこちなさも減少した。

問題は、これがいつまで持続するかである。

結果が出たので、継続して様子を見ることにした。


最後までお読み頂きましてありがとうございます。


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