患者さんを捉える -寝たきり上下肢屈曲位の症例-
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
高齢の寝たきりの方である。
コミュニケーションはとれず、ADLは全介助である。
四肢の屈曲位がおむつ交換や更衣、整容介助の支障になっている。
また、膝関節屈曲位が車椅子座位の妨げになる。
四肢の屈曲位を少しでも減らすことを目的とする。
Q)どのように考えればよいか?
A)状態から‘生きる’というレベルである。
脳は萎縮しており、生命維持活動が主になっている。
ご存じのように、我々は魚類から進化してきた。
魚が泳ぐ原動力は体幹である。
背骨が動くなくなったら餌を捕食出来ず、また、敵からも逃げられない。
その後、手足が出て、陸を歩けようになった。
両性類である。
しかし、手足はか細く、体にとってつけてような存在である。
そこから、は虫類、哺乳類、人へと進化して、手足が陸上を動き、食物を得る重要な役割に変わってきた。
その記憶は脳に蓄積されており、受精から胎児になるまでに、その進化の形態をたどる。
解剖学の分類においても、頭部・頸部・体幹が軸骨格、四肢と骨盤が附属肢骨格と分類されている。
Q)何が言いたいのか?
A)要するに、寝たきりになり脳が萎縮してくると、脳は根幹である体幹を守ろうと働くのではないか?
Q)どのように?
A)四肢と体幹をつなぐものとして筋連結がある。
体幹の前面は上肢屈筋や大腿四頭筋と腹直筋
体幹の後面は下腿三頭筋、ハムストリングスと脊柱起立筋である。
これら上下肢の筋収縮により腹背部筋の収縮を促し、脊柱を固定させているのではないか?と考えた。
Q)だとしたら、どうアプローチすればよいか?
A)寝たきりで、上下肢関節を屈曲させる筋の主は2関節筋であり、アウター筋である。
また、それら筋とつながる体幹筋も多関節作用のアウター筋である。
そもそも脊椎の関節の動的安定化を図るのはインナー筋であるが、それが適わないための戦略と考える。
理由は、モーターユニットの数が多く、緻密にコントロールされたインナーは、コンピューターである中枢機能の低下で収縮も減る。
そこで、インナー筋の収縮を促す。
Q)どのように?
A)インナー筋は関節の動的安定を図る。
例えば、肩を挙上させると体幹では三角筋が働く前から活動する。
これは、上肢挙上による脊柱のズレを押さえ、上肢の筋を介しての脊柱安定化を行なう必要なく、三角筋を上肢挙上に十分働かせるための作用と捉えることができる。
この筋電図を見ると、体幹のインナー筋はアウター筋が働く前に活動している。
要するに、インナー筋は初動で働くと言うことである。
よって、アプローチも負荷が少ない量で行なう。
Q)方法は?
A)
① 体幹筋の収縮を促すので、セラピストが操作しやすい端座位で行なう。
② 症例は寝たきりで、自発的動きがないので姿勢反射を利用する。
③ 体幹を左右に揺さぶる。
左右にする理由は、前後では脊椎の靱帯が多く動きが少ない分、筋の収縮が促せない。
④ 揺さぶる大きさは触診で、筋の収縮を確認しながら、その程度を調節する。
ただ、大きな揺さぶりはアウター筋が働き安くなるので、小さい方がよいかも?
⑤ 時間は、四肢、特に他動での膝関節伸展の抵抗度合いで決めるが、経験的には10分~20分。
Q)結果は?
A)四肢(特に下肢)の緊張が低下して、四肢がアプローチ前より伸びた。
但し、結合組織の萎縮による拘縮は変化しない。
Q)持続性は?
A)体幹を揺さぶる姿勢反射を利用した収縮なので、収縮量もわずかであり寝たきりでいると元に戻る。
しかし、長い期間実施すると、徐々に、その効果が持続して現れる。
月2回の実施でも、月日が経つと緊張の程度が減ってくるのを経験する。
Q)端座位の時、両足は床につけた方がよいか?
A)つけた方がよい。
理由は、下肢で踏ん張ろうと筋収縮が促せる。
その場合、膝関節の伸筋である。
しかし、うまく行なわないと膝関節屈筋が反射的に働く。
理由は、次回、お話しします。
Q)屈筋の緊張は、脊柱安定化のための作用以外で説明できるか?
A)一つは、脳の萎縮で胎生期に戻るとした考えである。
しかし、それだと、どうすればよいかわからず、結局ROMexとストレッチになる。
そのexでは、元に戻り、その繰り返しになる。
また、実施していて、ご本人がつらそうな顔つきをすると、このような状態で苦しむのはいかなるものか?と思い、何とか出来ないかと考え、今回の方法に至った。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
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